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プロトタイピングのアイデア発想法

谷澤正文(電通デジタル)2017年10月26日 11時00分
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 第2回で、デジタルベンチャー企業との弱い(緩やかな)オープンイノベーションの推進のためには(大きくて、現状解決困難な)社会大義のテーマ設定による高い参加モチベーションが必要と言及した。それでは、次にどのようなプロセスで、プロトタイピングのアイデアを生み出し、実施していけばいいのか?

 まず、アイデアの発想方法だが、一般的なものとして、「ワークショップ型」というものがある。数名のプロジェクトメンバーが集まり、「思いついた」アイデアをポストイットにどんどん書いて貼っていき、最後多数決で決める方法である。

 しかし、この方法では、イノベーションを生み出すアイデアは生まれにくい。そもそもイノベーションは、他人が思いつかないことを先回りして考え実行するものなので、ちょっとした思いつきで、さらに多くの人がいいと思うものは、プロトタイピングの実行コストが低い今の環境下では、もうすでに誰かが着手していると思った方がいい。イノベーションは、現状解決困難な課題に対しての挑戦なので、100人中、99、98人が「そんなのできっこない」と反対し、1、2人が賛成するぐらいのアイデアが、一番いいイノベーションアイデアだと思った方がいい。

 それでは、どのようにしてそのようなアイデアを生み出せばいいのか? 広告の企画アイデアを考えるときもそうなのだが、考える幅を極力狭くするが有効である。人は「好きなように自由に考えていいよ」と言われると、逆に、制約が無さすぎて、考えるとっかかりがつかめなくなるものである。人は「この条件下でアイデアを考えろ」と言われた方が、深く考えることができる。「自由に考えろ」と言われると途端に思考停止してしまう。

 では、どのように発想すべき幅を狭めればいいのか。それは前回提示した、社会的課題解決にフォーカスした状況下を作り出すのである。ある解決困難な社会課題に対して、「自社は本当にそれに対して解決すべき存在なのか?」、「それがなぜ自社だと出来る可能性が高いのか?」、「自社の強みに、テクノロジをかけ合わせて具体的に解決可能か?」といった問いを1つの課題に対して突き詰めて考え、その企業でしか出来ない、独創的で、深いアイデアを生み出すのである。

 また、そもそも「アイデアとは何か?」、これについてしっかりと定義しておくと、アイデアを生みやすくなる。アイデアとは、「既存と既存の組み合わせ」である。例えば、「手紙×デジタル→電子メール」、「CDショップ×デジタル→iTunes(音楽配信)」、「巨大ショッピングモール×デジタル→Amazon」、「井戸端会議×デジタル→Twitter」といった具合である。つまりテクノロジーを活用したプロトタイピングアイデアは、ある課題テーマに対して、「既存の自分たちの強みの商品・サービス」に、「テクノロジや、自社独自で入手出来る既存のデータ、AIなどのデジタル」の掛け合わせを検討してみることである。

 掛け合わせのテクノロジとして最近では、AIやIoTが盛んであるが、企業独自に入手できる特別なデータがあれば、プロトタイピングはより競合他社と差別化できる可能性が高い。AIの技術進化も大事であるが、AIに学習させるデータが独自であればあるほど、その企業にしか出来ない差別化されたイノベーションサービスができる。「既存の強み」と「独自のデータ」を持てるかどうかがカギである。

 ここで上記の手法を使った、イノベーションアイデアの例をあげよう。

(1)新市場のプロトタイピング

 例えば中高の受験市場をメインターゲットにしている学習塾を運営する教育企業。最近では幼少の頃からのスポーツエリートの育成が盛んであることに着目。今ではスポーツ科学も発達し、単に運動神経がいいだけでは伸びず、栄養学、メンタル、トレーニング方法など、豊富なスポーツ関連知識も必要で、要は賢くないとスポーツエリートにはなれない。したがって、学習塾の指導ノウハウをAI化し、アプリにすることで、スポーツエリートが練習する合間に効率良く学習するアプリを開発する。2020年に向けた、日本のスポーツエリート養成に貢献するイノベーションアイデア。

(2)新サービスのプロトタイピング

 例えば、高級ファッションブランド。これまでは会員顧客に、購入履歴をベースに新商品のレコメンドサービスを展開してきたが、今では技術的に会員アプリで、ビーコンやGPSでの行動履歴機能を付ければ、ウィンドウショッピングなどの行動履歴も把握できるので、そのウィンドウショッピングの行動履歴でより幅の広いレコメンドサービスをする。将来的には観光立国日本を代表するインバウンドサービスを目指す。

(3)新カスタマージャーニーのプロトタイピング

 例えば、ダイレクト化粧品会社。コールセンターでの問い合わせで、高確率で加入してもらうセールストークノウハウがある。しかし最近では電話での問い合わせが激変。若年層の獲得も目指して、コールセンターでのセールストークノウハウをAIチャット化し、スマホアプリで展開する。将来的には飲食などのさまざまな接客業での、若年労働人口減少の対応や、過酷な労働環境改善に役立てる。

 このように、従来のビジネスでの強みを活かしながら、AIやIoTを活用した、プロトタイプアイデア創出の可能性がいろいろある。テクノロジ活用によるプロトタイピングは、その商品・サービスと人びととの関係の間の新たな変化、ブランド体験であるというシンプルな見方をすることでさまざまなヒントが生まれる。

 最後に、プロトタイピングは、テクノロジ活用をキッカケとした企業変革への勇気ある第一歩である。一歩踏み出すことで、そこから見えてくる景色は変わる。しかもその踏み出すコストも昔に比べて安価で実施出来る。

 世界にはまだまだ解決できていない社会課題が山積していて、日本はその中でも課題先進国である。アイデアさえあれば誰でもプロトタイピングをして世の中の課題を解決できるキッカケをつかめる時代。世界に先駆けて、困難な課題を解決できるチャンスが日本にはまだまだ沢山ある。

谷澤 正文(たにざわ まさふみ)
◇著者プロフィール
谷澤 正文(たにざわ まさふみ)
株式会社電通デジタル未来ラボプロジェクト/イノベーションディレクター
2002年電通入社、以来、様々な企業様の事業戦略、ブランディング、マーケティング活動に参画し、戦略と実施を支援するイノベーションディレクター/グロースハッカー。
デジタル時代のブランド育成に注力し「データ、アイデア、テクノロジー、ストーリー」を武器に、ブランド/事業/顧客を成長させていく「ブランドグロースハック」を提唱。具体的には「PR~マス/デジタル広告~プロモーション~店舗~CRM」の統合型マーケティングを企画し、PDCAを回しながら、KPIにコミットする「ブランド&パフォーマンス」サービスを提供している。2016年7月から電通デジタルに参画。

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