この連載『いよいよ飛躍する「ネット動画広告」』の第2回目からは、米国および日本の業界を代表するキープレイヤーから、各社の具体的な戦略やネット動画広告市場について、お話しいただこうと思います。
そこで今回は、動画配信プラットフォームのOoyalaのSean Knappさんにご登場いただきます。Seanさんは、Ooyalaの共同創業者、エグゼクティブバイスプレジデント兼最高製品責任者(CPO)として、同社の製品と技術のすべてを統括し、事業方針を決定しています。
Ooyalaは、米国カリフォルニア州マウンテンビューに拠点を置き、インターネット動画のマネタイゼーション、アナリティクス、コンテンツ管理プラットフォームを提供している企業です。特に、Ooyalaでは、動画の視聴分析(アナリティクス)に注力しています。ユーザーにとっては、動画の視聴経験が改善し、コンテンツホルダーにとっては、マネタイゼーションの機会を増加させることにつながります。従来の動画配信プラットフォームの機能パッケージでは、最先端の消費者を満足させることは難しいと考えているためです。
Ooyalaは、次世代の動画経験の基礎は、「データ」にあると信じています。欧米と比較して、日本は動画の視聴分析を利用することにより、新しい動画経験を作っていこうとする考え方に、それほど積極的ではなかったのではないでしょうか。しかしながら、Ooyalaの顧客・パートナーである、日本テレビ、ヤフージャパンといった革新的な会社が、このトレンドに追いつこうと動き始めています。日本市場でも変化が起きていると感じています。
Ooyalaを活用しているメディア企業は、自らのコンテンツの価値を明確に理解しています。一方で、ユーザーの動画視聴の変化や視聴端末が多様化した結果、新しい配信方法(シンジケーション)や、課金方法(マネタイゼーション)が必要であることも認識しています。Ooyala以外にも、インターネット上で、動画配信プラットフォームを提供する企業はさまざまにありますが、その中でも、Ooyalaの顧客には、自らのビジネスをどうやって成功に導くかといったニーズを把握したうえで、本格的に動画配信事業に挑戦する企業が多いと感じています。
この数年間で、「テレビ」の定義が変化してきました。動画視聴は、もはや家庭のリビングの中心で固定されているテレビにとどまらず、モバイルおよびタブレット端末での視聴も一般化してきています。現在、インターネット動画の約25%が、モバイルやタブレット端末で見られています。日本ではこの傾向がさらに進んでおり、2014年度第1四半期には、モバイルのみでも約20%を上回ってきています。今後、モバイルやタブレット端末での動画視聴は間違いなく増加するものと予想しています。
モバイル端末の小さい画面でも、視聴時間が長くなってきています。これまで、モバイル端末で「長尺コンテンツを見ることがあるのか」といった疑問の声が多くありましたが、Ooyalaのデータによると、すでにインターネット動画視聴の過半は30~60分以上の長尺プレミアムコンテンツだとわかります。
インターネット動画の普及は、テレビ放送局の既存のビジネスモデルに多くの新たな機会を創出していると思います。今ほど「スピーディーに」かつ「安価」で、コンテンツを制作できる時代は、これまでありませんでした。コンテンツを既存の形式やルートを使って提供する必要がなくなり、さまざまな実験的動画コンテンツの制作配信が可能になりました。
世界の放送局では、生放送をインターネットに配信する以外にも、「Catch up TV」(放映後の番組ネット配信サービス)、「Transactional Video on Demand」(都度課金制動画配信)、「Subscription Video on Demand」(定額制動画配信)、「Download-to-own」(売り切り型の動画配信)などの試みが行われています。
コンテンツの長さに縛りがなくなったことにより、さまざまな機会が誕生しました。例えば、特に小さい画面の端末に適しているものとしては、長尺のコンテンツを1本配信するよりも、短尺のコンテンツに分割し、連続で視聴した方が結果としてよりよい、ユーザーのエンゲージメントを高めることがあります。「Teaser content」(集客を目的としたコンテンツ)を最適に配分することで、これまでにない速さで視聴者を集める事例もあります。
プレミアムコンテンツをマス向けに送り届ける放送局のビジネスモデルは、今後も継続するものと思います。一方で、インターネット動画にコンテンツを提供し始めると、放送局は複雑なコンテンツ配信および広告ルールを1視聴者単位でオペレーションすることが求められます。
インターネット動画にコンテンツを提供することにより、既存のテレビ放送事業そのものからの広告売上が下がってしまうのではないか、との懸念が根強くあることも認識しています。しかしながら、テレビ放送のビジネスモデルも同時に変化を続けています。現代の視聴者にとっては、あまりある選択肢があり、放送局が今後もこれまでと同様の事業モデルを継続させることは難しくなってくると思います。ただし、メディア全体の視聴時間が今後も増えることに間違いありません。
放送局を中心としたメディアのリーダー企業は、コンテンツ制作、視聴者分析、広告事業に関して、豊富な経験や知識を有しており、次世代のインターネット動画プラットフォームでも、間違いなくもっとも優位な立ち位置にいると言えます。ただ、メディアの総合的な売上は、今後も引き続き増え続けますが、現在の放送事業からの売上はその一部になっていくと考えています。欧米では、世界最大の放送局(Viacom、Univision、Channel 4)、エンターテインメント企業(WWE、HBO、Disney)、コンテンツ配分企業(DirecTV, Sky, Dish Networks)も、それぞれ、次世代のメデイアに適する技術インフラおよび事業モデルに投資しています。
インターネットでの配信を当初から目的にした動画コンテンツは、今後も増え続けます。今まで見たこともないエッジの効いたニュースを制作しているVice Mediaや、ビデオゲームファンを中心としたコンテンツを提供しているMachinimaの「中尺コンテンツ」は、インターネットでの視聴者数を増しています。
大きなトレンドとしては、米国のトップ放送局に負けないような高い品質のインターネット動画専用コンテンツを、NetflixやAmazonが独自で制作し始めたことが挙げられます。
こうした新たな取り組みに注目が集まる一方で、インターネット動画の視聴が成長し続けている主な要因は、既存のニュース、スポーツ、ドラマ番組などのコンテンツがテレビからインターネットに移行しているため、といった事実を無視することはできません。インターネット向けに作られているコンテンツは今後も成長することが予想されますが、既存の放送局向けに作られた“プレミアム”コンテンツに対してのニーズは依然として高いと考えています。
モバイルおよびタブレット端末での動画視聴が主流になってきました。60分間以上の動画であっても、視聴者の割合はスマートテレビを超えます。もちろん、まだまだ長編の動画に関しては、テレビなど大画面での視聴が好まれていることは間違いありません。しかしながら、同時に外出先での動画視聴が一般化してきたことも見逃せないトレンドだと思います。
また、一般的にライブ放送は「大画面が好まれる」とも言われています。コンテンツホルダーにとっては、どのユーザーにどういった見られ方をしているのか、といったことを想定して企画案を検討することが、今後ますます重要になってくるでしょう。
このためにもOoyalaの提供するような動画の視聴経験の分析(アナリティクス)を効果的に活用し、ユーザーの動画経験をよりよいものしていくこと、その結果としてより多くのユーザーとコンテンツホルダーを惹きつけ、さらなる改善や革新的な視聴経験を提案していくことこそが、マーケットに好循環を生み出し、動画視聴をめぐる収益機会を活発にしていくと考えます。
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