企業が生活者とコミュニケーションしていくには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
アメリカのクッキーブランド「オレオ」がソーシャルメディア上で仕掛けたツイートには、人の心を動かすストーリーがありました。
全米が注目するアメリカンフットボールの祭典スーパーボウル。2013年は、レイベンズ対49ersの試合が、2月3日にニューオリンズのメルセデスベンツ・スーパードームで開催されました。
レイブンズが28-6でリードした第3クォーターのこと、スタジアムの上層階の照明が突然消え始め、なんと停電で35分も試合が中断するというハプニングがあったのです。
停電して暫くたち、みんなが「いつ復旧するんだ」とイライラしている時、オレオの公式ツイッターがこうつぶやきました。
“Power out? No problem(停電だって?問題ないね)”そこにはこんな画像がリンクされていました。暗闇の中、スポットライトに照らされ浮かび上がるオレオのクッキー。そして、“YOU CAN STILL DUNK IN THE DARK”というキャッチコピー。
この英文は直訳すると「暗闇でもダンクすることはできる」。ダンクとは、液体にひたすという意味で、アメリカではオレオを牛乳にひたして食べる人が多いことから「試合は停電で暗くなっているけど、オレオを牛乳にひたして食べことはできるよ」くらいの意味になります。またバスケットボールのダンクシュートも連想させます。
このあまりにタイミングがいい広告(?)は、またたく間に話題になりバズが広がっていきました。
当日だけで1万2000以上のリツイート、フェイスブックでも2万のライク!と6000以上のシェアを獲得しました。多くの人たちが、タイムリーでユーモアあふれるオレオの広告に賛辞のコメントを残しました。
スーパーボウルのCM枠は世界一高額な放映料で知られており、30秒で380万ドルとも言われていますが、放映されたどのCMよりも効果があったのでないか?とさえ、言われました。
なぜこのたった1回のツイートがこんなにも反響を呼んだのでしょう? そこに人間の感情を揺さぶるストーリーがあったからです。
アメリカではみんなが緊張したりイライラしたりしている時にこそ、ジョークでまわりの気持ちを和らげることができる人を評価するという土壌があります。
この状況がまさにそうでした。停電で試合が中断してイライラしている時、それをやわらげてくれるようなジョークを言ってくれたオレオにアメリカ人は拍手喝采をおくったのです。
そしてよく考えてみれば「なぜ、こんなに素早い対応ができたのか?」という疑問もわいてきます。まるで停電を予期していたかのようなオレオのツイートに不思議な気持ちを抱いたこともバズを広めた原因のひとつでしょう。
ではなぜこんな素早い対応が可能だったのでしょう? それは、オレオのマーケティング担当代理店のソーシャルメディアチームがスーパーボウルの試合中、会社に管制センターをおいてずっと戦況を見つめていながら待機していたからです。
何か特別なことがあれば、それに合わせた発信をする予定でいました。勝利したチームに合わせて2通りの広告も用意していたのです。
そしてチームは停電をチャンスととらえ、すぐにそれに合わせた広告を製作し一緒に待機していたオレオの責任者の同意をとりつけ、発信したのです。
このオレオの対応は示唆に富んでいます。何か大きなイベントがある時、それにリンクさせたタイムリーな内容の広告をソーシャルメディアで発信すれば、ひょっとしたら莫大な制作費や放映料をかけたTVCMよりも効果をもたらす可能性があるということです。
実際、オレオはこのスーパーボウルのTVスポットのスポンサーでもあり、そのCMは第1クオーター終了時に既にオンエア済みでした。“Cookie or Creme(クッキーかクリームか)”と題されたそのCMは、図書館で二人の男が小声で言い争うところから、全館を巻き込む大パニックになるという大がかりなものでしたが、実はあまり評価は高くなく話題にもなりませんでした。
それに比べて、制作費も放映料もかかっていないひと言のツイートの方がはるかに話題になったという皮肉な結果でもあったのです。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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