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顧客の心に火をつけるデータ活用

マーケティングはIoTによって変革する--乃村工藝社の着眼点 - (page 4)

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IoTを用いたマーケティング戦略の重要アジェンダとは

 今回の取材で学んだ大切なことは、人とデータを中心にマーケティングを考察すると、IoTの枠組みが見えてくるということです。乃村工藝社は、「空間はインターフェース」と着想したことで、BtoBのビジネスイベントや交通系に自社の伸び代を見出しました。人だけでなく、入手可能なデータの可能性にも想いを馳せるとき、IoTがマーケティングの味方をします。

 また、「時間の使い方に対する新しい提案」という言葉が中村氏の口から出てきた通り、AI発信の情報でも生活者に価値を感じてもらうことが重要であることは変わりません。つまり、マーケティングの役割が「顧客とブランドの関係性のデザイン」であることは変わらず、IoTはそのデザインにおけるツールでしかないのです。

 ここでは重要なアジェンダを2つ示したいと思います。

 1つ目は、時空間の広がりで大量に収集したデータをいかにマーケティングに活用するのか。

 真のデータドリブンマーケティングは、(1)個別1人に対応した細かいターゲティング、(2)購入後の利用状況に応じた正確なCRM、そして(3)自己実現を後押しする力強いアンバサダープログラムなどから構成されます。ただし、最も基本にあるものは、「パーソナライゼーション」でしょう。

 ブランド側は購入後の利用状況を把握できるようになるため、顧客一人ひとりのレベルやニーズに応じたサービスが可能になります。飽きっぽい人には刺激を、熱心な人には1つ上のハイレベルな製品情報を提供できるようになるのです。

 読者の皆さんも、自身を1人の生活者として俯瞰した時、もっとアップセルされてもよいと思える商品はありませんか? 私の場合、小さい電気ヒーターを頑張って使っているのですが、客観視するともっと大きいサイズのものを提案されるべきだと思います。

 もしヒーターにセンサーがあり、常に温度レベルMaxで使われていることや平日夜中心に使われていること、エアコンは使われていないことなどが分かれば、どんな販売員よりも的確なアドバイスができるのではないでしょうか。

 2つ目は、他社といかに共存共栄するのか。

 各社が仲良くデータ連携できたらどれほど幸せでしょう。現実は、多くの企業が牙城を築こうと狙います。莫大な富を得るために、デフェクトスタンダートを築くべく各社必死です。寺田倉庫の取材記事でも言及したように、従来通りの「マス広告主導のマーケティング」や「メディアに依存したマーケティング」では闘いを乗り切れません。

 インターネット普及以前であれば、垂直統合型の“自前主義”で価値創造できました。しかし、クラウドコンピューティングやAPIも普及した2016年は、データを囲い込むことなく他社利用を是とする戦略に変わらなければならないのです。“他社に何を譲り、自社で何を得るのか”、IoTであれAPIであれ、データを活用したマーケティング戦略に欠かせないアジェンダでしょう。

 具体的には、コンサルティングやベンダー側であれば、IoTをどのような技術で構築・分析し、解決策をいかに実行するのかが重要アジェンダです。今回ご紹介した乃村工藝社のような空間設計力が無ければ、IoTデータを他社と連携させても提供価値は小さく収まってしまいますし、データ連携しても飲み込まれてしまいます。

 一方、ブランド側であれば、どのブランドと組むのかが重要なアジェンダではないでしょうか。もし家電ブランドであれば、デザイン派か省エネ派か、または日本製派かなどの個性の違いを踏まえて、自社ブランドと相性の良いものと組むのが賢明でしょう。例えば、高級家電担当のマーケターの場合、ワインセラーメーカーと組み、可処分所得が高いであろう人のデータを入手することが、どのメディアよりも最適かもしれません。

 私の場合、特定のペルソナを設定した「雑誌」を作るように、その生活者の日常生活を思い描いて、ブランド間のデータ連携に取り組みます。ファッションに比べると1点豪華主義のような傾向が弱いため、雑誌「Pen」を想定して、バルミューダ、バング&オルフセンといったデザイン性も機能性も重視したブランド群を束ねるようなことを試みます。とにかく、1社でできることに限度があるため、LTVを高めていける仲間作りに徹するのが重要ではないでしょうか。

 「電子マネー」がそうであったように、IoTに関しても今後いくつかの連合チームが登場すると思います。そして、それらはそう簡単に統合しません。よって、早々にどこかに参画するのか、十分に様子を窺うのか、はたまた独立系で行くのか、そういう選択を迫られるのが2016年、2017年ではないでしょうか。

 より高度に、より専門的になるデジタルマーケティングの最前線では、これらのようなアジェンダを思い描きながら臨む必要があると私は考えます。同時に、業種・業界を問わずビジネスモデルを変革するデジタルシフトだからこそ、今回の乃村工藝社のように、異業種ながら先駆的にデータをマーケティングに活用しようとする企業へ注目する必要があるのです。今日の「常識」は明日の「非常識」になるのが世の常ですから。

中村氏と筆者の近影
中村氏と筆者の近影

廣部 嘉祥

クチコミマーケティング協議会(WOMJ)メソッド委員会所属 個人会員
コンテキスト・エディター

2007年よりデジタルエージェンシーへ入社後、ファッション、ホテル、ITサービス、製薬等各種グローバル企業のデジタルマーケティングからPRプランニングまでを担当。2012年よりメソッド委員会に所属し、2015年夏より現職。

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