集客環境コンサルティング事業にセンシングデータをも活用する乃村工藝社を訪ねました。ビッグデータを活用したソリューションを担当する、同社 CC第二事業本部 アカウント第二事業部 企画開発1部部長の中村久氏への取材を再構成してお届けします。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)が何かを説明できても、IoTがマーケティングに与える影響を説明できなければ、デジタル時代のマーケターとして才覚を発揮できないかもしれません。2015年にIoTは一気に注目を集め(CNET Japanでもカンファレンスを開催)、製造業や小売業、社会インフラ領域で、生産性や売り上げの向上のために活用され始めています。
そして、IoTによって集めたビッグデータをどう活用するべきかにこれから議題は移り変わっていきます。マーケターこそIoTの可能性、そして限界性をもっと議論するべきではないでしょうか。
マーケターがなぜIoTに注目するべきなのか。その理由は、ビッグデータが収集できるから、といった短絡的なものではなく、ブランドと生活者の関係性が大きく変わるからというのが本質だと私は考えます。では、どのように変わるのか、その前にIoTによってブランド側と生活者側の変化を再考しましょう。
IoTの最も注目すべき点は、商品購入後の利用状況を追えたり、スマートフォンやPCにとどまらず車や家、都市でのデータを追えたりと、時間と空間の両軸の広がりによりブランド側が今まで収集できなかった大量のデータを手にするところ。
逆に言えば、今までは限定的過ぎました。例えば、どのようなメディア経由の人が購入しやすいかは分かっても、愛用者になりやすいかは正確には分かりません。サイレントマジョリティ相手に想像を広げるのが“今まで”のマーケティングでした。
一方、生活者側に目を転じると、IoTによって生活者は冷蔵庫やエアコンなどのあらゆる家電がECにつながるスマートホームを入手できます。が、本当の価値はそれらが相互に情報を通信するネットワーク化にあるのです。
人を介さない通信ネットワークがAIを通じて完成することで、生活上の意思決定が最適化、自動化されます。部屋が寒すぎると最適温度に自動で温めたり、冷蔵庫の食品が減少すれば再適量を自動で買い足したり、と(ここだけ断片的に見れば)夢のような世界です。
ここに私たちは、データをより多く手に入れるブランドと、データを提供することで生活をより良くする生活者が対峙する光景を見ることができます。加えて、今までは「売って(もしくは買って)終わり」だった関係性が、データの登場により変化し、データの所有主である生活者が優位に立つことも確認できます。IoT時代、生活者優位の中でブランド側は選ばれなければなりません。
つまり、生活者がデータを提供したくない相手と判断したブランドや、物理的にデータを収集できないブランド、データを収集したものの洞察を見出せないブランド、他社よりも分析力・実行力に劣るブランドは、IoT時代のマーケティングで敗者に回らざるを得ない状況に陥るのです。
極端に言えば、モノを作るだけのメーカーではなく、モノを使い続けてもらえるようサポートをするサービス業者やメーカーだけが生き残ります。それほどまでにIoTは変革をもたらします。
買ったけど性能が悪く1回使ったきり、と呼ばれるような粗悪品は一挙に減るでしょう。逆に言えば、小さいブランドでも確実に生活者の満足度を高めリピーターを育めれば、データが論拠となりヒットへつながると思います。良いものにお金を支払う時代、と言えば聞こえは良いですが、マーケターには壮絶な戦いが待ち受けています。IoTはブランドの成長を加速させ、同時に競争下の淘汰を早めます。
では、そのような生活文脈の中で、どのようなマーケティング戦略が必要なのでしょうか。
今回は、この難解な問いを主題として進めたいと思います。先端的な領域のため、事業会社よりもコンサルティングやベンダーに知見が培われていると考え、マーケティングサービスを提供する企業を取材先に選定。長年に渡り“空間”をプロデュースし続けてきた乃村工藝社が、センシングデータを用いた空間活性化事業に着手していることに注目し、その展望や成果について取材しました。
乃村工藝社は、明治25年に創業した120年以上の歴史を誇る企業です。創業期は舞台装置を演出するなどしていましたが、今では年間7000件を超えるほどの規模で、商業施設や博物館、ワークプレイスなどの多様な空間をつくっています。また、日本社会の構造的な転換にともない、同社は空間をつくるだけでなく、集客や継続的な活性化に寄与するマーケティングソリューションも提供し、まさに空間価値を創造するプロデュース集団へと変貌を遂げつつあります。
言わば、社会の期待を探りながら提供サービスを進化させてきました。その同社だからこそ洞察できたリアル空間の課題について、記事冒頭でご紹介した中村氏に伺いました。
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