気づけば日本でも存在感、中国テレビメーカー「TCL」とは何者なのか【インタビュー】

 日本のテレビ市場において、中国系メーカーの存在感が高まっている。BCNの調べでは、1位のTVS REGZA(25.4%)、3位のハイセンス(15.7%)、4位のTCL(9.7%)と、ハイセンス傘下のTVS REGZAを含めて5割以上が中国系メーカーで占められている状況だ。

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 FIFAワールドカップ公式スポンサーなどで知名度が高まっているハイセンスに対し、2018年の日本進出から8年目でシェアを伸ばしているのがTCLだ。日本でのブランド認知度は決して高くはないものの、2025年2月には国際オリンピック委員会(IOC)と家庭用AV機器および家電製品部門のワールドワイド・オリンピック/パラリンピック・オフィシャル・パートナー契約を結んだことで、今後注目度が高まっていくことと見られる。

 OMDIAOの調査によると、TCLは85インチ以上の大型テレビの世界出荷台数やミニLEDテレビの出荷台数、Google TV搭載スマートテレビの出荷台数で2024年に世界1位を維持している。また、4K・8K液晶テレビのコア技術であるミニLED技術を世界で初めて製品化したメーカーでもある。

 そんなTCLは2025年5月に発売した最新フラッグシップモデルの「C8K」シリーズと“オリンピックブランド”を引っさげて日本市場での躍進を狙う。では、TCL製品の強みはどこにあるのか。どのような戦略を携えて日本市場を切り開くのか。TCLアジア太平洋地域の総経理を務める張国栄(チョウ・コクエイ)氏らのインタビューを踏まえてひもといていきたい。

中国・深センにあるTCL本社
中国・深センにあるTCL本社
  1. 日本のテレビ市場でシェア3位を狙う
  2. 「Virtually ZeroBorder」技術で“フレームレス”を実現
  3. 液晶パネルの進化の方向性は?

日本のテレビ市場でシェア3位を狙う

 TCLアジア太平洋地域の総経理を務める張国栄(チョウ・コクエイ)氏は「テレビ事業だけで日本市場シェアトップ3に入りたいと考えている」と語った。

 「TCLはここ10数年、パネルを製造するTCL CSOTだけでも6兆円ほど投資しており、テレビ事業を中心に発展してきた。各国で自国メーカーが強いように、日本市場を突破するには高いハードルがある。ただし、パネルの開発からテレビ製品まで一貫した生産体制を持っているTCLはこれから市場に対して大きなチャンスがあると思っている。日本市場で認められる製品を出すことや、その製品の良さを消費者に伝えること、家電量販店などのビジネスパートナーとの関係性向上、ブランド力向上などによって実現していきたい」(張総経理)

TCLアジア太平洋地域の総経理を務める張国栄(チョウ・コクエイ)氏
TCLアジア太平洋地域の総経理を務める張国栄(チョウ・コクエイ)氏

 日本市場の重要性について張総経理は次のように語る。

 「日本はテレビ市場で5000億円、生活家電で6000~7000億円ほどの規模があると見ている。この規模の国は少ないため、海外メーカーにとって魅力的だ。ただしテレビではソニーやパナソニック、生活家電ではダイキン工業など、強い技術を持つメーカーが多いため、それらのメーカーと勝負するのは我々にとって大きなチャレンジだ」(張総経理)

 一方で張総経理は次のように続ける。

 そして、「しかし、日本市場でそれらのメーカーと肩を並べ、認められることができれば、当社の技術力が世界トップレベルである証になる。日本メーカーの影響力は大きく、特に東南アジアではハイエンド=日本メーカーというイメージが根強い。日本市場でTCLのブランド力が高まれば、ほかの地域にもいい影響を与えられると思う」(張総経理)

 日本市場でのシェア向上のカギを握るのが、最新フラッグシップモデルの「C8K」シリーズだ。

 液晶テレビのパネルは、視野角が狭いもののコントラスト比が高い「VAパネル」と、視野角は広いがコントラスト比が低い「IPSパネル」の2種類が主流だ。

 このうち、TCLではVAパネルを独自技術で高画質化した「HVAパネル」を採用している。C8KシリーズはHVAパネルをさらに高画質化したフラッグシップモデル向けの「CrystGlow WHVAパネル」を採用。液晶パネルの弱点である光漏れを最小化する「ミニLED(バックライト部分駆動)」技術や、広色域化を実現する「量子ドット」技術なども採用し、表示品質を高めている。

