顧客の心に火をつけるデータ活用

マーケティングはIoTによって変革する--乃村工藝社の着眼点 - (page 3)

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IoTデータ・ドリブン・イベントマーケティングとは

横丁力
横丁力

 「まず、前年度開催で明瞭化された回遊性の乏しさを解決することから始めました。私たちは以前より、横丁の賑わいに着眼していて、『横丁力』というものが複合的な商業施設にあることを感じていました。具体的には、屋台風の開かれたお店の向かいに人は足を止めるということです。その作用をうまく生かして、このように会場を設計し、結果、来場者に満遍なく会場を回遊していただくことができました」(同氏)。

IoTのデータを分析して辿り着いた会場レイアウト
IoTのデータを分析して辿り着いた会場レイアウト

 「次に、メインコンテンツの抜群の影響力を活用して、会場の真ん中にメインステージを設置しました。実は、会場設計の常識に則れば、このように壁のないステージはありえません。アクシデントがあった時、壁に逃げ込むことができないからです。やってはいけないこととして新入社員が学ぶ項目の1つです。

業界非常識の、壁のないメインステージ
業界非常識の、壁のないメインステージ

 ただ、前年度に計測できていた圧倒的な集客力を生かせば、会場全体の回遊性を高められる効果は想定できていました。そのため、顧客企業である日立や会場運営を統括した広告会社に対して実績数値をあわせて提案し、この非常識とも言える決断に合意いただき、実行することに至りました。結果、前年度10倍の差だったブース別の来場者比を、3倍の差に改善することに成功しました。

 このように、2013年の学びを着実に生かし、2014年に実現させることができたため、実は、2015年の開催においては大幅に変更することなく開催に至りました」(同氏)。

 センシングデータを用いると、来場者の動線のほかに、ブース内の展示物の人気ランキングやブース来場者の属性なども分かります。今回は話を伺えませんでしたが、これらのデータを用いれば、翌年以降の集客策がより投資対効果高く立案、実行できることは容易に想像がつきます。

 BtoBのビジネスにおいて、イベントは有力なマーケティングツールです。年1、2回開催のイベントだけに照準を絞って、年間のマーケティングプランを考える企業も多数存在します。(海外ではBtoBイベントもデジタルシフトしつつありますが、日本のビジネス慣習においてはまだ効果があります。)

 とは言え、回数が少なく、かつ1回あたりの投資が大きく、失敗が許されないという課題もあります。よって、今回のように、センシングデータを通じて来場者(そして主催者)の生産性を高める工夫を凝らすのは非常に経済合理的だと考えます。

 ここまでの話を踏まえて、過去数年間で見えてきたビジネスの金脈についてお伺いしました。

独自のコンセプト「IoS」でスマートシティ構築へ参画

 「私たちが最近唱えているのは、IoTではなく、『空間=Space』のSをとった『IoS』という考え方です。モノではなく、空間をつなげていきましょうというコンセプトとも言えます。

 今までのセンサーは、エンターテイメント性の高いアトラクション施設で操作スイッチとして利用されていました。が、今回お話ししたように空間同士が通信する装置へと役割を変えつつあり、私たちはセンサー1つとっても空間活性化事業を1つ前のステージに進展させつつあります。IoSというコンセプトのもと、空間をどのようにイノベーションしていくかがこれからの課題となります。

「IoS」という新しいコンセプトを構想する中村氏
「IoS」という新しいコンセプトを構想する中村氏

 私たちのノウハウが生きるのは、ダイヤが乱れやすい交通系。常に定期便を求められるにも関わらず、あまりに大規模なため不定期になりがちな交通系は金脈だと考えています。日本の場合、電車は非常に正確なので、具体的にはバスや空港になります。

 例えば、バスは交通量の影響を受けやすいため、データ収集や分析を迅速に行なえば、増便したり、場合によっては2台連結させたりといった改善の余地がある領域だと思います。また、花火大会終了時に、“反対のバス停からの方が早い”とか、“あと30分後に空きます”とか、そういう情報を利用者に届けることも考えられます。

 さらに言えば、“30分もあるならもう一杯飲んでいこう”といった地元の商業施設へ誘客することもできるだろうとにらんでいます。つまり、時間の使い方に対する新しい提案を、コンシェルジュ的にできるだろうと。

 これは先ほどご説明した『空間はインターフェース』という着想によって拓かれた世界観です。そのため、私たちの顧客の空間すべてをつなげられれば、来店してくださったお客様一人ひとりのためだけでなく、もう少し公共性の高いサービスを提供できると構想しています。

 公共施設にも話を転じてみましょう。市役所や図書館などの複数の公共施設をまとめて捉える時に、それらすべてをつなぐのは交通機関です。よって、公共施設の利用者に対して、あと1時間後にバスが来るという情報発信とともに、カフェや図書館の利用を提案することも可能になります。

 あらゆる空間をつないで人のインターフェースになろうとした時、乃村工藝社がやるべきことは今までと大きく異なってきます」(同氏)。

 乃村工藝社は自社の存在価値をアップデートしようとしています。それは同時に、彼らのサービス提供先である各ブランド(小売店や公共施設、交通機関)にとっても変革と言えます。

 各ブランドにとっては、「ついで買い」の提案機会が増えると同時に、生活者の豊かさに貢献できないもの(もしくはAIおよびAIプログラマーによってそのように判断されるもの)ははじき出される、そのような淘汰が始まることが想像できます。

 今回の取材では伺えなかったのですが、私は「ついで買い」を含めた集客策にIoTがどのような効果をもたらすかに関心があります。なぜなら、集客はマーケターの創造性を最も発揮すべき領域であり、力量に差が出るからです。「AIに仕事が奪われる」と昨今言われていますが、IoTによる集客策の最適化、自動化は多くのマーケターにとって脅威ではないでしょうか。少なくとも私は興味津々です。

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