組織の透明力

社員が自ら動き出す組織のつくり方

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年08月08日 07時30分
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動かない部下、苦悩を深める管理職という現実

 管理職は孤独な職業だ。10万人を超す大企業のトップ、数名で踏ん張る町工場のオヤジ、トップと現場を必死につなぐ部長や課長たち。部下を動かす使命をおった管理職にとって「ヒトの悩み」が尽きることはない。毎週の会議で予算必達の号令がかかる。もとより困難な目標なので、部下には無理を強いざるを得ない。しかし、ボスが社員を統制しようとあがくほど、部下の心は離れ、冷たい隔たりができてゆく。

 つらいのは現場の社員だけではない。管理職も心の中で声にならない悲鳴をあげているのだ。

 特にバブル崩壊以降、成果主義の導入や雇用形態の変化に伴い、管理職の苦悩は深刻化の一途をたどっている。日本政府統計をベースに30~59歳男性の死因と職種の解析をした北里大学の研究によると、管理職および専門職の年齢の影響を除いた死亡率が、1990年代後半から2000年にかけて70%ほど増えていることがわかった。管理職の自殺率にいたっては、1995年から2005年の10年間で、なんと約4倍と激増していたのだ。

出所: 北里大学公衆衛生学
出所: 北里大学公衆衛生学

 株主資本主義、戦略的経営、中央統制、個人成果主義。株主価値の最大化を目論む科学的なマネジメントシステムが、働く人すべての心を締めつけ、疲弊させてゆく。結果として、社員の創造性や生産性を奪い、生活者の反感を買い、長期的には株主の価値を毀損していく。

 いつまで、この不毛な統制システムを続けなければいけないのだろうか。統制しないでも人が自発的に動き、企業に成長をもたらし続ける。そんな都合の良い魔法の杖は、この世に存在しないのだろうか?

米国スーパーマーケット業界の異端児、ホールフーズマーケット

 スーパーマーケット業界は、1950年代に誕生して以来、高度経済成長の波に乗るカタチで急成長をとげてきた。自動車や家電メーカーが「大量生産」の騎手だとすると、スーパーは「大量販売」の代名詞だと言えるだろう。大量生産、大量販売における勝利の鍵は「規模の経済」のあくなき追求だ。そして、その成長エンジンとなったのは、販売における科学的管理法「チェーンストア理論」だった。

 標準化された店舗形態で売り場面積を効率的に増やす。毎日の生活に直結する売れ筋商品に集中する。卸を通さず一括大量仕入により原価を下げる。作業を単純化し労働生産性を高める。「規模の利益」を追求するために、標準化、単純化、専門化による「科学的管理法」で統制する。この仕組みこそがスーパーマーケットの強みだった。米国におけるウォルマート、日本におけるイオンやセブン&アイは、規模の方程式が導いた圧倒的勝者と言えるだろう。

 中央統制で一世を風靡したスーパーマーケット業界の中にあって、ひときわ異彩を放っているエクセレントカンパニーがある。有機農産物や持続可能な農業に対して強いこだわりを持つ米国高級スーパーチェーン、Whole Foods Market(ホールフーズマーケット)だ。同社は上場以来、約20年で売上規模を45倍と、業界平均を遥かに上回るペースで急成長させ、約300店舗、6万人近い社員を持つ大企業に成長した。

 この力強い成長を支えているのが、大きな自治権を持った「店舗内のチーム」だ。鮮魚チーム、青果チーム、レジチームなど、各店舗は平均で8つのチームによって構成されている。同社最大の特徴は、これらのチームに大胆な権限委譲をしていることだ。人材採用、価格設定、発注、人員配置など、業務上の重要な意思決定はすべてチームに任されており、一方でその結果に責任を追うカタチになっている。

 例えば、新入社員はチームに暫定的に配属されるが、チームメンバーになるためには試用期間後のチーム内投票で3分の2以上を獲得する必要がある。仕入れに関しても同様だ。地元の顧客が興味を持ちそうな商品であれば、どんなものでも仕入れられる。ただし全社共通の厳しい品質基準などをクリアしていることが前提だ。これは「その決定結果に最も直接的な影響を受ける人たちによって意思決定されるべき」というホールフーズの基本ポリシーに基づいたものだ。

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