『いよいよ飛躍する「ネット動画広告」』の第2回目以降は、米国および日本の主要な業界キープレイヤー各社の具体的な戦略について紹介しています。
第3回では、2014年2月に動画配信サービス「Hulu」の日本事業を譲り受けた日本テレビ放送網(日本テレビ)を取り上げたいと思います。日本テレビは、「2020年までに現在の放送外収入を20%から半分まで引き上げることを目指す」と公言するなど、在京キー局の中でもインターネット動画の取り組みに最も積極的な企業のひとつです。
この事業譲渡の発表直前には、米国投資銀行のモルガンスタンレーが同社のレポートの中で「2020年にはYouTubeの売上は2兆円を超える見込み」と市場の急成長を予測していたことも相まって、日本テレビがHulu日本事業を買収し、本格的にサブスクリプション課金(SVOD: Subscription Video on Demand/定額制動画配信)サービスに乗り出す、ということは、業界でも大きな衝撃を持って受け止められました。
日本テレビが、Huluの日本事業を買収してサービスを開始してから、この8月で4カ月が経ちました。買収直後から日本テレビ/Huluは、「日本」の動画配信プラットフォームになることを旗頭として掲げ、日本テレビ/Huluが目指し、理想としている「地上波放送」と、「インターネット動画」の融合を積極的に進めています。この日本テレビによるHuluの買収からは、「地上波放送とインターネット動画」には、間違いなく親和性があり、双方ともに発展していくもの」という、日本テレビのある意味の覚悟が見て取れます。
これまで、テレビ局の常識として「インターネット動画でテレビ番組の見逃し配信をすると、テレビ番組の視聴率が落ちるのではないか」といった懸念があり、インターネットの活用に消極的でした。しかしながら、日本テレビでは見逃し番組を無料で視聴できる「いつでもどこでもキャンペーン」サイトを開設し、見逃し番組配信の影響を探ってきました。その結果、こうした懸念は杞憂に過ぎなく、結果的に評判のいい連続ドラマの第1、2話を見逃した視聴者の方々が、インターネット動画で視聴したあと、第3話以降で、リアルタイムの地上波放送に戻ってきてくれるケースもあり、総合的には視聴率が高止まりしてくれることが判明しました。
一連のトライアルの好結果が、日本テレビのこれまでの姿勢を後押しすることにつながったとみられます。特に、評判のいい連続ドラマでは、リアルタイムで見たいという視聴者が多くいるため、良好なコンテンツであれば地上波の放送とインターネット動画は相互に補完しあう関係になり、相乗効果が高まることも分かりました。
第1回目の記事「ネット動画広告市場の可能性--米国のトレンドを考察」でも記載しましたが、米国では全世帯の40%がインターネット接続のテレビを保有しており、その大半が、Netflix、Amazon、Huluを活用しています。米国ではもともとケーブルテレビ(多チャンネル)の視聴が一般的だった、ということもあり、インターネット動画への移行がスムーズです。
一方で、日本は、地上波キー局が強い影響力を持っているということもあり、米国市場ほど多チャンネル視聴への移行が進まないのではないか、との見方があります。事実、現状をみれば欧米ではほぼすべての番組が動画配信されているのに対し、日本ではドラマが配信されている割合が低く、バラエティに至ってはほとんど配信されていない状況です。
数チャンネルしかない放送文化のなかで育ってきた日本のユーザーに、多チャンネルの動画配信サービスを楽しむ視聴スタイルを普及していくことは容易ではありません。どういったコンテンツが、どういったユーザーに受け入れられるか、という成功の方程式もまだ明確になっていません。
しかしながら、日本テレビの動画配信事業へのチャレンジの奥底には、「近い将来、現在地上波で流している番組を、いつでもどこでも見られる時代が必ずくる」という確信があるように思えます。1970年代にテレビ番組をビデオに録画して楽しむことが当たり前になっていったように、2014年後半には動画配信サービスがより身近になるはずです。ただし、そのような中でも、地上波放送は同時性および即時性において、動画配信サービスに対する優位性が顕著です。特に、スポーツコンテンツのような即時性の高いものは、引き続き地上波放送がベースになると考えられます。
現状でHuluは、日本でもハリウッドのドラマを中心としたコンテンツを扱っており、一番短いコンテンツで60分のドラマ、長いものでは、映画や24(Twenty-Four)やロスト(LOST)などの、アメリカの連続テレビドラマが中心でした。しかしながら、今後はスマートフォンの普及もあり、隙間時間を埋める5分~10分のニュースや音楽などの短いコンテンツも必要になってくるはずです。
ただし前述のとおり、どのようなコンテンツが、インターネット動画に最適なコンテンツなのか、ということは、まだ明確に分かっていません。テレビ局では試行錯誤を続けています。音楽のプロモーションビデオを配信したところ、当初の期待以上の反響があったというデータもあります。
すでに、「HUNTER×HUNTER」、「アンパンマン」、「ゆずチャンネル」、「EBiDANチャンネル」など、これまでになかったような、若者に人気のアニメ、アイドル系の番組、大河ドラマなどの配信、また、テレビ局の制作セクションと組んだ独自コンテンツの制作、スポーツやコンサートなどのライブ配信も始まっています。インターネット動画でユーザーに受け入れられるコンテンツが何か、ということを分析し、適応させていく、トライ&エラーのプロセスは、日本テレビが過去60年かけて培ってきたノウハウを最も生かせる分野なのだと思います。
加えて、他の動画配信プロバイダと比較して、Huluの最大の武器は日本テレビの番組を活用できることです。すでに、地上波でHuluのコンテンツのプロモーションをしていたり、芸能事務所からもHuluのプロモーションに対して、積極的に協力をしてもらっています。
日本テレビ/Huluは、最終的にはサブスクリプションベースで500万ユーザーを獲得することを目指しています。その場合、WOWOWやスカパーの会員数を大きく超えていかないといけません。新しいマーケットを創造することが不可欠である以上、これまでにない取り組みも必要になります。日本テレビは、地上波、BS、CSに続くビジネスとして、インターネットをプラットフォームとした動画配信ビジネスを2年以内に確立することを目指しています。
日本テレビによるHulu日本事業の買収は、在京キー局が自らインターネット動画配信ビジネスに本気で取り組むべきだ、という強い意志を世の中に示すことになりました。この点は、日本テレビにとってプラスに働いたと思います。これまで、どちらかというと、インターネット動画はコストがかさみ、ビジネスとして展開していくことは難しい、という定説がありましたが、この買収により、潮目が変わったのは間違いありません。しかしながら、日本テレビ/Huluだけでは、インターネット動画市場を作っていくことは困難だということも事実です。テレビ局、コンテンツホルダー、広告代理店などとの連携が、今後はさらに加速をしていくと思います。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」