ソフトバンクが買収したSprintとはどんな企業か--鈴木淳也の見方 - (page 4)

ソフトバンクのSprint買収が米国の外資規制に抵触するという話もあるが……

 一部報道によれば、米国では外資が同国内の通信企業の株式の4分の1以上を保有することは許されず、今回のように7割のSprint株を取得するスキームでは買収が難しいという。また米政府や企業がHuaweiやZTEといった、中国政府とつながりの深い企業の米国進出に国土保安上の問題や市場侵食から警戒感を示しており、こうした製品を積極的に持ち込むと考えられるソフトバンクの買収を良しとしないというものだ。

 これに対して孫社長はT-Mobile USAの例を挙げて反論する。T-Mobile USAは独Deutsche Telekom AGの子会社であり、ある意味そのままの外資企業だ。もともとは2000年代初期に複数の中小規模の携帯キャリアをDeutsche Telekom AGが買収する形で成立したのがT-Mobile USAであり、この際に特に規制は入っていない。

 また全米トップのVerizon Wirelessは、米Verizon Communicationsと英Vodafoneのジョイントベンチャーで、少なくとも45%の株式はVodafoneが保有している。前述のルールが適用されるならば、こちらもすでにアウトだ。この手の外資規制はFCCのさじ加減や業界ライバルらの反応によって発動する場合が多く、特にAT&TによるT-Mobile USA買収を阻止した最近のFCCの行動を見る限り、寡占状態が生じることを良しとしない雰囲気がある。

 契約数3位とはいえ、運転資金の枯渇で瀕死状態のSprintを救済する意味合いの強い、今回のソフトバンクによる買収はむしろ歓迎される可能性が高い。先行する最大手2社も現在の寡占状態から正面切っては反対しづらく、おそらくそのまま成立する可能性が高い。

 中国メーカーの端末やネットワーク機器導入に関しては、いくら価格競争力があるといってもソフトバンクが過剰にHuaweiやZTEを優遇するとも考えられず、こちらも大きく問題にならない範囲で収まる可能性が高い。とはいえClearwireでTD-LTEの整備が始まった場合、これら中国メーカーが製品納入で優位に働く可能性はある。

カギの1つはプリペイドと低所得層の取り込み

 発表会で孫社長はSprintの財務体質の健全さと米国進出のメリットを説明するため、ポストペイド契約率やARPUの高さを強調したり、いまだ成長市場であることを力説していた。

 だがここまで解説してきたように、Sprintは全米でMVNO受け入れ先の最大手キャリアであり、その契約数はMVNOのそれを含んでいる。

 しかもMVNOの大部分はプリペイド契約であり、全契約に締めるプリペイドの割合が3割超と他の大手に比べて大きい。そしてプリペイドは性質上、ARPUが低めになりやすい。米国と日本の加入数比較グラフにも少し兆候が出ているが、米国での契約数は既に人口より増えて普及率100%を突破しており、飽和状態にある。

 以前にVerizon Wirelessは「2台目、3台目需要で普及率500%を目指す」と冗談めかしてアピールしたことがあったが、現状はすでに2台目需要で稼ぐ時代に入っている。途上国に比べ、今後もはや劇的な伸びは期待できない。

 そこでポイントとなるのが「新規層の取り込み」「既存ユーザーの高ARPUへの誘導」「2台目、3台目需要の喚起」の3つとなる。米国では既に平均的なユーザーの取り込みは完了しており、新規層として浮かび上がってくるのが「低所得層」「若者層」といった、「お金があまりなくて携帯電話を持つ余裕がない」層だ。

 こうした層のニーズを積極的に取り込んでいるのが、いわゆるプリペイド専門キャリアで、「無制限データ通信と無制限通話込みで40~50ドル」といった大手に比べると破格の料金で新規ユーザーを勧誘している。

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