TCL JAPAN ELECTRONICSが2025年5月に発売したフラッグシップモデルの「C8K」シリーズ
TCL JAPAN ELECTRONICSが2025年5月に発売したフラッグシップモデルの「C8K」シリーズ

 TCLのテレビ製品開発の責任者を務めるTCL BU プロダクトマネジメントセンター総経理の宦吉鋒(カン・キチホウ)氏は、TCLの高画質化技術に自信を見せる。

TCLのテレビ製品開発の責任者を務めるTCL BU プロダクトマネジメントセンター総経理の宦吉鋒(カン・キチホウ)氏
TCLのテレビ製品開発の責任者を務めるTCL BU プロダクトマネジメントセンター総経理の宦吉鋒(カン・キチホウ)氏

 「2019年にTCLが世界初のミニLEDテレビ『X10』シリーズを発売すると、その後各メーカーが追随してきた。ミニLEDはバックライトの分割数を増やして輝度も強化することで高コントラスト化する技術だ。各メーカーは分割数を増やしてきたが、それだけでは高画質化の限界が来た。そこでさらなる技術革新によって生まれたのがC8Kシリーズだ」(宦氏)

 さらなる高画質化のベースになったのが、2021年に発表した「OD Zero(Optical Depth Zero)」技術と、バックライトのソフトウエアコントロールの進化だという。一般的な液晶テレビでは、LEDバックライトと液晶層が10~25mmほど離れているが、OD Zeroは0mmまで縮小する。それによって、バックライトの光漏れを最小限にした。

 「C8KシリーズはOD Zeroまでは行かないが、距離を可能な限り短くしている。部分駆動のコントロール技術が進化したのも大きなポイントだ。ハードウエアとソフトウエアが両輪で進化した結果、分割の増加分よりも大きな効果が得られている」(宦氏)

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「Virtually ZeroBorder」技術で“フレームレス”を実現

 もう一つ、デザイン面で大きく進化したのが「Virtually ZeroBorder」技術だ。最近の薄型テレビは狭額縁化が進んでいるが、それでもフレームと画面の間に数mmから1cm以上の黒枠があるのが分かる。この黒枠を極限までなくしたのがVirtually ZeroBorder技術だ。

 「最初の液晶テレビはフレーム30mm+黒枠10mmで約40mmも見えない部分があった。その後の技術革新でフレームは10mmまで小さくなったが、黒枠は8mmくらいまで残っている。今の『フレームレス』はフレーム5mm+黒枠5~6mmまで進化した。2024年に発売した当社のフラッグシップテレビはフレーム+黒枠で合計10mmくらいある。C8Kは設計限界を突破して黒枠を大幅に削減することで、本当のフレームレスを達成できた」(宦氏)

C8KシリーズはVirtually ZeroBorder技術によってパネル外周部の黒枠がほとんどないのが分かる
C8KシリーズはVirtually ZeroBorder技術によってパネル外周部の黒枠がほとんどないのが分かる
従来モデルはパネル外周部の黒枠に加えて、フレームとパネルの間にすき間が空いている
従来モデルはパネル外周部の黒枠に加えて、フレームとパネルの間にすき間が空いている

 Virtually ZeroBorderの技術的な課題について、パネルを製造するTCL CSOTの技術企画センター センター長を務める周明忠(シュウ・ミンチョウ)氏は「電子回路の削減と防水素材の見直しによって実現した」と語る。

 「パネルの外周部にはさまざまな電子回路を設置している。それを削るために回路設計を見直し、半分以上の電子回路を削減した。液晶パネルはガラスを2枚貼り合わせているため、外周部から水の侵入を防がなければならない。防水材料が減ると水分が侵入しやすくなるため、さまざまなサプライヤーと検証し、体積を減らしても同じ機能を実現する材料を採用することでクリアした」(周氏)

 前出の宦氏は「ある日本のテレビメーカーでは、倍速駆動のミニLEDテレビ製品のうち8割以上にTCL CSOT製のHVAパネルを採用しているが、C8Kシリーズはそれよりも性能の高い『CrystGlow WHVAパネル』を採用している」と自信を見せる。

