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組織の透明力

経営を劇的に改善するキーワード「真実の瞬間」とは

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年10月28日 08時00分
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今、ふたたび注目されているキーワード「真実の瞬間」

 マーケティング界隈で、ふたたび「真実の瞬間」(Moment of truth)という言葉が注目されている。きっかけは、Googleが2010年に発表した「Zero Moment Of Truth 〜 ゼロ番目の真実の瞬間」だ。このZMOT(ジーモット)という言葉が、ネット時代の新しい消費行動を表す概念としてマーケッターの脚光を浴びたからだ。


出所: Google「Zero Moment Of Truth」

 「真実の瞬間」(La hora de la verdad)という聞きなれない言葉は「消費行動における重要な顧客接点」をあらわすが、もともとは闘牛用語で「闘牛士が闘牛のとどめを刺す瞬間」を指すものだった。

 赤い布で闘牛を挑発する闘牛士の狙いは、牛の背にある5センチ四方の「針の穴」と呼ばれる部位だ。そのピンポイントに垂直に剣を突き刺すと、その剣先は心臓まで達し、闘牛は一瞬にして死を迎える。「真実の瞬間」とは「針の穴」への接触する刹那、いわば闘牛士と闘牛の生死を分かつ決定的な一瞬を表しているのだ。

 ビジネス用語として「真実の瞬間」という言葉を最初に使ったのは、同名の大ヒット書籍を執筆した名経営者、ヤン・カールソンだ。1981年にスカンジナビア航空の最高経営責任者(CEO)に就任したカールソンは「真実の瞬間」にすべてを賭け、赤字で苦しんでいた同社をわずか一年で立て直した。この記事では、マーケティングの真髄とも言える「真実の瞬間」にフォーカスし、その歴史を紐解きながら、僕たちのビジネスに貢献するヒントを見出していきたい。

顧客と接する15秒は企業の勝敗を分ける「真実の瞬間」

 1980年のこと。ヤン・カールソンは、39才という若さでスカンジナビア航空の社長に就任した。そして赤字にあえぐ同社の業績をV字回復させ、超一流のサービス企業としてその名を轟かせる。彼はわずか一年で、同社を根本から変えてしまった。彼の著書『真実の瞬間』に書かれたエピソードが、同社の経営改革を象徴している。

 お客様であるピーターソン氏は、コペンハーゲンで重要な商談に参加するため、アーランダ空港に向かうが、到着したとたんに大変なミスに気がついた。航空券をホテルに置き忘れてしまったのだ。

 わらにもすがる思いでスカンジナビア航空のチケット係に相談すると、予想外の回答が待っていた。「ご心配はいりません。搭乗カードをお渡しします。仮発行の航空券もそえておきます。ホテルのお部屋番号とコペンハーゲンの連絡先さえ教えていただければ、後はこちらで処理しましょう」。

 係員はすぐさまホテルに電話し、航空券を見つける。そして自社リムジンを手配し、ピーターソンの出発前に航空券が彼の手元に届いた。「ピーターソン様、航空券でございます」。おだやかな声に何より驚いたのは当事者である彼自身だった。 (出所 : ヤン・カールソン「真実の瞬間」より意訳)

 同社には、年1000万人の旅客が飛行機に乗り、平均5人の同社社員に、約15秒ずつ接するという。この刹那の時間に、他の航空会社と異なるブランド体験を提供できれば、明確に差別化できるはずだ。15秒こそが同社にとって「真実の瞬間」であり「今日、スカンジナビア航空を選んでよかった」と感じていただく絶好のチャンスなのだ。

 しかし、当時の組織ではそれは困難だった。何か例外的な行動をするためには必ず上司の許可が必要だったからだ。顧客の脳裏に刻まれるサービスは、マニュアルからは生まれない。ひとりひとりの事情や感情を配慮し、相手の立場で問題解決できるのは現場の社員だけなのだ。

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