皆さんは、スマートフォンのない生活を覚えているだろうか。きっと、覚えていないはずだ。筆者も同じである。そして、今から数年後には、拡張現実(AR)についても、同じように感じるようになるだろう。
あなたが「Pokemon GO」をダウンロードした5億人の1人なら、ARを既に少し体験している。机の上のヒトカゲやハンドルの上のミニリュウが見えるのは、ARのおかげである。
ARは、ユーザーに新しい世界を体験させるのではなく、ユーザーの実際の視界に情報を重ねるという点で、仮想現実(VR)と異なる。VRではユーザーが海底まで飛び込むといったことができるが、ARでは周りの人々が海洋生物に変わる。ユーザーは動き回りながら、その海洋生物とぶつからないようにすることができる、といった具合だ。
もっと実用的な話をすると、ARはユーザーが見ているもの、例えば、あなたが今この記事を表示させているスマートフォンやコンピュータに関する情報を重ねることができる。ARは、まだチェックしていない通知の件数や、充電が必要になるまでの時間をユーザーに伝えることができるのだ。
VRの方が刺激的かもしれないが、日常生活での利便性という点では、使用する端末がスマートフォンであれ、頭に装着する何らかの装置であれ、ARの方が上である。
ARがいかにして私たちの感覚を乗っ取っていくのか、以下で説明していこう。
想像上のARヘッドセットを装着して、街へ繰り出そう。
店内に入らなくても、あのカフェのコーヒー1杯の値段がいくらなのかが分かる。新しいバーで友人に会うことになっているが、店の場所が分からない。そんなときは、文字通り1歩ごとの道案内が目の前に表示される。進むべき方向を示す矢印が地面に重なって表示されるのだ。天気が心配なときは、空を見上げれば、ヘッドセットがこれからの数時間の天気予報を教えてくれる。友達と無事合流し、友達の着ている上着が気に入った。AR端末はそれと同じものをどこで、いくらで購入できるのかを教えてくれる。
「ARを今後成功させる、そして実際に既に成功させているのは、あらゆるものをより魅力的にする、ARの素晴らしい能力だ」。そう語るのは、ARの開発を手がけるInglobe Technologiesで事業開発部門を統括するMirko Ferrari氏だ。ARが普及した世界では、人々が目を動かすだけで、「家や店、病院、文化的名所」といったさまざまな建物から情報を得られるようになっているだろう、とFerrari氏は言う。
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