前回は、将来が予測しづらい中、イノベーションを先取りするにはどうすればいいか? ということで、「失敗プロトタイピングのススメ」を取り上げた。今回は、その失敗コストを低下させるためには何が必要かを考察する。
AIやIoT技術の急速な進展や、高度なITシステムの導入で顧客獲得などの競争環境が変化する中、あらゆる業界の企業で、デジタルシフトを検討せざるを得ない状況である。しかし、テクノロジーに詳しい経営者や投資家自身でも、テクノロジー技術の進展が予測しづらい状況で、果たして企業は、デジタルを上手く取り入れ、顧客との新しい接点を構築したり、競合他社との競争に勝ち抜いたりすることが出来るのだろうか?
明らかにテクノロジの進展は、自社内だけでの開発スピードを超えており、今後自社だけの独自開発は、オープンイノベーション型開発を採用する競合他社に後れを取る可能性が高い。一方で、既存のどの会社でも導入可能なITシステムやツールの導入だけでは、競合他社との差別化を図れない状況である。また、現在のITシステムやツールの導入目的は「企業目線」での作業オペレーションの効率化や、コスト削減がメインで、「顧客目線」での顧客満足のサービス開発が出来ている企業は少ない。さらに、企業内でも、テクノロジとマーケティング/ビジネスを横断的に考えることの出来るイノベーション人材の不足や、領域毎に細分化された協力デジタルベンチャー企業の乱立により、新規事業・新規サービスをどのように構想・具体化すれば良いか分からないという問題がある。
このような状況の中、解決策として外部のデジタルベンチャー企業とのオープンイノベーションは大企業にとって今後も有効なのだろうか? デジタルベンチャー企業は、米国では2016年時点で3800社を超えている。日本でも数多くのデジタルベンチャー企業が存在しているが、テクノロジの進展が予測不可能な中で、これだと思う企業を選んで組むということも難しい状況にある。
一方で、デジタルベンチャー企業も斬新な技術は持っているものの、大企業との接点が不足しており、ベンチャーグループ間の活動だけでは、ビジネス的にスケールしないという悩みがある。従って、デジタルベンチャー企業は大企業とのコラボレーションや大企業の先の顧客へのアプローチを望んでいる。
お試しのプロトタイピングの相談であれば、海外のデジタルベンチャー企業も含め、サイト、メール、SNSチャット等での問い合わせで簡単に相談出来る環境にある。ケイパビリティの紹介もスカイプ等で、簡単に外部の方と打合せ、ナレッジ共有や、海外でも協業できる環境がある。わざわざ資本提携等しなくても緩やかな弱いネットワークで、デジタルベンチャー企業と協業することは今可能になっている。
大企業の方も、期間限定で新規事業開発部署に異動などもまだまだ多く、テクノロジとマーケティング/ビジネスの両方がわかる新規事業開発の専門の人材は少ないのが現状である。テクノロジの部分は、社外のデジタルベンチャー企業をプロジェクトメンバーとして集める方が早い。
資本提携や業務提携のような強固ではない緩やかな弱いオープンイノベーションの体制構築は、今非常にやりやすい環境である。しかしこの簡単に組めるがこその大きな落とし穴も存在する。集まりやすい分、離散する可能性も高いのである。そうならないためにも、実は弱いオープンイノベーションにこそ、各参加者の高い参加モチベーション設計が大事になるのである。
高い参加モチベーション構築のためにはどうすればいいか? それには誰もが参加したがり働き甲斐を感じる、強い社会的使命や社会的課題解決テーマなどの「大義名分」が不可欠である。「大義ファースト、課題ファーストのオープンイノベーション」である。決してこれは、社会貢献のボランティア活動をみんなでやろうというのではなく、世の中の未解決課題が大きければ大きいほど、チャレンジングではあるが、多くの人が助かり、結果多くの人が顧客になるということを目指すのである。
現在日本は、少子高齢化問題をはじめ、先進国の中でも有数の課題先進国である。高齢化、少子化、子育て支援、介護、防災、格差、地域創生、教育問題、エネルギー、雇用、気候、環境等々、さまざま社会課題が満載である。しかし、それらの課題に対し、その企業の強みとAIやIoTを活用したテクノロジの掛け合わせによるイノベーションがあれば、解決可能なものは実はまだまだ沢山ある。テクノロジーはこれまでも世の中のさまざまな社会課題を解決してきた(石油による環境問題を解決する電気自動車や、遠く離れて暮らす親の安否確認が出来るポット等々)。資本提携、業務提携などではない弱い(緩やかな)オープンイノベーションのネットワークを機能させるには、強い社会的大義の設定と、それによる強い参加モチベーションを作ることが必要になる。
次回の第3回では、強い大義と弱いオープンイノベーションの環境下で、具体的にどのように「プロトタイピング発想」をしていけばいいのか、その手法について言及する。
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