英国に本拠をかまえるSDLは、多言語翻訳をはじめとするローカライズソリューションから、ウェブコンテンツ管理サービスまで、カスタマーエクスペリエンス向上に関する包括的なソリューションを世界38カ国、70カ所で展開している。日本でもSDLジャパンが1992年から20年以上事業展開している。
企業のグローバルカスタマーエクスペリエンスを向上させる技術を用いてどのように展開しているのか、来日した最高経営責任者(CEO)であるMark Lancaster(マーク・ランカスター)氏に聞いた。
--翻訳技術を中心にローカライズ分野から始めて、それで培ってきた技術を活かし、ウェブコンテンツ管理ソリューションを中心に企業のカスタマーエクスペリエンスの向上を実現するマーケシングソリューションを手がけるにいたりました。どのように発展したのでしょう。
Mark Lancaster:ビジネス転換の1つのきっかけは、顧客のニーズがあります。日本で言うと、2020年に計画されているオリンピックがあります。それによって、外国からの訪問者が増えてくると思いますので、ローカライゼーションが非常に重要になってきています。そうした背景の元、マーケティングプラットフォームと、顧客のニーズを1つに統合していくニーズが出てきています。
それを実践するために重要になってくるのが、カスタマーエクスペリエンスやカスタマージャーニーとなります。特に日本はオリンピックがあるので、たくさんの人に来てもらわなければなりません。たとえば、さまざまな情報などをウェブサイトやソーシャルメディアなどで提供していくと、訪日者、もしくは訪日を検討している人とコミュニケーションが活発になると思います。そのコミュニケーションを通じて、ユーザー(顧客もしくは見込み顧客)が何を求めているのか、重要な鍵を抽出しなければなりません。また、コミュニケーションの内容はポジティブな内容だけではなく、ネガティブな内容も含まれるでしょうが、それらの内容を分析し、適切な言語で適切な対応をすることが求められます。さらに、こうした対応をフィードバックして、ウェブサイトなどで提供する情報を更新していくことも重要でしょう。われわれのソリューションは、そのお手伝いをします。
--顧客が求めていることを抽出、分析するにはどうすればいいでしょう。
Mark Lancaster:1つは「トピックモデリング」という方法があります。ウェブサイトやソーシャルメディアなどを通じて、何らかの可能性のあるキーワードを選び出します。たとえば「トラベル」、「費用」を選んで、そのワードに対してどのような考え方(センチメント)があるかを分析していくといった感じです。分析すると、いろいろなセンチメントのあることがわかるので、それぞれに対して具体的なアクションにつなげていきます。たとえば、移動する際にどうすればいいのか、どのようなホテルに滞在できるのか、そういったたぐいの情報を適切に提供していくわけです。
そして、こうしたいろいろなセンチメントはリアルタイムに取得し、即時に分析できます。われわれは取得した情報に基づいて、たとえば同じようなプロセス(カスタマージャーニー)をとる顧客に関してはひとくくりで格納するというやり方をとり、過去においてどういうジャーニーだったか、そしていまどういうカスタマージャーニーであるかを分析します。過去と現在のカスタマージャーニーが類似していた場合、現行のカスタマージャーニーが将来的にも継続されるだろうと予測できます。こうしたことを常に分析することで、ヒストリカルなカスタマージャーニーの情報をベースに顧客をマッピングして、現在のカスタマージャーニーが将来どうなるかを予測するというアプローチもできます。
--顧客との接点やその行動、体験が複雑化する中、いかに正確に将来を予測できるかは現在のトレンドだと思いますが、企業からすると、どのソリューションを選択するべきか、なかなか判断が難しいと思います。
Mark Lancaster:企業の立場からするとベストなソリューションを判断することは、たしかに難しいことだと思います。マーケターの立場で技術を十分に理解することも難しいでしょう。SDLに関して言えば小さな会社ですので、われわれの技術を理解してもらうためにはまずデモをし、POC(Proof of Concept:概念実証)を提示します。それを理解していただくと、提供している技術が実際に機能しているということを実感していただけると思います。
われわれの実績を少し紹介すると、Dellにソリューションを提供しています。SDLのソリューションを駆使して、米国でより深く顧客のことを理解したいということで利用していただいていますが、これが非常にうまくいっているため現在全組織レベルで展開しようとしています。したがって、バイイングプロセスを考えた場合、実際にはテクノロジで何ができるのかをデモで理解してもらって、POCをしっかり提示して理解していただくことだと思います。ここが理解できれば、あとはスムーズに運ぶでしょう。
--顧客を知り、理解するためには、どうしてもトラッキングなどの手法が必要だと思います。英国ではCookieをはじめとする解析機能を利用する際にその旨をユーザーに認識させる義務が生じるいわゆるcookie法があります。SDLではcookieに頼らなくてもトラッキングや解析ができる「フィンガープリンティング」技術にも力を入れていると聞きますが。
Mark Lancaster:ユーザーを分析する技術を活用する際の課題はセキュリティ、つまりプライバシーに関わる個人情報ですね。いずれにせよ、ユーザーがどう感じるかということが重要でしょう。ユーザー側として、トラッキングされて得られる価値があるということであれば、トラッキングされることもやぶさかではないと思います。その価値さえ提供できれば、cookieや個人情報の提供などを許容できる関係になれるのではないでしょうか。
フィンガープリンティングに関わっている現在唯一の企業はAmazonだと思いますが、Amazonのレベルは非常に単純で基本的なレベルにあると思います。われわれは、ある企業とフィンガープリンティングのパイロットプロジェクトを立ち上げており、今後顧客の情報をリアルタイムで収集し、即反応、対応できるようになると、大いに期待しています。
いずれにせよ、やはり企業にとってはきちんとした顧客の情報を得て、トラッキングし、分析するのは重要でしょう。こうしたことは、過去において手動でなされてきました。小売店舗があって、そこに顧客が来店して、毎日常連が来るので、顧客の求めていることがわかる、といった具合です。パーソナライズなエクスペリエンスというものを店員さんが1対1で提供してきわけで、それによって再び来店していただけるということでした。
しかし、いまのデジタルな環境の元で、人がマニュアルでやっていたことをもっと大きなスケールで展開することが可能になりました。企業にとって、パーソナライズなエクスペリエンスを提供するためには、フィンガープリンティングという技術は非常に重要だと考えますが、やはり顧客にとってやってはいけないこと、いやがることをすることが問題であって、そうでない限りにおいて、この技術は将来的に非常に重要だと思います。
--ローカライゼーション分野からマーケティングを手がけているSDLにとって、2020年に向けて大きなチャンスだと思います。
Mark Lancaster:SDLの立場では、そのとおりビジネスの機会は非常に大きいと考えています。いろいろな企業が2020年に向けて、さまざまな商品やサービスを提供していく中で、いわゆる翻訳やローカライゼーションの需要は増すばかりで、非常に質の高い商品やサービスが求められるでしょう。そして、顧客のニーズに応じてタイムリーな形で提供しなければなりません。こうした観点から見れば、われわれの企業以外にソリューションを提供できる企業はないと自負していますし、われわれはワールドワイドでサービスを提供できるので、非常に大きいチャンスだと期待しています。
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