デジタル社会はビッグデータ時代--監視はネット上だけではない

 今月、オバマ大統領が、米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムの改革を提案した。NSA元出向契約社員スノーデン機密漏えい事件が引き金となり、現監視プログラムの運営に問題ありということを連邦政府が認めたといわざるを得ない。

 「情報収集透明性の向上を目指す」とのことだが、市民が一番知りたいのは、どうした情報をどのように、どれくらいの規模で集めているかということであり、「国家の安全のためにプライバシーは一部あきらめてもらう」というのなら、それが、どれだけ国家の安全に役立っているかの説明も必要だろう。

 なお、米国には、民間企業が個人情報を収集する場合、その取り扱いについて定めている州はあるが、国(連邦)レベルでは、個人情報に関する包括的な法律は存在しない(それが、個人情報保護に厳しいヨーロッパとの摩擦要因になってきた)。

日々の行動もデータベースに

 連邦政府による監視プログラム以外に、米国内で最近、問題視されているのは、パトカーが町をパトロール中にラップトップやスマホで道行く車のナンバープレートをスキャンし、位置情報とともにデータベースに収めていることだ。米国ではナンバープレートの番号が分かれば、筆者でも車両登録者の名前や住所、購入日などが、すぐに調べられる。

 たとえば、それに関して記事を書いた新聞記者は、年に7回トラッキングされ、3回、夜遅くに「どこそこの友人宅を訪ねた」というデータが保存されていた。他の地域では、自宅に停めてある車をスキャンする警察もあるらしい。ニューヨーク市では、警官がモスク(イスラム教礼拝所)の周辺で、礼拝者のナンバープレートをスキャンしているといい、人種民族などに基いた(差別的)捜査絞込み(racial profiling)に使われている。

 収集データは、州ごとに何千万にも達しており、集めたデータを半永久的に保存している自治体もある。にもかかわらず、そのデータが盗難車や犯罪者の割り出しに役に立ったのは、0.1%にも満たない割合だというのだ。なお、警察によるこうした行為は、2012年に米最高裁が下した「GPSで車を追跡する際には、法廷の許可がいる」という判決に反するものである。

 ちなみに米国では、交差点で赤信号を無視した際も、ナンバープレートを基にし車とナンバープレートが掲載された違反写真とともに、違反切符が郵送されてくる。

 有料高速道路も、筆者の住んでいる地域では、数年前に料金ブースがなくなり、今は、ナンバープレートの写真とともに請求書が送られてくる。

ビッグデータのビジネス利用

 米国では、大手スーパーのチェーンが、それぞれ独自の会員割引カードを発行し、各顧客がどのような食品をいつ購入したかというデータを収集している。9.11直後、この顧客データを自主的に米連邦政府に提出したスーパーチェーンがあるらしいが、9.11後、いくつかの業界の企業が、顧客データを提出するようにFBIに求められたという。

 日本では、最近、Suicaの乗降履歴の販売が問題になったが、米国では、スーパーなどが、こうした顧客データを健康保険会社に販売している。保険会社では顧客である企業(米国では、勤務先が提供する民間保険に加入する)に、こうしたデータを使って社員の健康ニーズやコスト予測などを提供するのだという。

 「インターネットを使った時点で、プライバシーなどない」「プライバシー侵害が怖ければ、ネットを使わなければいい」という人たちがいるが、今や自分がネットを使わなくても、こうして私たちの日常生活は監視されているのである。

有元美津世(ありもと みつよ)
大学卒業後、日米企業勤務を経て渡米。MBA取得後、独立。16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。現在は投資家。在米26年。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』(ジャパンタイムズ)、『図解米国のソーシャルメディア・ビジネスのしくみ』(あさ出版)、『英語でもっとSNS! どんどん書き込む英語表現』(語研)、『英語でTwitter!』『プレゼンの英語』『面接の 英語』(ジャパンタイムズ)
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