この連載では、企業でのアプリのプロモーション活用から、スマートフォン広告で重要な位置を占めるテクニカルな運用型広告、メディアやアプリ・マーケットなどの市場環境を含め、“デジタルマーケティングの今”をお伝えする。
前回までアジアの全体像、そして特に台湾について解説してきたが、今回から数回にわたって、東アジアに次いで日本企業の関心が高い、ASEAN諸国について分析していきたい。
ASEAN諸国は次の10カ国で構成されている。インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア。中でもマーケットとして関心が高い国はインドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、そしてベトナムであろう。
このうち、経済成長が早く、モバイル端末のインフラも一番整っている国はシンガポールやタイになると思う。ただシンガポールは国自体が小さいし、人口も限られていて、確かに成長著しく、日本と同じと考えていいエリアだから、改めて言うことは少ない。
また、フィリピンには製造業が少ない。GDPは拡大しているのだが、実はこれはフィリピン人が海外へ出稼ぎにいった結果なのだ。20代から50代の主に男性が出稼ぎで自国にいない。だからサービス業もあまり発達していない。さらに米軍が駐留しているので、欧米ブランドが浸透している。日本企業にとってのターゲット層がないと言ったほうが事実に近い。
またインドネシアには製造業があり、日本や欧米から進出もしているが、政情が不安定だ。政情だけでなく電力やその他のインフラの状況も不安定である。ジャカルタ市内の渋滞もひどい状況であるし、ここ10年、あまり経済は成長していない。また細長く、島が多い。格差社会でもあるので、マーケットとしてはあまりお勧めできる状況ではない。
そこで今回から2回、ASEAN全体のマーケットを分析した後、特にタイ、マレーシア、ベトナムについて詳説。その後、インド、中国についても触れて、このシリーズを終えたい。
ASEANは経済圏としては大きな塊のように扱われているが、実態はまさにモザイク。宗教も政治体制も民族も言語もバラバラだ。たとえば都市国家であるシンガポールでさえ、英語圏で公用語は英語なのだが、全人口の約3分の1はインド人で、4分の1は中華系の人たちなので、学校では英語のほか中国語やヒンドゥー語など複数の言語が選べるようになっている。マレーシアやインドネシアなども多言語国家で、文化も複雑だ。マレーシアでは富裕層は中華系が占めるが、その人口は全体の3分の1ほどに過ぎない。
そうした状況の中で、昨今、ASEAN全体に関わるマーケティング上のキーワードは何かというと、“クロスボーダー”と“ステージアップ”であるといわれる。
アジア圏の生活レベルはよく、日本の70年代~80年代だといわれる。ただ日本のその時代と唯一違うのが、インターネット環境の存在だ。インターネットの普及によって、ボーダレスに情報が行き交っている。それはまさに現代のあり様なのだ。
若者を中心に、海外のさまざまな情報を得て、そうしたスタイルに憧れを抱くのは当然だろう。だから、日本の“昭和”よりも強く、そして性急にステージアップを望むようになっている。
そうした状況下で、モバイルを含むインターネットマーケティングのポイントを見ていくと、たとえばベトナムやタイでは、SMSを活用したプッシュサービスが流行っている。しかし、多くの消費者は、こうしたものをあまり信頼していない。
彼らがレコメンドなどの情報源としてむしろ重視するのは、口コミだ。中でも大事にするのが家族というコミュニティ。ただし、この範囲は日本よりはるかに広く、親類縁者幅広く対象とすることがほとんどだ。
この家族というコミュニティに親しい友人を加えた拡大解釈のファミリーの中でのSNSを介したバイラル効果に、彼らは敏感に反応する。
中でもインドネシアはFacebookがマジョリティ。タイは普及率でLINEがFacebookを抜いた。そうしたSNSを介して得られる口コミ情報を一番重視し、次いでウェブ上でのコメントやレビューを参考にする。調査をすると、ここまでで商品を買う場合の情報源のうち60%を占める。その後でようやくパッケージ情報など、企業側の発信情報が挙がってくる。
ソーシャルメディアが流行る背景にはインフラの整備状況も関係している。ASEAN諸国ではまだまだ2Gが普通で、やっと3Gという状況。パケット使い放題といったサービスもまだ浸透していないので、データ通信料が高い。デバイスの性能も、中国製や台湾製の安価なものが多いので、スペックは低い。つまり、ソーシャルメディアを介した情報発信が最も効果的だということがわかる。
企業としては、4マス広告も重要だが、日本以上にソーシャルメディアを効果的に使うことをお勧めしたい。日本以上と言えば、動画に対する感受性が高い。YouTubeも日本以上に好まれている。最も、YouTubeを見た後に、企業サイトにアクセスするとなると、データ通信料が高くなるので、モバイルではなく、こちらはPCからのアクセスが主流のようだ。
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