過去3カ月近く、米国内を騒がせているのが、2014年から本格的に施行される医療改革保険法(オバマケア)だ。前編では、保険加入サイトやセキュリティ面での不安などを説明した。
連邦政府の保険加入システム構築には3年と6億ドル以上の予算が費やされたのだが、なぜ、これほどまでに失敗してしまったのだろうか?
IBMやQSSIなどをしのいで保険加入システム開発の主要ベンダーとして選ばれた大手ベンダー。同社はこれまでに、いくつも米連邦政府のITプロジェクトを受け請ってきた。
ただし、この会社は10年ほど前にカナダの会社が買収した米企業がベースになっており、買収前の企業は数々の政府プロジェクトで失敗したと伝えられている。納入システムが稼動せずに契約を打ち切られたこともあり、政府に契約違反で訴えられたこともある。同社の社員らが買収後の現会社の上層部にいるのだが、2010年にも実績に問題ありとして、連邦政府の別のプロジェクトの入札を拒否されたという。この10月にも、別の政府プロジェクトに関し、下請業者から契約違反で提訴されている。
10月の議会公聴会でも、保険加入サイトの稼動失敗に関し、政府関係者は同社が何度も納期を守らなかった点を挙げたが、同社では担当部分は契約どおりの納品をしたと主張し、サイト立ち上げの責任を負うのはシステムインテグレーター役の政府であると応酬している。
さらに、主要ベンダーは「問題は別のベンダーの開発部分」と責任転嫁をし、責任転嫁をされたベンダーは「当社が担当した部分はほんの一部であり、他社の開発部分がすべてシームレスに機能しなければならない。予想以上のアクセスがあった」、他のベンダーも「当社が開発した部分は、ちゃんと稼動している」と公聴会で責任のなすり合いを繰り広げた。
11月末にニューヨークタイムズが報じたところによると、主要ベンダーは、かなり以前から連邦政府に10月1日のサイトオープンは無理だと伝えていたようだ。ハードとソフトの不具合が600以上あり、8月末に「このままでは予定どおりのサイトオープンは無理」と政府担当者も悟り、スペイン語版や保険会社への補助金支払システムなど30近くの要件を断念したらしい。しかし、それでも、ユーザーわずか500人のシミュレーションにも耐えられなかった。
時はすでに9月後半。オバマ大統領が国民に向けて、「とてもシンプルなことなんです。医療保険が簡単にオンラインで比較ショッピングできるんです」と演説していた頃だった。
政府関係者らはパニックとなり、データ容量を倍近くにするよう命じたが、それでもサイトオープン後、稼動率は42%で、10時間落ちっぱなしであることも珍しくなかった。クラッシュした場合のバックアップも用意されていなかったという。
ベンダーらによると、システム要件を繰り返し変更し、かつ政府の決定プロセスがあまりにお役所的で、「ユーザーは社会保障番号を入力するべきか」といった簡単な質問ですら答えが返ってくるのに何週間もかかる。「こんな環境ではいい成果を出せない」と仕事を放棄するソフト開発者らもいたという。
政府側のシステム開発監督者は、3年で5人も変わり、結局、日々の監督は、メディケア(高齢者向け公的保険)部門の責任者が任されることになった。責任者はIT経験がないにもかかわらず、同部門が55社のベンダーをまとめるシステムインテグレーターの役割を果たすことになったわけである。
IT従事者らの声をまとめると、プロジェクトマネジャーの不在が失敗の最大要因といえそうだ。保険加入サイトというのは前面に見える部分だけであって、後ろでは歳入庁、メディアケア、メディケイド、州政府、保険会社などのデータベースと連動させなければならない非常に複雑なシステムである。これほど複雑なシステムを一度に導入しようとしたのが、そもそもの間違いということだ。現在、連邦政府で使われている大規模なシステムは、何年にもわたって開発導入されてきたものである。
希望するすべての機能を導入するには時間がかかり、期日の方が大事であれば、機能を一部あきらめなければならない。技術のことがわかっていない経営陣というのは、「すべての機能がほしい、今すぐほしい」というものだが、そこを納期を考えて現実的な要件に落とし込むのもプロジェクトマネジャーの仕事。クライアント(ホワイトハウス)の要望、期待値を管理できる人物がいなかったということだ。
もちろん、ベンダーの落ち度もあるだろうが、過去にも問題を何度も起こした会社を主要ベンダーに選んだのは、発注先である連邦政府なのだ。そして、そのツケを払うのは、私たち納税者なのである。
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