この連載では、企業でのアプリのプロモーション活用から、スマートフォン広告で重要な位置を占めるテクニカルな運用型広告、メディアやアプリ・マーケットなどの市場環境を含め、“デジタルマーケティングの今”をお伝えする。
前回に引き続き、バスキュールのプロデューサー古川裕子氏を迎え、スマートフォンを活用したダブルスクリーンなどをテーマとした対談をお送りする。
新野:では、今回もいくつか事例をご紹介いただきましょう。
古川:日本テレビの金曜ロードショーで放映された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の連動企画「ムーヴィーシンクロナイザ」は、映画の名場面を友人と一緒に楽しむという狙いで実施しました。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版の数々の「名セリフ」のタイミングに合わせて、スマートフォンの画面に「シンクロボタン」が配置されます。画面には名セリフ放送までのカウントダウンを表示し、名セリフが登場する場面にあわせて「シンクロボタン」を押せば、ポイントが獲得できます。SNSと連携させて、友人の参加状況もわかるようにしました。
単純な仕掛けだったのですが、総タップ数は1億7000万タップを記録しました。ただテレビを見るだけではない、ダブルスクリーンならではの楽しみを味わってもらえたのではないでしょうか。
新野:確かにアニメ系では、参加者の人数も多く、アクティブな傾向がありますよね。「天空の城ラピュタ」の“バルス”も有名ですが、1秒あたりのツイート数が10万件を超えたなんてこともありましたね。
もう少しマーケティング寄りということで、CMと絡めたものではいかがでしょうか?
古川:今年の春に放送した「もってけダービー」というTBSの特番では、視聴者参加型のダービーを行ったのですが、番組中、CMのタイミングに合わせて、端末の画面を切り替え、CMの内容にかかわるクイズ形式のアンケートを行いました。
CMの商品を知っていたかどうか、あるいは内容についての簡単な質問などを行って、視聴者が回答するとスポンサー名義のボーナスポイントを獲得できるという仕組みにしました。
すると、ポイントをゲットした視聴者が、その商品に関する好意的なコメントをしたり、スポンサーにお礼を言うメッセージをたくさんツイートしていました。仕込みではないんですよ。ちょうど、人によっては手持ちのポイントが不足する、「おけら」になるタイミングだったのかもしれませんね(笑)。こうなると同じCMでも受け手の印象は全く違うわけです。その商品に対する理解度、親近感も大きく向上するはずです。
新野:シンプルに15秒、30秒のCM動画を流すのとはまったく異なる、テレビの新たな広告手法の提案といえますね。番組自体に絡めたさまざまな施策=エンターテインメント体験をCMも含めて企画し提供していくという手法は、おおいに期待できる広告ソリューションの一つだと感じます。逆に言えば、CMと番組は別なのではなく、CMも番組の貴重なコンテンツの一つとして成立する作りにすることで、テレビ番組も、テレビCMのあり様も大きく変わるかもしれません。
古川:テレビ局は、そういった新規性の部分を含めて、スポンサーと交渉しています。これは、メディアとしての新しい取り組みだと思います。弊社で開発した視聴者参加型番組用のプラットフォーム「M.I.E.S.」をベースに、番組の企画から、スポンサードの仕組みみたいなところまで、ご協力させていただいています。
新野:カケザンでは昨年の暮れに、キャンペーン施策としてテレビCMと連動するアプリを開発しました。CM放映時にたまたまスマートフォンでアプリを立ち上げて準備している視聴者の存在を期待することはできないので、事前に「もうすぐこの番組でCMが流れますよ」というプッシュ通知を行いました。それで視聴者の方にはスタンバイしてもらいます。
アクションとしては、映像認識の仕組みでCMにスマートフォンをかざしてCMをキャッチしてもらうというものでした。今後、さまざまな形でCM連動のセカンドスクリーン施策は展開されていくと思いますが、このような、CMが流れる際にいかに準備をして、視聴者にテレビの前でスタンバイしてもらうかが一つの大きな鍵になるかもしれません。
古川:コンテンツと絡めた試みとしては、毎週金曜の夜にWOWOWで放映されている「金曜カーソル」という無料番組があります。これは、視聴者の参加によって、内容が変わるという新感覚のエンタメバラエティ番組です。
実は、これはWOWOWさんの番組を紹介する番宣番組なんです。週末から翌週にかけてWOWOWで放送されるスポーツの試合やイベントの結果を予想する「エンタメブックメーカー」というコーナーがあるのですが、参加者は出されたお題について、オッズの値やスタジオのトークなどを参考にしながら、番組独自の仮想通貨「カーソルコイン」を賭けます。
参加者のコメントやベットの状況はリアルタイムで画面に反映されるのですが、出演者と視聴者が一緒になって、みんなでああでもないこうでもない……と言い合いながら結果を予想するのは、番組と視聴者の間で、今までに無かった新しいコミュニケーションが実現できていると感じます。
単純に番宣を放送するだけでは視聴者は注目してくれないと思うのですが、視聴者参加型の番組にすることで、エンターテインメント性の高い番組としてお楽しみいただいています。
新野:一般的なCMでテレビの前にユーザーが都度いてくれることを期待するのは難しいですが、1本買い切りで、番組自体で面白いダブルスクリーン体験を提供し、その中でスポンサードのものもやっていくというのは、考え得る一つのソリューションだと思います。その番組のコンテンツにCMも載せていく。アメリカではスーパーボウルなどはCMの豪華さが有名で、CMもコンテンツ的に見られています。試合の内容に連動してスマートフォンで何かを訴求することはできるでしょうね。
プロモーションとは少し違いますが、昨年、スーパーボウルで停電があったときに、オレオが気を利かせて「停電してもオレオがあるよ」みたいな気の利いたメッセージを発信して評判になった例もありましたね。
今回は様々な事例をおうかがいすることができました。テレビを視聴している時に、スマートフォンをいじっていたり、気になることがあるとすぐに検索するといった生活者のライフスタイルは、皆さんもよくご存知のことかと思います。“人がたくさんいるところに広告を出す”、“生活者の生活シーンにおけるコンタクトポイントで何かをしかける”、このようなことはマーケティングの鉄則ですから、スマートフォンとテレビのダブルスクリーンを活用したマーケティング手法が広がっていくのは当然のことかもしれません。
(執筆:カケザン Chief planner/クリエイティブ・プランナー 新野文健)
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