日産が世界規模でデジタルマーケの改革に着手--Adobeソリューション活用 - (page 2)

別井貴志 (編集部)2015年04月06日 10時00分

--たしかに、購入の意思を持ったり、自分が興味を抱いた自動車の情報はオンライン、つまりデジタルで検索したり調べたりしますね。そうしたデジタル体験は非常に重要ですが、自動車はオンラインで購入できません。中古車や、一部の電気自動車の新車がオンラインで買えるようになってきてはいますが、購入するには最終的にディーラーの店舗に行かなければなりません。

DeLu Jackson:自動車をオンラインで購入できる時代はそう遠くはないでしょう。特に中古市場ではECで完結する世界観があります。ですから、そのモデルが機能することはわかっています。新車ということでは、私たちのエクスペリエンスは最終的にはディーラーの店舗ということになります。いかにお客様をディーラーに誘致するかということが鍵になります。

 たとえば、ディーラーに足を運ぶ訪問回数を見ると、いままでは平均7.5回と言われていましたが、いまは1.5回と減っています。みなさん事前にオンラインで情報収集や調査を済ませているのでしょう。オンラインで車種や色、機能、オプションを自分で構成して、バーチャルドライビングもできるのが、いまのデジタルスペースでの重要な役割だと思います。ですから、理解、調査をオンラインで事前に準備してもらい、やっとディーラーに足を運んでいただいて購入してもらうという世界になっています。

 もっとも、オンラインで知り得た情報や登録した情報をすべて、そのお客様がディーラーに足を運んでもその情報が付随してくるというのが理想的だと思っています。航空業界を考えてください。自分の個人情報をウェブサイトから登録してチケットを予約、購入して、空港に足を運びますね。そこで、改めて名前を入力したり聞かれたりしなくてもその情報は付随してきますよね。残念ながら、自動車業界はディーラーに足を運んだ際、そこで改めて名前などの情報を登録しなければなりません。「名前は何ですか?」というところから始まって、好みの車種、色など、ゼロから始めなければならないのです。ですから、オンラインで登録した個人情報や調べた情報などをディーラーにまで反映されて、すぐに購買決定をしていただくという流れにするのが理想的でしょう。

 なぜこの事例を言ったかというと、消費者の期待は業界を問わず同じで、変わらないのです。旅行をするのも、自動車を購入するのも、Amazonや楽天で購入するのも、最終的に消費者は同じ期待を抱いています。航空会社のことをよく例に挙げているのは、比較的消費者の期待に応えられているのではないかと思っているからです。シームレスな形でパーソナライズされた個人的な情報をうまく活用できています。「この人は誰なのか」ということをきちんと理解して、そのうえで認知、対応するということが自動車業界においても重要だと考えます。そうしたことこそが、すばらしい顧客体験といえるでしょう。

--消費者の期待に最大限応えて、すばらしい顧客体験を提供するためにはソリューションが不可欠ですね。どのように今回Adobeのソリューションを選んだのでしょう。

DeLu Jackson:幅広くレビューや評価をしました。最終的にAdobeに決めたわけですが、まず第一にさまざまな市場で何らかしらのかたちでAdobeのテクノロジ、ソリューションをすでに活用していました。市場によって差はありますが、1つもしくは2つの技術です。そのため、多くの市場や多くのブランドですでに経験値があったことが1つの理由です。もう1つは、いまのAdobeを見ていると“グローバルな統合”という面で技術が大きく革新してきたと実感しています。核となるソリューションであるAdobe Experience Manager(AEM)やAdobe Analytics、Test&Targetなど、これまでは各拠点でバラバラに活用してきましたが、グローバルな統合を可能にできなければなりません。そういう判断で決めました。

 われわれグローバルチームは、将来どのように運用していくかということにフォーカスしています。たとえば、AEMのバージョン4.0を利用している地域があれば、最新版の6.0へグローバルチームとしてどのように移行の支援をするかを考えていきます。各拠点での現場の部隊がさまざまな取り組みを実行していくうえで、能力の強化をどのように支援していけるが役割となります。

