データが創る最良のUX

クリエイティビティとデータの素敵なカンケイ--「Spikes Asia 2015」視察レポVol.1

泉 浩人(ルグラン代表取締役 共同CEO)2015年10月28日 08時00分
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 ビッグデータがマーケティングを変えると言われて久しい。

 だが、日本では、広告主のみならず、広告代理店の側でも、「コンバージョン」や「CPA」といった分かりやすい指標でしか「成果」を測ることを知らない、「第一世代」のデジタルマーケターがまだまだ幅を利かせている。

 彼らの中には、ネット広告を「最適化」すれば、売上目標は達成できるはずだという強い思い込みがある。このため、広告代理店の担当者に自分たちが決めた目標数字を渡し、グリグリと進捗管理をしていれば、マーケターとしての自分達の仕事は終わりと考える人も多い。

 一方で、広告代理店の担当者も、そうしたやり方を疑問に思わないのか、たとえ思ったとしても、クライアントに「NO」とは言えないという職業的な性分から、黙って言われる通りにしてしまう。(もちろん、クライアントが求める課題の解決に対して、あまりにも無知、無策な広告代理店の担当者が多くいることは否定しないが。)

 確かに、ネット広告の特長の一つは、どの配信先、どの広告、あるいは、どのキーワードが、いくらの売り上げを産んだかを、データで客観的に把握できることにある。だが、これは「結果についての透明性が高い」というだけの話であって、ネット広告をうまく運用しさえすれば、期待する売り上げを運んできてくれる訳ではない。

 考えてもみてほしい。もし、広告予算を渡して進捗管理をしておけば、あとは広告代理店が売上目標を達成してくれるなら、トヨタもアップルも、経営はすべて広告代理店に任せれば済むはずだ。(あるいは、みなさんが大手広告代理店の経営者なら、トヨタやアップルを買収して、自分で経営してしまおうと考えるのではないだろうか?)

 こうした「第一世代」のデジタルマーケターの前では、高度な解析力が自慢のDSPも、多様なデータを統合的に解析できるプライベートDMPも、執拗にネットユーザーを追いかけ回す「リターゲティングツール」としての役割しか与えてもらえない。残念ながら、これが、我が国のデジタルマーケティングの実情ではないだろうか。

 一方で、これまで、勘や経験に頼りがちだったユーザーエクスペリエンス(UX)の分析や改善といった領域においても、データの活用は急速に広まっている。

 そこで、本コラムでは、最新のデータやテクノロジを、広告配信の最適化ばかりに限定せず、最良なUXの実現にも生かすことで、多くのマーケターが抱える課題(もちろん売り上げの持続的な増加も)の解決につなげられるのではないか、という観点から、次世代のデジタルマーケターに求められるモノの見方や考え方について、みなさんと一緒に考えていきたい。

Spikes Asiaはカンヌライオンズのアジア別院

 さて、少々、前置きが長くなったが、本コラムを始めるにあたり、まずは、9月9~11日にシンガポールで開催された「Spikes Asia」というイベントの様子をレポートしたい。

 デジタルマーケティングの領域で仕事をしている方々の中にはこの名前を初めて聞く方も多いかもしれないが、Spikes Asiaは、基本的には、各国から応募された広告・PRキャンペーンの中から、審査員が秀逸と判断したものに賞を与える「広告祭」と呼ばれるイベントの一つだ。

 広告祭といえば、毎年6月にフランスで開催される「カンヌライオンズ」が有名だが、このSpikes Asiaも、運営母体はカンヌライオンズと同じである。

 そういう意味で、カンヌライオンズが広告祭の「総本山」とすれば、このSpikes Asiaは、その「アジア別院」といった位置付けのイベントと言える。ちなみに、カンヌライオンズもSpikes Asiaも、現在は「広告祭」ではなく、“Festival of Creativity”、直訳すると「クリエイティビティ祭」というのが正式な呼び名となっている。

データとテクノロジを駆使して嫌われない広告メッセージを創る

 Spikes Asiaの会場では、最終選考に残った応募作品が部門別に展示されているが、その傍らでは、数々のセミナーが開催されていた。筆者も3日間の会期中、多くのセッションに参加したが、そこでは「データから得られたインサイトをもとにクリエイティブを創るためにはどうすれば良いのか」というテーマが頻繁に取り上げられていた。

 その背景には、インターネットやスマートフォンの普及に伴い、人々が日々接する情報量が爆発的に増加する中で、企業が発する広告メッセージが埋没してしまい、期待するような注意や関心を向けてもらえない、というマーケターの悩みがある。

 また、広告の配信をブロックする技術も広まる中、ネットやアプリの利用体験を必要以上に妨げずに広告メッセージを配信することもマーケターの大きな課題となりつつある。そのためにも、データの収集や解析によって、利用者の興味や関心、あるいはネットやアプリの利用状況や背景を理解することが不可欠だ、という問題意識が高まっている。

 さらには、機械学習や人口知能といった技術の進展に伴い、データから直接クリエイティブを創るといった試みも紹介される一方で、 今後、データやテクノロジが幅を利かせていくと、人間のクリエイティビティはどこで発揮されるのか、また、クリエイティブの効果や成果を、どうすれば客観的に測れるのか、といったテーマのセッションも開催されていた。

 次回からは、こうしたセッションの内容を紹介しつつ、Spikes Asiaに集まった各国のマーケター達が、UXを阻害せずに広告メッセージを伝えるという目的のため、どのようにデータやテクノロジを活用しようとしているのか、その取り組みや考え方を中心に紹介していきたい。

泉 浩人

慶應義塾大学経済学部卒、米国ジョージタウン大学MBA修了。三井銀行、フォード自動車等を経て、オーバーチュア(現ヤフー)の日本進出に参画。2006年にルグランを設立。デジタルマーケティング戦略に関するコンサルティングサービスを提供する傍ら、アドテック東京やCNET等のイベントでも講演。ビッグデータを活用したAKB48選抜総選挙予測が注目を浴び、2014年日本広告学会クリエイティブフォーラムで最優秀賞を受賞。

2008年12月、Yahoo! Googleの検索連動型広告を最大限に活かす『SEM 成功の法則』を上梓。2009年10月にはビル・タンサー著『クリック!「指先」が引き寄せるメガ・チャンス』 を監訳。また、日経ストラテジーをはじめ、寄稿記事多数。

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