 「CrystGlow WHVAパネルは業界内で最上位の液晶パネルだと考えている。他社に対する強みとしては、Virtually ZeroBorder技術によるフレームレスが一番のポイントだと思う。ほかのメーカーにはないものなので、日本市場においても魅力的な製品になれるのではないかと思う。C8Kシリーズはわずか2mm厚のガラスの上でミニLEDモジュールを組み立てているため、開発・設計だけでなく製造能力にも相当な精度が求められる。4000時間かけて信頼性試験も行っている。日本では『匠』という言葉が使われているが、我々も、テレビの分野において匠の精神で、より良い製品を出していきたい」(宦氏)

 また、B&Oと共同開発した音響にも自信を見せる。

 「C8KはB&Oとの共同開発によって音質を強化した。単にB&Oのロゴを付けたのではなく、音質にかかわるコア部品も共同開発して搭載している。さらに部品の音質に関連するチューニングもTCLだけでなくB&Oのチームもかかわって行うことでリアルな音を忠実に再現できるようにした」(宦氏)

液晶パネルの進化の方向性は?

 2024年のテレビパネル出荷台数世界2位(OMDIA調べ)のTCL CSOTでは、同社のディスプレイの強みや、今後のディスプレイの方向性について聞いた。

中国・深センにあるパネルメーカーのTCL CSOT
中国・深センにあるパネルメーカーのTCL CSOT

 TCL CSOTの他社にはない強みについて前出の周氏は次のように語る。

 「液晶パネルだけでなく、有機ELパネルも含めてラインアップが充実している。HVA(従来のVA方式を独自に進化させた液晶パネル)だけでなく、IPS液晶、TFT液晶など合計4種類の液晶パネルを生産でき、消費者目線でラインアップを増やしている。有機ELパネルは通常方式と印刷方式があり、通常方式は従来のノートパソコンやケータイなど小型向けに生産している。印刷方式はメリットが大きい大型・中型パネルに生かしていきたい」(周氏)

 日本市場に向けて特別な製品戦略の計画はあるのだろうか。TCL CSOT TV・業務用ディスプレイKA部副部長のTony Kim(トニー・キム)氏は次のように語る。

 「TCL CSOTとしては、まず日本のビジネスパートナーと戦略的に結びついて、特にハイエンドの市場を開拓していきたい。現在、日本のあるテレビメーカーの倍速駆動パネルを搭載する4KミニLEDテレビの8割以上が当社の液晶パネルを採用している。消費者ニーズを重視するのと同様に、顧客であるメーカーの立場で最先端のテレビを提供したい。そこで経験を積みあげて、HVAパネルの技術をどんどん進化させていくつもりだ。そのメーカーとはRGBミニLEDパネルも共同開発しており、こうした高い技術をベースに自社の評価を高めていきたい。

 今後の市場の方向としては、ゲーミング向けの技術を強化していきたいと考えている。そのためには、さらに反応速度を強化することが重要だ。広州にあるLGの液晶パネル工場を買収したことで、さらに当社のシェアを伸ばすことができた。それを活用して『Virtually ZeroBorder』を生かした次世代製品を強化していきたい。Virtually ZeroBorder技術は商用ディスプレイにも展開する予定だ」(Kim氏)

TCL CSOT TV・業務用ディスプレイKA部副部長のTony Kim(トニー・キム)氏
TCL CSOT TV・業務用ディスプレイKA部副部長のTony Kim(トニー・キム)氏

 TCL CSOTは、今後「LEDディスプレイ」に注力していくと、LEDディスプレイ製品開発グループグループ長の陳麟(チン・リン)氏は語る。

TCL CSOT LEDディスプレイ製品開発グループグループ長の陳麟(チン・リン)氏
TCL CSOT LEDディスプレイ製品開発グループグループ長の陳麟(チン・リン)氏

 LEDディスプレイというのはRGBの3原色のLEDが発光することで映像を表示する、屋内外のデジタルサイネージなどに用いられる大型ディスプレイのことだ。映像の表示方式は3原色の超小型LEDが発光する「マイクロLEDパネル」と同じだが、一辺50μm以下のディスプレイのみマイクロLEDと呼ぶとのことだ。

「従来の一般的なLEDディスプレイは解像度が低いという技術的な欠点があったが、ミニLEDとマイクロLEDの技術が発展したことで高画質化や高輝度化を果たした。そこで2024年からLEDディスプレイ専門の開発部隊を立ち上げた。最も重要なポイントは複数のLEDディスプレイを組み合わせて大型化できる点にある。LEDは有機ELパネルに比べて省エネで寿命も長い。中国でLEDディスプレイの生産ラインも立ち上げ、2025年から本格稼働したところだ」(陳氏)

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