人工知能が、いろいろな分野で活用され始めているが、米国では最近、機械学習を使った人事採用ソフトが注目を浴びている。
従来、転職市場に顕在化しない優秀な人材を発掘するには、採用担当者がLinkedInなどネット上の掲載情報を手作業で検索するのが一般的で、非常に労働集約的な作業だ。
そうした過程を迅速化し、かつ低コストで行うために、EnteloやGildではソーシャルサイトなどのプロフィールから集めたデータを基に独自のアルゴリズムを使い、転職しそうな人材や隠れた逸材を見つけ出すソフトを開発している。その人材が転職話に興味を示すであろう確率や連絡をとるべきタイミングも算出する。
さらに、Enteloでは応募者から企業に送られてくる履歴書に対し、各企業が設ける要件に基づきランク付けして、採用担当者がより有力な応募者の履歴書に先に目を通せるソフトも提供している。
人が人材を選考する場合、同郷だったり同じ出身大学だったり、個人の好き嫌いによって無意識のうちにバイアスがかかり、必ずしもその職に最適な人材が選ばれないことがある。
アルゴリズムを利用してバイアスをなくすことで、たとえば個人的にソフト開発をしているが、高卒でなくプログラミング職にも就いたこともなかったために何度応募しても採用されなかったという応募者が、採用企業の求めているスキルとマッチして採用──といったことも起こりうる。
近年、米IT業界では、白人男性と一部アジア系男性ばかりで、女性やマイノリティなど多様性に欠けることが問題になっている。特にシリコンバレーをはじめとするスタートアップ企業では口コミで人材が紹介されることが多く、大半が白人男性であるエンジニア社員の口コミで人材候補を紹介されると、どうしても白人男性ばかりになってしまう。
そこで、女性やマイノリティなど多様な人材をリクルートするためにも、こうしたソフトが活用されているのだ。
一方、機械学習と自然言語処理(NLP)を利用して、求人広告の効果を測るツールを提供しているのがTextioだ。同社のソフトは職務記述書や求人広告、採用候補への勧誘メールなどを分析し、テキスト(文章)が企業が求める効果が得られているかどうか。採用までにどれだけ時間がかかったか、求めていた人材が見つかったかなどを判断する。
同社のソフトは文章の長さや形容詞など使われている単語だけでなく、単語がいかにつなげられているかなどを解析し、同業他社と比較したスコアを算出する。
例えば、求人広告でよく見られる“must”(~必須)は、性別にかかわらず多くの求職者に威圧的な印象を与えるという。また、“under pressure” “manage a team” などのフレーズは男性応募者を惹きつけ、“passion for learning” “develop a team”などは女性の応募者を惹きつける傾向がある。女性応募者を惹きつけるには、 “exceptional”でなく“extraordinary”の方がいいという些細な違いまでが示される。
言葉だけでなくレイアウトも影響し、求人広告にはブレット(・)を使った方が効果的だという。ただし、使いすぎると女性の応募者が減るそうだ。
スコアとともに改善点も提示されるので、求人広告掲載前に修正して広告効果を向上させることが可能だ。
なお、解析に利用されるデータは継続的に更新されており、トレンドによってもスコアは変わってくる。たとえば、2年ほど前はIT職では“big data”を使うと応募者獲得に有効だったが、今では使わない場合に比べ、使うと効果が30%低下するという。最近では“artificial intelligence”(人工知能)が効果的ということだ。
さらにPeggedのソフトでは、履歴書や公開情報、選考時の質問への回答の仕方(ウェブページ上で何秒を費やしたか、ブラウザのタブをいつ閉じたかなど)から、その応募者がその職で成果を上げる確率を予測する。これによってソフト利用企業の離職率が、少なくとも半減したという。
社員がいつ退職するかを予測するソフトを導入している米国企業も増えている。なお、こうした確率は、同じ職場でも職種によって変わってくる。最近、「人工知能によって置き換えられる職種」的な話題が多いが、こうしたソフトを利用することで人事担当者を減らすというよりも、担当者らが人間にしかできない作業に集中できるというメリットがある。
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