この連載では、企業でのアプリのプロモーション活用から、スマートフォン広告で重要な位置を占めるテクニカルな運用型広告、メディアやアプリ・マーケットなどの市場環境を含め、“デジタルマーケティングの今”をお伝えする。
前回は、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスを活用したマーケティング手法「+Mobile」の事例などを紹介した。今回はその関連として「O2O」や「オムニチャネル」に触れる。
ここ数年、流通現場ではO2Oやオムニチャネルという概念がもてはやされ、成功事例も生まれ始めている。ただ実感としては、その進捗は決して早くはない。
それはなぜか。なぜ多くの企業はO2Oにもう一歩、踏み込めないのだろうか。要因はさまざまだろうが、重要なポイントの一つとして、O2Oを単に販売活動の一環と位置付けている企業があまりに多いことを指摘したい。
施策における短期のゴールは、店頭を訪れる生活者が増え、売上が伸びることかもしれない。しかし、それだけのために、いわば折り込みチラシや紙のクーポンを配布する代わりのサービスのようにO2Oを捉えるとしたら、それはあまりにもったいないことだ。
O2Oを専門にコンサルティングするSPARKは、循環型O2Oメソッドを提唱する。これは単発的に、そして一方向で機能するO2Oではなく、あくまでも継続的に循環するO2Oを意味する。
これは前回紹介した“共創マーケティング”とも相通じるところだ。O2O施策は、まだまだウェブ上のディスカウントクーポンの配布が大半である。しかしSPARKは循環型O2Oメソッドで、顧客とのエンゲージメントを高める仕掛けを回しながら、オフラインとオンラインの循環を作り出すことを提唱している。従来型の掛け捨ての販促活動から脱却し、来店客をリピーターとして顧客化、その顧客との関係性を維持した形で、販促活動を組み込むという視点が重要になる。
マーケティングの概念として古典ではあるが、FSP(Frequent Shoppers Program)の考え方をO2Oの中で達成することを考えるとわかりやすい。顧客になればなるほど、リピートすればするほど得をするというシステムだ。ばら撒き型ではなく、エンゲージの深さによって得をしてもらう。同じクーポン施策でも、そうした工夫がこれからは必要なのではないだろうか。
さらに言えば、この場合のエンゲージメントを深めるツールとしては、クーポンによるお得感だけでなく、顧客にとってより有益な情報の提供、エンターテインメント性やサービスの提供なども含まれる。それが顧客の体験価値を高めることになる。そこまで考えてO2O施策を考えていかないと、実にもったいない話だと思う。
オムニチャネルもまた同じだろう。企業の利益の最大化だけを考えるのではなく、顧客価値の最大化を図るのがあくまでも基本だ。「いつでもどこでも売れる」のではなく、顧客がほしいときに、思いついたときに、情報を得たときに、いつでもどこでもすぐに、簡単に買える利便性の提供である。
マーケティングは常に「顧客ファースト」が基本だ。顧客の欲求を満たすためのサービスを充実させた結果、サービスがオムニチャネル化される。そして、利便性やお得感、情報提供などから顧客の満足度が上がった結果、より大きな利益が企業にもたらされるというサイクルだ。
単発のプロモーションを測るKPIでO2O施策やオムニチャネル施策を判断しようとすると、コストパフォーマンスがよくないという結果になりがちだ。しかし、顧客の体験価値を高めることで、顧客生涯価値を高めるという中長期的な観点でとらえれば、O2O施策やオムニチャネル化のプロセスは、実はリーズナブルな投資だとわかる。
では、そこにどうスマートデバイスが絡むのか。当然、いつでもどこでも情報が得られ、購入ができるという環境を整えるためには、スマートデバイスの存在が不可欠であることは分かってもらえると思う。そのため、これも前回の「+Mobileマーケティング」であると位置づけられる。
カケザンでは、+Mobileマーケティングを中心に、マーケティングにおけるデジタル活用のプランニングを進めるにあたり、以下の3つの要素が必要であると考えている。
1つは、流行語にもなった「おもてなし」だ。サービスが多数存在するデジタルの世界では、生活者の視点に立ったサービスしか支持されない。2つ目は「おどろき」。日々進化するテクノロジをサービスに導入しなければ、古いサービスと整理されてしまい、支持されることはない。
そして3つ目が「てつがく(哲学)」。いい意味でも悪い意味でも、なんでもできるのがデジタルの世界である。生活者にとって不安も存在する世界で、企業としっかりエンゲージメントできるサービスを提供しなければ、ゴールにはたどり着けない。これらの3要素は、デジタルでの顧客体験価値向上を狙う際にも十分に当てはまるものだろう。
(執筆:カケザン Chief planner/CEO 磯雅範)
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