米国では先日、リーマンブラザース破綻前に同社の株を空売りした有名ヘッドファンジマネジャーが「15年ぶりに第2のITバブルが生じている……バブル株の空売りを始める」とクライアントに告げ、物議をかもしている。同氏に限らず、米国では2013年後半から「ITバブル2.0」を警告する声が聞かれるようになった。
NASDAQ総合指数は金融危機後、2009年3月に底を打った後、2800ポイント近く上昇し、2013年11月には4000に達した。これはITバブル(英語ではdotcom bubble)天井の1999年以来のことである。
2013年には、インターネット・ソーシャルメディア企業26社がIPOを行ったが、これも89社だった2000年に次ぐ数である。インターネット企業IPO資金調達総額では、2012年に183億ドルに達し、1999年の159億ドルを抜いている。
そして、Twitterのように、誕生してから7年間、一銭も利益を計上しておらず、2013年だけでも6億ドル以上赤字の企業の株価が、IPO当日に73%上昇し、時価総額240億ドルの評価を受けている。2013年にIPOを行った企業の74%が赤字だったのだが、これも2000年以来の高値である。
利益どころか、まともな売り上げさえないソーシャルメディア企業もある。4年前創業のPinterestは、広告収入で、今年、初めて売上を上げる予定らしいが、これまで計5億ドル以上の資金調達を受け、企業価値は38億ドルと言われている。Facebookの現金30億ドルの買収申し出を蹴ったSnapchatも、売上ゼロだ。
ITスタートアップ企業に就職の面接に行って「どうやって儲けるつもりですか?」と聞いたら、返答はなく、嫌な顔をされたという逸話もある。
こういう話を聞くと、ITバブル1.0時のことを思い出さずにはいられない。南カリフォルニアでドットコム企業を立ち上げようとしていた知人らが「事業計画は5年分はいらないよね?3年でいいよね?」と言いながら、結局、4年分の計画を立てていた。彼らはサイト立ち上げ後、1年後にはIPOをするつもりだったから。別のドットコム企業で働く知人に「御社の収益モデルは?」と聞いたら「株」と返事が返ってきたときには、その正直な答えに思わず笑ってしまった。
ITバブル1.0当時、ドットコム企業はビジター数やページビュー数で企業の成功の可能性が測られたが、ソーシャルメディアは、主に無料のユーザー数で測られている。
当時、メールやウェブスペース、各種ツールが利用者に無償で提供されたことは画期的だったのだが、今では「ネットで利用できるツールやコンテンツはタダ(であるべき)」というのが利用者には染み付いてしまっている。なお、当時は商品送料無料合戦や「口座を開設すれば50ドル贈呈します」合戦も繰り広げられていた。近年、エンジニアの取り合い合戦が起こっているシリコンバレーでは、雇用契約時のボーナスに6万ドル、1年分の車リース提供といった話もあるが、これもバブル1.0時の「雇用契約時にBMWやハワイ旅行」を彷彿させる。
筆者が2000年に『黒字ドットコム』を刊行した際、意図は黒字の米中小企業の紹介だったのだが、皮肉にも有名ドットコム企業が莫大な赤字を垂れ流していることが日本では知られておらず、そちらの方が反響を呼び、「『赤字ドットコム』を刊行すべきだった」とご指摘をいただき、悔しい思いをしたのだった。1998〜2000年、バブルのど真ん中で、米ドットコム企業のビジネスモデルを調査分析し、各社の財務諸表に目を通していた筆者としては、なつかしい限りである。
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