『いよいよ飛躍する「ネット動画広告」』の第4回目は、電通 デジタル・ビジネス局 植村祐嗣さんに、電通が考えるネット動画広告戦略をお話しいただきます。前編では、日米のコンテンツ制作と配信の状況やコンテンツの消費のあり方などを取り上げました。後編では戦略の詳細をお聞きしました。
植村:適正な単価を付けてコンテンツを販売していくために、在庫を抱えてでも、安易に価格の引き下げは行なわない、というHuluの事業姿勢は高く評価できると思います。適正な価格の維持よりも在庫セルスルーを優先させると、価格が乱高下し、買い手にも売り手にもデメリットが生じがちになります。ただ、そうした「適正価格」が高いか低いか考える上では、まず価格設定に対する考え方を整理する必要があります。
コンテンツの価値には、その世界観やイメージ、年齢や性別だけでは計り知れないターゲティング等の側面があると思います。例えば、20代女性社会人が多く見る番組や、幹部ホワイトカラーがこぞって視聴するニュース番組、または視聴者の知的好奇心にしっかり応える海外紀行番組といったコンテンツごとに異なる世界観をしっかり考えれば、CPM3000円以上という単価が適正である可能性もあります。こうしたコンテンツ毎に異なる世界観を作り上げ、価値を訴求していくことがまさに編成・制作・営業、そして広告会社の腕の見せ所です。一方で、世界観やターゲティングで高く売るに売れないコンテンツもあるわけで、それらを十把一絡げで、「インターネット動画広告の平均単価はいくら」と語ることは出来ないのです。
植村: 同一コンテンツの到達リーチを短期間で最大化させるという意味で、地上波のテレビ放送とオンライン動画をパッケージにして販売するという手法も当然考えられます。キャッチアップコンテンツは重複しないユーザーが集まりやすいということもあるでしょう。
ただし、こうしたパッケージの手法に関して、テレビとオンラインの単価については、為替レートの変換のように価値を換算していくのは容易ではありません。例えば、テレビCMは「全画面占拠+音声あり」が標準ですが、オンラインはそうではありませんので、広告効果の尺度を統合的に考える上ではハードルがたくさんあります。
また、先ほど申し上げたように、日本ではCM素材についても権利クリアがテレビとオンラインで分離されているケースが多いなど、クリエイティブに制約が生じていることもあります。米国では、単価を疑似的に換算していることもあるかもしれませんが、日本では議論が百出している状況です。
植村:広告の効果を考える上では、認知度と興味・関心度を分けて考えることも必要です。認知カーブという考え方があります。認知度を縦軸に、掲載回数を横軸にとったグラフにおいて、広告との接触回数が増えれば増えるほど、ユーザーの認知カーブは右肩上がりになります。
認知を得るために接触が必要な回数はケースバイケースで変わりますが、仮に5回で認知が得られる割合が多いのであれば、7回、10回と接触を図る必要はないかもしれません。ただ、5回で認知を得られるのは、顕在顧客であったり、飽きやすい層である可能性もあります。この場合、6回目以降で認知が得られるターゲットの方が潜在層の掘りおこしとなったり、よりロイヤリティーの高い顧客になるのであれば、有効な接触回数はより多めに変わってきます。
また、広告の目的が認知どまりではなく、その先の興味・関心や購買意欲への心理変容だとすると、認知カーブだけで有効フリークエンシーを論じるのはナンセンスであって、その先の「興味・関心カーブ」にこそ注目すべきです。テレビのみの広告ではリーチやフリークエンシーに限界がある場合、オンライン上でもコンテンツを上乗せして届けることで、ユーザーが自らコンテンツを深掘りする機会を提供し、芽生えた興味・関心をさらに促進させることで、より広告の目的を達成させられることが考えられます。こうした効果を実証していければ、パッケージ化も進むかもしれません。
では、なぜなかなか進まないのか、ということですが、テクノロジを専門にする人は、コンテンツ毎に異なる広告的な価値や「商売」の基本を必ずしも理解していないことが多く、配信サイドのテレビ局がその点に懐疑的ということも理由として考えられます。こうした局面では、双方を理解している広告代理店こそが、効果指標の違いを正しく理解・説明し、認知度や興味・関心度を整理し、複数の媒体を積み重ねてリーチが難しいユーザーに接触し、心理変容を起こしていくようなアプローチを考えるのではないかとも思っています。テクノロジは、あくまでもそれを実現するためのツールです。使うべきではない局面では使うべきではありません。
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