4年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック。世界中から外国人観光客が集まる一大イベントにおいて、テクノロジの力は日本の「おもてなし」を豊かにするために何ができるのだろうか。
8月23日に開催された「CNET Japan Marketers' Conference 2016」の基調講演「最新のテクノロジーと最良のユーザーエクスペリエンスが創り出す本当の『おもてなし』とは?」では、パナソニックで東京オリンピック・パラリンピック推進本部営業推進部システムデザイン課主務を務める原口雄一郎氏と、ルグランの代表取締役共同CEOである泉浩人氏が、パナソニックの取り組み事例をもとに2020年に向けてテクノロジが生み出すユーザーエクスペリエンスの在り方について語り合った。
泉氏はまず、ユーザーエクスペリエンスのグローバルなトレンドとして、8月にサンフランシスコで開催された「UX WEEK 2016」の基調講演で語られた「Calm Technology」という考え方を紹介した。
Calmとは、日本語で「穏やかな」「静かな」と訳される。つまり、テクノロジは提供できる豊富な価値を全面に主張してユーザーに「うっとおしい」と思わせるのではなく、普段はユーザーが気に留める必要がないほど静かに存在し、必要だと思われたときに最新技術を駆使してシンプルにニーズを満たす価値を提供するというわけだ。さまざまな価値を盛り込み機能過多に陥るのではなく、ユーザーの目的を満たすために必要な機能を絞って提供されることが重要だと泉氏は指摘する。
加えて、「ITリテラシー」という言葉があるが、ITリテラシーのある、なしに関わらず誰もがそのテクノロジがもたらす価値を享受できるものでなくてはならない。
この点について、泉氏は「“情弱(情報弱者)”は、それを生み出すテクノロジの側に問題がある。テクノロジが人間を支配するのではなく、テクノロジが人間に寄り添うべきだ」と語り、ユーザーにテクノロジの存在を意識させる“心理的コスト”と、実際にテクノロジが機能する際の“時間的コスト”を最小限度にすることこそ、ユーザーエクスペリエンスだと定義。それを、人に寄り添い必要ないときには目立たないCalm Technologyによって実現することが、将来の人とテクノロジの関係性において重要であると示した。
ルグランとパナソニックが、こうしたCalm Technologyの考え方ので取り組んでいるのが、国際空港における外国人渡航者、高齢者、障がい者などを対象にしたユーザーエクスペリエンスの改善だ。
具体的には、広大な空港内で空港利用者が的確に目的の場所(搭乗ゲートや窓口など)に辿り着いたり、空港内にある施設(飲食店などの店舗)を探したりできるよう、パナソニックの「光IDソリューション」技術と高精度Beaconを使用した屋内ナビゲーション技術を活用する。
光IDとは、看板やデジタルサイネージに使用しているLEDの光を通じて信号を発信し、それを受け取ったスマートフォンに情報を表示できる技術で、サイン看板やデジタルサイネージなどに使用することにより、空港利用者は自分が欲しい情報を自分の国の言語で簡単に入手でき、目的の場所に的確に移動できるようになる。
すでに羽田空港で光IDの実証実験を開始しているという。「空港内のサインやデジタルサイネージには掲載できる情報量に限界がある。自身に関係のある情報を自分の言語でどのように手に入れられるかという課題を、今回の取り組みで改善した」(原口氏)
この仕組みについて説明した原口氏によると、光IDソリューションと高精度Beaconによる屋内ナビゲーションを用いたユーザー体験を構築することで、空港利用者を目的の窓口やゲートに案内するだけでなく、空港内の店舗へと送客する点においても効果を発揮できるという。
看板やデジタルサイネージでは、店舗の存在を知らせることはできても、その店舗が提供する商品やサービスの具体的な中身やその場所までの行き方などまではわからない。そこで、光IDソリューションによって商品・サービスの内容を利用者の言語で表示し、屋内ナビゲーションでその店舗まで案内するという体験を加えることで、利用を促すことができるようになったのだ。
「これまでサイネージでは注目を獲得するところまでしかできなかったが、詳細情報や行き方、所要時間を自国の言語で提供することによってニーズの喚起や行動のサポートまでも提供できるようになった」(原口氏)。
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