その後もHodinkeeの人気は衰えず、世界200カ国から、1日5000人、月75万人のサイト訪問者を得るに至っている。クライマー氏は、次第にブログにとどまらない活動をしようと、ストラップやポーチ、その他時計のアクセサリをオンラインで販売することを考えるようになったという。
ブログの読者の大部分はお金に余裕のある人たちであり、腕時計に対する情熱も強い。ブログで情報を提供するとともにハイエンドな腕時計アクセサリを提供することには意味があると思ったのだ。そうして、新たに時計関連アクセサリのオンラインショップを立ち上げた。
販売している製品はデザインから生産まで自分たちで手掛けているオリジナルなもので、毎回、50個ほどの少量を生産しては、商品の動きを見て作り手に再発注するというビジネスモデルを構築しているという。
ラインナップは、世界初の“持ち運び式腕時計ルーペ”や、カンガルーやクロコダイルの革の時計用ストラップ、余分な時計を入れて持ち運ぶためのレザーポーチなど、なかなか面白いものが揃っている。ちなみにレザーストラップはこれまでに数千本売れたそうだ。
ちなみに、腕時計自体はネットで販売しないし、するつもりもないのだという。また「僕は業界のインサイダーにはなりたくないんだ。あくまでファンでいたいんだよ」という発言をしたこともあり、時計が好きだからこそビジネスとして扱うことはせず、しかし自分たちのブログの読者が欲しい製品をと考えた結果、「時計用のオリジナル・アクセサリ」というところに落ち着いたようだ。
この事例は、従来のeコマースの取り組み方に疑問を投げかけている。Hodinkeeは、何を売るのかを決め、商品を在庫してからお客を集める、という流れを否定し、真逆の流れで成功をつかんでいるのだ。
まず、商品ではなく、顧客となる読者を集める。これを情報発信で実現する。次に読者と対話して、ニーズを見極め、何を売るのかを決める。最後に商品を製造、在庫して、読者に売る。
この方法を採れば、小売販売業の最大の倒産リスクである在庫を極めて少なくすることができる。これは、従来の事業者はにわかに信じられない話だろう。彼らがこれをやりたいと思っても、なかなか難しい。これまで情報発信の必要性がなく、その経験がほとんどできていないからだ。
在庫を最小限に抑えているECサイトは強い。利益率が高く、キャッシュを効率的に回すことができるため、利益をどんどん成長に回すことができる。得た利益をさらに情報発信に投資をしていくと、競合は顧客を奪うことが難しくなる。この運営手法を「メディアコマース」という。
今は、売るべきものが決まっていない状況にある人や企業に有利な状況だ。必要なのは、情報発信力。これを身に付ければ、既存の大企業と互角以上の勝負をすることができるチャンスがあるといえる。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
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