沖縄県内で4月25日から、観光地への誘客、地元店舗での購買促進を目的としたO2O(Online to Offline)施策が進んでいる。リクルートライフスタイルのポイントアプリ「Airウォレット」とクラウドレジアプリ「Airレジ」を使ったもので、同社が2月に熱海で始めた実証実験の“沖縄版”といえるものだ。同社はこの現状を紹介するプレスツアーを5月8日に実施し、アプリの活用状況、導入店舗からの反響などを紹介した。
この取り組みでは、「リクルートポイント」をフックとして観光客を地元店舗へ誘客し、購買を促す。具体的には、同社が運営する宿泊予約サービス「じゃらんnet」の会員基盤を活かし、沖縄県内の宿泊予約者にポイントを事前付与することで来店の動機をつくる。さらに今回は那覇空港に特設ブースを用意した。来場者に対し、リクルートポイントを貯められるAirウォレットの利用を促し、1000ポイント(=1000円)を特別付与する。なお、リクルートポイントは(現時点で沖縄県内では)約40店舗で利用でき、対象店舗はAirウォレットで検索できる。
一方で店舗側に対しては、会計時にリクルートポイントを認証できるAirレジを使ってもらうために、iPadを無償で貸し出している。Airレジは、モバイル決済サービス「Square レジ」との連携によりクレジットカード決済が、クラウド会計ソフト「freee」との連携により売上データの自動取込みが可能となっている。
沖縄県では、観光産業が県内のリーディング産業として重要な役割を担っている。2013年度の観光客数は前年比11.1%増、過去最高の約658万300人。県では、景況感の上向きによる国内旅行需要の拡大に加え、南ぬ島石垣空港(新石垣空港)の開港、国内/海外航空路線の拡充などが影響したと見ている。2014年度の目標には「680万人」を掲げ、2021年度までに「1000万人」を目指すという。
これまで以上の観光集客を図るうえで、沖縄県は今後強化していく点として「他国の言語、文化を理解できる人材の育成」「年間を通した安定した観光集客」などとともに「スモールビジネスのIT活用」も想定している。今回のO2O施策に関連づければ「金融決済」に関する分野にも強化すべき点がある。沖縄県文化観光スポーツ部 観光政策課の山川哲男氏によると、沖縄観光客の満足度調査において、金融決済に満足している人は全体の24.1%しかいないという。
この要因の一つには、クレジットカード決済を求めることの多い外国人観光客の影響が考えられる。AirレジとSquare レジの提携発表時、Squareカントリーマネージャの水野博商氏は「『日本ではカード決済できない店が多い』という不満を持つ外国人観光客は多い。Squareは都市部を中心に展開しているが、外国人観光客の多い白馬のスキーエリアでも50件以上の導入店がある」と話していた。なおAir レジでカード決済をする場合には、「Squareリーダー(切手サイズのクレジットカード情報読込み端末)」をiPadなどのイヤホンジャックに差し込み、会計時に支払い方法としてSquareを選ぶ。決済手数料は3.25%。
山川氏は今回のO2O施策に対し「Airレジ、リクルートポイントをどんどん拡大させて、沖縄観光の消費額の増加につなげてもらいたい」と期待する。「(新たな施策を考えるときは)県はマクロ的な部分から動くのが使命。細部については、民間の方のアイデアや意見を聞いて初めて気づくこともある」と明かし、「一緒に取り組めることがあれば、公の立場から協力していきたい」と語った。
琉球大学で観光産業科学を教える下地芳郎教授は、「沖縄観光の課題の1つに、1人当たりの消費単価の伸び悩みがある」と指摘。「『値段が高くても良いものが欲しい』という人をターゲットとし、現地情報と連携した機会損失を起こさないためのツールとしてアプリ(Airレジ、Airウォレット)が広まれば、効果は出てくると思う」との見解を示した。
「観光振興においてもITは効果的に使えるが、それだけで完結してはいけない。洪水のように流れる情報のなかで人に何かを届けるには、『沖縄にいいものがある』と伝えるだけでなく、それ以上に価値のあるコンテンツを考えていかなければならない」(下地氏)。
かりゆしウェア(沖縄アロハシャツ)を販売するALOHA SHOP PAIKAJI 国際通り店では、「商品の販売イベントを外部で開く際に、タブレット端末で会計ができるのは便利」なことからAirレジの導入を決めた。もちろん店舗でも運用しているが、現状では顧客管理などの業務を補うために従来のPOSレジと併用しているという。
「従来のPOSレジと操作感は変わらず、スムーズに運用できている」とショップスタッフの新見碧氏。Airウォレットの利用者は1日に1~2名ほど来店しているという。「これまでのAirウォレット利用者は全員、一見のお客様」(新見氏)と言うように、今回の取り組みの目的である“地元店舗での購買促進”はすでに一部で実現しているようだ。
他方、那覇空港内で土産物店を運営するエアポートトレーディングでは、「リクルートポイントによって新規顧客の開拓が見込める」という理由でAirレジを導入した。同社代表取締役社長の丸橋弘和氏によると、同社では以前よりiPadまたはiPad miniを従業員約110人に1台ずつ貸与しており、従業員はすでにタブレット端末の操作に慣れているため、独自の操作が必要なAirレジを取り入れても大きな障害にはならないと考えたそうだ。
丸橋氏によると、同社が展開する店舗で行われている現金以外の決済は8割がクレジットカードで、残りが楽天Edyなどの電子マネーだという。「リクルートポイントはまだ運用2週間だが、売り上げの実績をみると、すでにedyに次ぐWAON(イオンリテール発行)、SUGOCA(JR九州発行)と同じレベルに達している。これからさらに市場を広げてもらえるよう期待している」(丸橋氏)。
Airレジはこのほか、那覇市を中心とし、飲食店、CD・楽器店、ダイビングショップなどで導入されているという。
今回の取り組みを現地で支えているのは、リクルートグループの沖縄におけるエリアマーケティングを担うリクルートライフスタイル沖縄だ。沖縄出身で同社代表取締役社長の武田寛枝氏は、アルバイトとして協力した琉球大学の学生らとともに、自らも那覇空港の特設ブースに立つ。「この施策で消費単価を上げ、沖縄の観光経済に寄与したい」(武田氏)。実証実験は8月中旬まで、残り約3カ月間を予定している。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」