組織の透明力

社員が自ら動き出す組織のつくり方 - (page 2)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年08月08日 07時30分

 また、チームは、同一店舗の他チームおよび他店舗の類似チームの業績データを閲覧できる。店舗売り上げ、チーム売り上げ、商品原価など、業務上の意思決定に必要なデータはすべて現場社員に公開されているのだ。これは同社の経営陣が「強い信頼には、秘密のない環境が必要だ」と考えているからだ。

 さらに、各チームの業績は労働生産性によって評価され、基準を超えたチームには毎月ボーナスが配布される。顧客のために行動する自由と、会社のために行動する動機づけが同時に与えられているのだ。

 社員にこれだけの権限委譲を行える背景には、価値観の共有を通じた、会社と社員との間の強い信頼関係がある。「ホールフーズ(食べ物全体)、ホールピープル(人類全体)、ホールプラネット(地球全体)」というスローガンのもと、徹底して身体に良い食品、無農薬で持続可能な農業を支援することにこだわり続けてきた企業の姿勢が、社員一人ひとりに深く浸透しているのだ。

 「本社から下されるルールはわずかしかありません。その代わりに自己評価が活発に行われています。ピアプレッシャー(仲間からの心理的圧力)が官僚主義的な管理の代わりになっているんです」。ホールフーズ独特の経営スタイルを語るのは、創業者であるジョン・マッケイだ。彼は「恐怖ではなく、愛に支えられた組織を築く」と同社の組織原理を表現している。

出所: Forbes  CEOs Who Make One Dollar A Year ? John Mackey, Whole Foods Market
出所: Forbes CEOs Who Make One Dollar A Year ? John Mackey, Whole Foods Market

社員が自ら動く組織の原理とはなんだろうか

 ホールフーズの社員は、使命や価値観の共有を通じて、コミュニティとしての一体感を感じ、責任を持って自らの意思で動いている。彼らの姿勢や行動は、スーパーマーケット業界における社員の枠を超え、店舗経営者に近い感覚を持っていると言えるだろう。その背景には、規律と自律、競争と協働、短期的利益と長期的利益が高次元で融合された独特の経営システムが存在している。

 では、一般的なスーパーとホールフーズは何が違うのだろうか。なぜ社員が自律的に動いているのだろうか。分かりやすく図式化してみよう。「規律型組織」(左側) が従来型の経営スタイル、「自律型組織」(中央) がホールフーズの経営スタイルだ。


 「規律型組織」では「中央統制」によって社員をコントロールする。数値による科学的な管理を基本とするため、管理職も現場社員も単機能でよく、その点では効率的だ。しかし、仕事自体はつまらなくなる。また社員の意識が顧客ではなく内側に向くため、予算達成が顧客サービスより優先されてしまう。組織内の情報共有が限定的なため、社内ナレッジの活用も不十分だ。

 「自律型組織」では統制を最小限にして「社内を透明」にする。それにより社員間の信頼が醸成され、社内ナレッジもフルに活用される。また現場に権限委譲することで、管理コストは最小限となり、自律的で高度な顧客サービスを提供できる。仕事も面白くなる。ただし、単に規律を解くだけでは「放任型組織」(右側) になってしまい、組織がほとんど機能しなくなってしまう。

 高度な顧客サービスを求められる組織ほど「自律型」への移行が効果的だが、一歩間違うと「放任型」になり、組織が機能しなくなる点が最大のリスクと言えるだろう。では「自律型組織」と「放任型組織」を分けるものは何なのだろうか。それは核となる原動力の有無だ。組織を適正に動かすためには、何らかの原動力が必要なのだ。それを生みだすものは「行動の基準となる情報」と「行動を促すエネルギー」だ。


 「規律型組織」は「ルールブック」という情報に従い「統制リーダー」のコントロールをエネルギー源として社員が動くメカニズムだ。それに対して「自律型組織」は「企業哲学」という情報に動機づけされた社員が「オープン・リーダー」からエンパワーメントを受けて動き出すメカニズムなのだ。

企業哲学の3要素: ミッション・ビジョン・コアバリュー
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