前回、ソーシャルメディアを使いこなす候補Aとあまり積極的に活用しなかった候補Bの顛末をお伝えした。今回は、それぞれの活動の詳細を分析する。
今回、X市の市長選に圧勝した候補Bは、強力な政治活動委員会(政治資金団体)が後押しし、候補Bに代わって選挙キャンペーンを展開した。同団体は、過去の市議選と同様、確実に投票するであろうシニア層をターゲットにダイレクトメールや「投票の手引き」を郵送。投票日には、市内の老人ホームを回り、高齢のため運転できない入居者ら向けに投票所まで送迎サービスを提供した。
たとえば、米国ではFacebookが普及しているといっても、全人口の半数である。半数は使っていないのだ。投票率の高いシニア層に情報を拡散するには、Facebookよりもダイレクトメールの方が有効であることは言うまでもない。
候補者らの討論、質疑応答(自由討論ではなく、事前に質問提出)が行われるフォーラムは、市内の自治会や商工会議所などの主催で、10近く行われたが、参加者の大半がシニアだった(40~50代は若い方)。若者の参加は、大学で行われたものを除き、1割にも満たなかった。
候補A陣営は、若者票を集めるために、地元の大学の学生のリクルートにも力を入れた。筆者も、学生の支援者と話をしたが、学生らを選挙登録(定められた期日までに有権者登録をしないと投票ができない)させるのに苦労していた。
市長選などより、はるかに投票率の高い大統領選でも、若者の投票率の低さは顕著である。2012年の大統領選では、18~24歳が41%で、2008年より7ポイント下落。25~34歳で、かろうじて半数を超える一方、55歳以上では7割を超えている。
日本では、「ネット解禁が若者世代の投票率を押し上げる」ことも期待されているようだが、X市の選挙に関していえば、ブログやFacebookで積極的に発言している人たちも、ほとんどが中年で、Facebookのタグ機能も知らない人たちだ。つまり、日ごろからソーシャルメディアを使いこなしている層が、新たなツールを通じて政治に興味を示したというよりも、元々、政治に興味のある層が、情報収集や拡散に新たなツールを利用しているといった方が適切だろう。
日本では、ネット選挙の効果のひとつとして選挙費用削減が語られているが、X市の場合、ソーシャルメディアを駆使していた候補Aの方が、候補Bより、倍近くの経費を使った(一番、経費がかかったのは、選挙コンサルタントの報酬、次にダイレクトメール)。
やはり、この5月に行われたロサンジェルス市の場合、選挙費用は両陣営併せて3300万ドルにのぼり、同市市長選では史上最高額となった。2012年の大統領選挙でも、両候補とも10億ドル以上を費やし、史上最高額。オバマ大統領のネット活用が勝因の一因と言われた2008年の大統領選挙では、同大統領の選挙費用はマケイン候補の倍以上だった。なお、大統領選挙費用は、ネットが急速に普及し始めた2000年から急騰しており、米下院の選挙費用も過去20年、年々上昇している。
また、日本では、ネット選挙のマイナス面として、中傷・デマの流布が上げられているが、X市でも、中傷合戦が行われた。候補Bを支援する団体によって、候補Aの個人情報に関する法的文書が、一部改ざんされ、家族の実名入りでネットに掲載され、またデータが操作されたグラフがメールで拡散された。ただし、同じ情報は、ダイレクトメールでも郵送され、中傷が投票に影響を与えたとすれば、メールよりも、ダイレクトメールによる打撃の方が大きかった。
これは、どの媒体が中傷・デマをばらまきやすいか、ということより、実際に投票する有権者(シニア)に情報を拡散するには、デジタルメディアより、アナログメディアの方が有効だったということだ。
X市の選挙戦で見たように、IT、ソーシャルメディアを駆使したからといって、選挙に勝てるとは限らない。勝敗の鍵は、必ず投票に行くであろう有権者(シニア層)に、いかに到達し、あまり投票に行かない有権者に、いかに投票に向かわせるかだった。 企業のマーケティングと同じで、ターゲット層に到達するには、どの媒体が最適かということであり、「ネット解禁になったのだから、ソーシャルメディアを使わなければ負ける」「ネットスキルのある候補が有利」というツール先にありきの議論はおかしい。 もちろん、広範囲にわたる国レベルの選挙と、地域密着型の市レベルの選挙では、事情が違うだろう。しかし、ネット、ソーシャルメディアを利用することによって、有権者、候補共々、「活動した気になる」「有権者と接している気になる」キーボード戦士が増えるという点は、同じではないだろうか。
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