ソフトバンクが買収したSprintとはどんな企業か--鈴木淳也の見方 - (page 3)

SprintによるClearwire買収の可能性は?

 こうした思惑をソフトバンクが持っていると仮定して、それを成功させるにはClearwireの子会社化が重要なポイントになると考えられる。これについて孫社長は「可能性は常にある」と述べ、Sprint CEOのDan Hesse氏は「Clearwireとの関係についてソフトバンクとの合意が行われた事実はない」と否定しており、どちらも合わせて明言を避けるようにぼかした回答となっている。

 推測の範囲でしかないが、SprintがClearwireの持ち株比率を高めようと動いていたことは事実であり、それに現時点で成功していないこともまた事実だ。だが前述の考察のように、この障害の1つが資金面での問題であれば、ソフトバンクがバックについたことで一歩前進した可能性がある。明言を避けているのは、現時点でまだ動向が不透明であり、TOB(株式の公開買い付け)のようなあからさまな手段を採るのも避けているためだろう。(編注:10月19日、過半数の獲得見込みが伝えられた

ソフトバンクによるMetroPCS買収の噂もあったが……

 MetroPCSとは、現在米国第5位の携帯キャリアで、CDMAのネットワークをベースに主に低所得者層をターゲットにプリペイドでのサービスを展開している。つい最近になりFDD-LTEのサービスも開始した。MetroPCSについては、つい先日、業界第4位のT-Mobile USAが同社の買収で合意したことが発表された。T-MobileはGSM系キャリアであり、両社のネットワークに互換性はないものの、プリペイドのブランドはMetroPCS、ポストペイドのブランドはT-Mobileという形で展開し、差別化を図ると考えられる。

 ソフトバンクがMetroPCS買収という話で考えられるのは、おそらく単純に「契約数を増やしたい」という点だろう。とはいえ、低所得者中心のプリペイドキャリアであり、大手に比べるとARPUは低く、契約数も安定しないという問題がある。さらに同じCDMAとはいえ、MetroPCSとSprintでは周波数帯に互換性がなく、その点も考慮する必要がある。

 MetroPCSのもう1つの問題は人口カバー率が低い点で、都市部をある程度カバーして全米展開しているとはいえ、そのカバー率は全米の3~4割程度といわれている。ネットワーク機器調達のメリットはある程度享受できるものの、端末の互換性問題があり、さらにSprintやClearwireほど周波数獲得のメリットが薄いとなれば、その魅力は減る。

 筆者の視点では、T-Mobileから横取りしてまでMetroPCSを獲得するメリットはないのではないかと考える。当然、T-Mobileの合意以上の金額の支払いも発生する。


米国における携帯電話事情を知るうえで重要な指標として、スマートフォンの普及率が非常に高いことが挙げられる(既存契約数だけで半数超)。つまりデータ通信の消費量が高く、他国に比べてドルベースでの所得の高さもあり、結果として高ARPUになりやすい。これは人口が多く、そのため契約数は多いがARPUは低いという途上国に比べ、売上面で優位につながる(図は記者会見でのソフトバンクの資料)
米国における携帯電話事情を知るうえで重要な指標として、スマートフォンの普及率が非常に高いことが挙げられる(既存契約数だけで半数超)。つまりデータ通信の消費量が高く、他国に比べてドルベースでの所得の高さもあり、結果として高ARPUになりやすい。これは人口が多く、そのため契約数は多いがARPUは低いという途上国に比べ、売上面で優位につながる(図は記者会見でのソフトバンクの資料)

SprintとiPhone

 SprintはiPhone 4Sが発売された2011年10月のタイミングでiPhoneの取り扱いキャリアとなったが、この際、Appleと数千万台規模の販売コミッションを結んだとWall Street Journalが報じており、これが大きな足かせになっているという話だ。

 販売コミッションの形態については諸説あるが、「実際の販売の成否にかかわらず指定台数を買い取り」が原則だといわれている。「期間を区切ってiPhoneの販売台数を指定」あるいは「製品バージョンごとに台数を指定して販売期間は無期限」のいずれかのパターンかと考えられるが、いずれにせよキャリアにとって不利な契約であることは間違いない。

iPhoneは諸刃の剣

 そして米国ではポストペイドキャリアが「2年契約で最新iPhoneを199ドルで販売(ストレージ容量によって異なる)」というスタイルに統一されており、実際の本体価格との差額は携帯キャリアが「販売補助金」としてAppleに支払い、月々の携帯料金から補填していくことになる。

 いずれにせよ、iPhoneが販売された時点で販売補助金を決算に計上しなければならないため、売れば売るほど利益が圧迫されるという問題がある。前述の販売コミッションと合わせ、iPhoneが諸刃の剣といわれる理由がこれだ。しかもSprintは自身の携帯販売シェアの2~3割近くをiPhoneで埋めなければならない水準のコミッションを結んだとされており、いくら大手2社への対抗策とはいえ、iPhoneの販売はリスクのある決断だったとみられる。

 そのSprintの子会社にVirgin Mobile USAというプリペイドキャリアがある。名前からわかるように、もともとは英Virgin Groupの携帯部門の米子会社だ。Virgin Mobileは一部地域を除き、各国の大手携帯キャリアから回線を借りるMVNO方式でサービスを展開している。米国ではSprintのMVNOで2000年代初期からサービスを開始しており、やはり若者を中心に低料金で人気を集めてきた。

 現在ではパートナーであるSprintに買収される形で同社傘下に入っており、Nextel買収で入ってきたBoost Mobileと合わせ、Sprintのプリペイドブランドとしての役割を担っている。そのVirgin Mobileが2012年春からiPhone 4Sの取り扱いを開始したことが話題となった。

 端末単価は500ドルオーバーとVirginの他の取り扱い端末と比べても非常に高いが、iPhoneをプリペイドで利用できるというメリットがある。WSJによれば、Virgin Mobileが扱う端末はSprint向けの端末そのもので(ネットワークが同じなのだから当然だが……)、子会社ということでVirgin Mobile USAの販売端末数はSprintの合計数として加算されるという。つまりVirgin Mobileで販売数を稼ぐことで、Sprint単体での販売コミッションが緩和されるということだ。

 仮説ではあるが、このルールに則れば、今後ソフトバンクとSprint間で販売コミッションの融通ができる可能性があり、Sprintの経営立て直しの一助になるのかもしれない。

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