ヤフーが考える機械学習AIがもたらす「3つの自動化」

 AI(人工知能)とビッグデータ。この2つのキーワードは、これからのテクノロジにとっても、デジタルマーケティングにとっても避けて通れない重要なものだ。その実態と可能性について、インターネット業界のトップランナーはどのように考えているのだろうか。

 「ad:tech tokyo 2016」で行われたパネルディスカッション「AIがマーケティングの何を変えるのか?~活用の本質と効果を探る」で、ヤフーのチーフストラテジーオフィサーで慶應義塾大学の特任教授である安宅和人氏が、同社が考えるAIやビッグデータがマーケティングにもたらした可能性などについて語った。

安宅和人氏
ヤフーのチーフストラテジーオフィサーである安宅和人氏

AIとビッグデータ、その本質とは何か

 安宅氏は、米国エール大学で脳神経科学を研究してきたほか、コンサルティング会社のマッキンゼーにてブランドマーケティングなどに従事。ヤフーでは、CSOとして市場構造の把握と予見、全社戦略のフォーカス策定、ビッグデータ戦略の推進などに携わっている。

 このようなバックグラウンドを持つ安宅氏は、マーケティングの本質について「(モノを作って提供する一方的なビジネスではなく)世の中のニーズを理解してそれに応える方法を考えること」と示したうえで、AIとビッグデータについての基本的な考え方を示した。

 安宅氏は、自身の認識するAIについて「キカイとソフトウェアによる知覚と知性を実現するもの」と定義。その実態は、高い情報処理能力を持つコンピューティング環境に機械学習やディープラーニング、自然言語処理といった情報科学を実装し、用途に沿った形で用意した大量のデータを処理しながら訓練(学習)を繰り返すことで実現するものであるとした。

機械学習型AIの構造
機械学習型AIの構造

 「ビッグデータとAIは、表裏一体の関係にある。ビッグデータを処理するためにはAIのテクノロジが必要になり、一方でAIを育てるためには大量のデータが必要となる」(安宅氏)。

 そして安宅氏は、こうした機械学習ベースのAIがもたらすものとして、3つの「自動化」を挙げた。1つめは、情報の判断・仕訳、音声・画像・動画の意味理解、異常の検知・予知といった「識別の自動化」、そして2つめにして最も大きなものとして数値、ニーズや気持ち、意図といったことの「予測の自動化」、3つめに作業や行動、表現やデザインといった「実行の自動化」というものだ。

AIがもたらす3つの自動化
AIがもたらす3つの自動化

 加えて安宅氏は、ビッグデータについても改めて定義した。これまでのマーケティングデータは、利用データ、意識データ、ユーザー属性、利用の文脈などについて概ねすべての領域をカバーすることができた。しかし、これらのデータは一部の人(サンプル)のある一定の時間におけるデータに過ぎなかった。

 一方、ビッグデータはその内容が利用データや属性データなどの一部のデータに限られる代わりに、利用者全員をカバーすることができる“全量性(利用者から生じるすべてのデータが見えること)”が大きな特徴となる。

 安宅氏はこのデータが持つロングテール性に触れ、「ここで言うロングテールは、一般的な認識よりもはるかに長い。Yahoo!JAPANの検索では、毎日相当量検索されるキーワードは60万語しかないが、1年に1回でも検索されるキーワードは80億語以上もある。ビッグデータが持つテールはそれだけ長いということだ」と紹介した。

 また安宅氏は、このビッグデータ活用のもうひとつの特性について“リアルタイム性”を挙げ、「今までのマーケティングデータは、クリーニングして使えるようになるのは翌日以降だったが、Yahoo!JAPANのビッグデータは0.1秒で処理を行い活用している。これがYahoo!JAPANのデジタルマーケティングの本質にある。データの大きさではなく、この“全量性”と“リアルタイム性”を兼ね備えていることがビッグデータの特徴だ」と説明。こうしたAIとビッグデータの定義を基に、次のように語った。

 「世の中では“AI vs 人間”と言われるが、それは荒唐無稽だ。これからは、“自分とその周囲の経験だけから学びAIやデータを活用しない人(や会社)”と“あらゆるデータからコンピューティングを活用して学び、その力を活用する人(や会社)”の競争構造になる」(安宅氏)。

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