3月11日を境に日本の空気は大きく変わりました。震災、原発事故、余震で多くの国民が何かしらの不安を抱えて生きています。
こんな気分の時には、煽るような言葉で「自分だけが儲ければいい」といった風なコミュニケーション手法は当分の間は受け入れられません。
ウェブにおけるコミュニケーションも、ますますストーリーを組み立てることが重要になっていきます。
またそのストーリーには、「大義」や「志」が必要となってくるでしょう。この場合のストーリーとは、生活者の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
サントリーの「希望の歌バトンリレー」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
これは、サントリーの広告宣伝に登場しているタレントたちがバトンリレーで希望の歌を歌っていくという動画です。歌う曲は、名曲『上を向いて歩こう』『見上げてごらん夜の星を』。
歌っているのは、矢沢永吉、竹内結子、小雪、石原さとみ、檀れい、吉高由里子、高橋克実、トミー・リー・ジョーンズなど、各商品のCMなどでおなじみの71名。ピアノは坂本龍一が演奏。
映像は各自がヘッドホンをつけスタジオで収録しているシーンを繋いだだけ。コピーも商品カットも一切なし。最後のカットに曲名とSUNTORYのロゴが上品に入っています。
『上を向いて歩こう』と『見上げてごらん夜の星を』のタイトルがそのまま名コピーになっているのです。
テレビCMでも流れていますが、サントリーのサイトSUNTORY CHANNELでは、以下のようなメッセージとともに、いろいろ人が歌う多数のバリエーションの動画を見ることができます。
「3月11日の東日本大震災後、日本が明日に向かって前進するためにサントリーグループとして、何かメッセージをお届けすることはできないか。そこで、弊社の広告宣伝にご登場いただいている方々のご協力をいただき、希望の歌のバトンリレーを行うことで、少しでもたくさんの人の気持ちに絆の和を広げていくことが出来ればと考えました」
「日本中で幅広く愛されている名曲『上を向いて歩こう』『見上げてごらん夜の星を』の2曲を、ご厚意で参加いただいた総勢71名の皆さん一人一人が、心を込めて歌い上げてくださいました」
どのバージョンの動画も見るだけで心がジーンとしてくる名作です。ついつい繰り返し見てしまいます。
他のCMが、地震を忘れているような能天気なものか、押しつけがましいメッセージのあるものかの両極端になっている中で、異彩を放っています。サントリーの商品は映っていなくても、ちゃんとサントリーのCMになっているのもスゴイところです。
実際、この動画は、ツイッターやブログなどでも数多く取り上げられ「ジーンとした」「涙が出そうになった」など絶賛されています。
このような企画(出演者は全員ボランティア)を素早いスピードで実現させた制作チームの仕事は、本当に「素晴らしい」のひと言につきます。
この動画の制作過程こそが人の心を動かすストーリーになっていました。
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)
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