この連載では、企業でのアプリのプロモーション活用から、スマートフォン広告で重要な位置を占めるテクニカルな運用型広告、メディアやアプリ・マーケットなどの市場環境を含め、“デジタルマーケティングの今”をお伝えする。
前回は韓国や中国、タイのアプリ市場の動向をお伝えした。今回は韓国を深掘りし、D2Cのゲーム事業での取り組みとともに紹介する。
韓国市場の特徴は、キャリアマーケットがGoogle Playよりも先に立ち上がり、まだ一定の大きな市場を持っていることだ。まず、これを説明するために韓国のキャリア事情を簡単に紹介しよう。
移動体通信キャリアでは、SKテレコムという圧倒的ナンバー1のキャリアが存在する。もともとは紡績と石油化学で大きくなったグループで、ソウルに出張するとSKブランドのガソリンスタンドをよく目にする。2番手のKT(コリア・テレコム)はモバイル専業ではなく、固定電話で韓国ナンバー1というキャリアで、韓国最大の通信事業者だ。そして3番手にはLGグループのLG U+が続く。
ナンバー1のSKテレコムは、Tstoreというキャリアマーケットを持っている。これはNTTドコモのdマーケットと同様に、ゲームに限らず、さまざまなデジタルコンテンツをスマートフォン上で購入、決済できるというもの。韓国では2年前まで、Google Playよりも市場規模が大きかった。なお、KT、LG U+もキャリアマーケットを保有しているが、マーケットの大きさはTstoreが圧倒的だ。
そんな韓国市場も、この1年半の間に事情が変わった。Google PlayとApp StoreでカカオトークのAPIを積んだゲームが大ヒットしたことにより、今はGoogle PlayのほうがT storeよりも倍以上の市場規模になっている。
ちなみに皆さんもよくご存じだと思うが、韓国はSamsungが大きな力を持っていることもあり、iPhoneは日本ほど売れず、GALAXYシリーズが一番人気である。OSシェアも9対1でAndroidがリードしているため、韓国においてはGoogle Playでの戦い方がより重要となる。
D2Cも、2013年の秋に韓国においてカカオトークのAPIを搭載したゲーム「カカオゲーム」をリリースし、失敗をした苦い経験がある。しかし、これによって多くを学ぶことができた。
日本と韓国のスマートフォンゲームの環境はどう違うのか。日本はPCからスマートフォンに移る間に、フィーチャーフォンでモバイルサイトを見るというカルチャーが根付いていた。そのため、たとえばmixiのサイトをmixiモバイルで見るとなると、縦に長いユーザーインターフェース(UI)をスクロールしながら見ることになる。そして、そうしたUIに日本人ユーザーは慣れている。
我々も、日本でゲームを作るときは、できるだけページから離脱させないために1ページで出来る限りの情報を提供する。また、通信をあまり発生させないよう、縦に長くUIを作っていた。
ところが、韓国は米国と同じように、フィーチャーフォンの時代にモバイルサイトを見る習慣はなく、電話以外はせいぜいSMSを活用するくらいだった。そのため、ブラウジングや通信の発生という面では、PCからスマートフォンに直接移ってきたようなものだ。最初からスマートフォンに最適化されたUIでゲームをやっているので、スクロールするという文化がない。そのため、縦に長い画面では、かえって離脱率が高くなってしまった。
加えて、自分たちのゲームのローカライズを決めた時点では、韓国のマーケットでは、カカオゲームを作れば何でもヒットするという状況だった。ところが、カカオゲームが100本を超えはじめた頃から、すでに勝ち組といわれるゲームパブリッシャーの新作しか、ランキング上位に入れない状況になってしまっていた。
韓国のスマートフォンゲームパブリッシャーで上位に位置付けているのは、CJ E&M(コングロマリット企業CJグループのエンターテイメント事業を展開する主要子会社)と、WeMade EntertainmentというPCオンラインゲームからスタートした企業で、当時は両者で人気を二分していた。彼らのデイリーアクティブユーザー(DAU)は、それぞれ数百万規模に上っている。
そのため、新作をリリースした際には、自社のゲームのアプリからユーザーを一気に送客できるわけだ。そして、1日に数十万件ダウンロードされ、一気にランキング上位に登場する。そのような状況であるため、新参者がカカオゲームを出してもランキングの上位に入るのは至難の技であるわけだ。しかも、お金を使ったプロモーション効果も日本ほど高くはない。
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