Appleはイノベーション企業と評価されているが、これまでずっと、話題の技術はあえて遅いタイミングで採用してきた。「何かで一番乗りになろうとしたことは一度もない」。Cook氏はWWDCでのBloombergのインタビューでこう述べている。
「Appleが世界初のMP3プレーヤーを作ったわけではない。スマートフォンもタブレットも当社が最初ではなかった」。同氏はこのように続け、ARとVRの発表とともに披露されたスマートスピーカ「HomePod」が、「Amazon Echo」や「Google Home」より大きく遅れて登場した理由を説明した。「大切なのは、一番乗りになることではない。最高の製品を作ることだ」(Cook氏)
Appleはこれまで、華々しいプレゼンテーションで製品を発表し、消費者の期待をあおることが多かった。だが、ARとVRでの動きは少し様子が違い、いつもより早く告知されている。その狙いは、アプリ開発者が同社の技術に取り組み始められるようにすること、そして秘密のベールを破ることなく新しいハードウェアやアクセサリが出そろうようにすることだ。
この点に注目したい。今のところ、Appleのデモは形勢を一変するようなものには思えないからだ。Lucasfilmの特殊効果を担当するIndustrial Light & Magicが作った「スター・ウォーズ」のインタラクティブなVRシーンは、確かにクールだった。だが、似たようなものは、VR対応の「Windows」PCで何カ月も前からダウンロードできるようになっている。「Pokemon GO」が少しばかりリアルになるようで、結構なことだが、それは2016年のゲームだ。
Appleが披露したARのデモ(Peter Jackson監督の新スタジオ「Wingnut AR」が製作)は、グラフィックに関しては実に見事だが、インタラクティブではなかった。
とはいえ、Appleはなにも最初から大喝采を浴びる必要があったわけではない。次期iPhone(9月発表の見込み)であれ、未来のスタンドアロンデバイスとうわさされているスマートグラスであれ、そもそも開発者カンファレンスまでは追わない圧倒的多数のAppleユーザーに、Steve Jobs氏ばりの感動を届けられるチャンスは、まだ残っているからだ。
AppleはAR分野の競合を一足飛びで追い抜いたかもしれないが、VRでのリードはそれほど確かなものではない。
まず、WWDCの基調講演で VR関連の話題になったときも、Apple幹部の口から「ゲーム」という言葉は一度も出なかった。ダース・ベイダーが登場する前述の見事な「スター・ウォーズ」のデモでさえ、LucasfilmがMacでのVR体験を作り出す様子を見せられただけで、Macユーザーが自分たちで同じことを体験できるという話にはならなかった。
また、Epic Gamesの創設者Tim Sweeney氏が米CNETに対し、MacユーザーはValveのゲームプラットフォーム「Steam」からVRゲームを入手できるようになると語ったものの、開発者がそれにのってくるかどうかは不透明だ(米CNETはValveにMac向けに独自の新しいVRゲームを投入する予定があるか問い合わせたが、回答は得られなかった)。
Mac上でVRを体験できる消費者市場を、Appleが本当に作り出そうとしているのなら、その動きは遅い。チップメーカーAMDによると、MacユーザーがVRを体験するには、「Radeon Pro 580」以上のグラフィックチップが必要になるという。こうしたチップが搭載されるのは、新型「iMac」の最上位モデル(2299ドル)か、12月に発売予定でさらに値が張る「iMac Pro」(4999ドル)だけだ。つまり、MacでVRを始めようと思ったら、その最初の一歩がWindowsよりかなり高くつくことになる。
一方、最近の「MacBook Pro」や新しいiMacのユーザーは、AMD搭載の外付けグラフィックドックを接続すれば、およそ600ドルで同水準のパフォーマンスを得られるようになる。だが、外部グラフィック機器が消費者向けにサポートされるのは、2018年前半になる見込みだ。また、競合のNVIDIAも、自社の人気のビデオカードが対応するかどうか発表していない。
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