--ソリューションは、単に統合、導入しただけでは成果が出ませんね。それを使う人たちの意識の変革が必要でしょうし、方針を理解したうえで具体的にどう活用して成果を上げるかを共有することが大切だと思います。こうしたメッセージをいかに伝えて、思いをどのように組織、スタッフに浸透していきますか。

DeLu Jackson:まずは、出張が多くなるということを想定してもらいましょう(笑)。広範囲な変更プロセスを走らせているところです。大規模なチャレンジですので、CEOはもちろんCXOの執行役員クラスからラインマネージャと呼ばれる人、現場のスタッフ、パートナー、代理店にいたるまですべての人に理解してもらいます。すべてのレベルでKPIを用いて、どういう形で展開していって、進捗がどうなっているかを管理していきます。これについては、日、週、月ごとに、とどまることなく継続して取り組み、ディスカッションしていきます。

 私たちのなかで、デジタルリーダーシップというのは何なのかということをもう一度改めて検討することによって、「デジタルサービスオーガナイゼーション」という組織、仕組みを構築していき、マーケティングだけではなく、デジタルという製品をどういう形でブランド展開していくべきなのかということを広範囲に考えていきます。その中にはたとえば、デジタルマーケティングだけではなく、ヒューマンリレーション(HR)もそうですし、パブリックリレーションズ(PR)もそうです。さまざまなコミュニケーションについても、社内でのソーシャルネットワークなど、そういったこともすべて包含した中で、“デジタル”と“体験”ということにどう取り組んでいくのか、それがどういう形の影響を与えていくかを理解しながら、最終的には何を具現するか実践していきます。3年を経たときには、本当の意味での将来のデジタルリーダーと言われる人たちが啓蒙され、育ってくれているということを期待しています。

--そうなると、ディーラーにも技術や意識を共有してもらわないといけないですね。これがもっとも難しいそうです。

DeLu Jackson:……うーん。最後の20メートルをどういう形でつめるのか、ということが一番の要になると思いますので、デジタルも含めた顧客体験をディーラーにどういうかたちで理解してもらうかが大事ですね。これは、人のプロセスということと、技術の組み合わせではないかと思います。いい事例としてはAppleが挙げられるのではないでしょうか。Appleはどの国、地域にあったとしても、新しい人を教育するというよりは、その場の文化や地理といった、地元に根ざした人たちをうまく採用して活かしてきたと思います。ここからの学びは非常に重要だと思います。

 最終的に私たちも小売りというところまで視野を広げていかないといけないということは重々承知しています。ただ、技術というのはやっかいでして、それを人に渡したからといって、その人がすぐにすべてを活用できるわけではありません。誰かがその技術をどうやって活用したらいいかを啓蒙しなければなりません。

 ただし、大きなディーラーグループでは技術に投資をしているところもありますし、すでに知見が蓄積しているところもあります。ディーラーが持っている経験値と、われわれがこれからやっていこうとしているデジタルマーケティングやデジタル体験を1つに収束させることで、新しいビジネスモデルが革新的なかたちで生まれてくるのではないでしょうか。

--デジタルを活用し、顧客体験を向上させるためには、何が一番重要ですか。

DeLu Jackson:その答えは、「Make it Simple」です。本来はシンプルだったはずの“マーケティング”の世界がすごく複雑になってきていて、それをいま技術革新によって再びシンプルな世界に立ち返りつつあると思っています。ですから、“簡単”に扱えないといけません。

 企業においては“付け足すこと”がいいことではなくて、逆に“そぎ落とすこと”のほうが重要なんだということを、どう理解してもらうかが一番の課題だと思います。実は、そぎ落すほうが大変なんです。シンプルに、言わんとしているメッセージがどう効果的に相手に伝わるのか、それこそが難しく、マーケティングの力量が問われる部分でもあるでしょう。そして、それを実現するのはいまの技術を活用することでしかないというのが私の思っているところであります。

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