6月、米国家安全保障局(NSA)の出向契約社員は、NSAが米市民だけでなく、世界各国の市民や政府のソーシャルメディアを含めた通信を監視し、情報を収集していることを英米紙にリークして世界的な騒ぎとなった。
ソーシャルメディアは、民衆に力を与えて民主化をもたらすと期待され、「ソーシャルメディア革命」という言葉も登場した。しかし、「アラブの春」と期待された中近東情勢が、今も混沌としているように、ソーシャルメディアは情報拡散、共有のツールとして社会変革の一助とはなり得るものの、ソーシャルメディアが革命を起こすわけではない。
すでに、企業による個人情報の収集、取り扱いに関するリスクは語られているが、情報のデジタル化、ソーシャルメディアのおかげで、政府にとっても個人情報収集、市民監視がやりやすくなったわけである。元々、インターネットの元となったコンピューターネットワークを開発したのは米政府研究機関だ。政府が活用するのは当然であろうし、政府がソーシャルメディアを使って、情報や世論操作を行うことも可能だろう。
こうした政府による監視的ネット利用は、市政レベルでも行われている。先月、紹介したX市では、今年に入り、市民サービスの一環にモバイルアプリを導入した。粗大ゴミの収集の予約がモバイルでできれば便利だが、市民サービス部門では「節水規則に違反する住民を見かけたら、写真を撮って位置情報ごと、そのままアップロードできます」と呼びかけている。市民が他の市民を監視するツールとして使われるわけである。
近隣の都市のサイトでも、写真と住所入りで「草が伸び放題」といった書き込みがされ、Facebookの「いいね」のように「支持する」ボタンやコメント機能までついている。
また、米国では、一戸建ての賃貸物件を捜査令状なしに市が検査する賃貸物件検査(全室のコンセントカバーまで点検する細かいもの)を導入する自治体が増えているのだが、X市では、市内の賃貸物件のインタラクティブマップまで作成し、市のサイトに掲載している。米国では州ごとに性犯罪者の登録データベースがあるが、これは、それをもとにしたマップを彷彿させるものである(賃借人は性犯罪者と同等の扱い?)。
X市のマップには、「賃貸物件だと思われるのに、地図に示されていない(隠れ賃貸)物件は報告してください」と市民がクリックできるよう「賃貸物件の可能性あり」ボタンまで備えられている。さらにデータは、誰でもExcelに落とせるようにもなっているのである。
X市の賃貸物件登録では、物件オーナーに賃借人の氏名、電話番号、居住人数、入居日などを登録させている。これは、米憲法や州法で守られているプライバシーの侵害であるにもかかわらず、多くのオーナーが賃借人の許可も得ずに、市にこうした情報を提供しているのだ。
NSAの情報漏えいをしたスノーデン氏の一番の誤算は、米市民が、政府の個人情報監視に対し、大して興味を示していないことではないかと思う。「そんなものは、昔から行われている」「個人情報より国家機密の方が大事だ」「悪いことをしていなければ監視されても怖くない」という市民すらいる(ちなみに、米憲法修正第4条は、悪いことをしていない人のプライバシーを守るためにある)。
インターネット、ソーシャルメディアは、あくまでもツールであり、それ自体は善でも悪でもない。民主化のツールとなるか、監視社会のツールとなるかは、それを使う人たちによって決まるのだ。
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