誰のためのフリーか?--ユーザー中心のフリー・ビジネス・デザイン新論 - (page 2)

リアルとバーチャルとの差異から、マスとセグメントの差異へ

 これは従来のテレビなど、マスを対象としたメディア・ビジネスのモデルに他ならない。とはいえ、れっきとしたフリービジネスの一つだ。ガンダムという、認知度ではトップクラスのブランドを用いて集客する。

 ブランドやキャラクターなど知的財産系は、不思議なもので誰もが知っているものほど価値が上がる。物財のように数が増えればコモディティ化して1つあたりの価値が減っていくのとは反対だ。しかし、多くの人に知られている=認知度のランクが高い=認知度における希少性が高いと考えれば、一般的な経済学の基本論理が損なわれることはない。物財に知財が付加されたもの(キャラクターグッズやデザイン家電、ラグジュアリーカーなど)は、物財であっても、物財により帰属しやすい機能的価値(一次価値)よりも、知財(二次価値)により左右されることがある。例えば、お台場ガンダムの周辺のグッズも機能性ではなく知財的な側面に加えて、個人の経験に紐付く価値によって対価の支払いを正当化していると考えればわかりやすい。

 セコい発想からは、タダの出し物を見に行ったのだから、そこでわざわざカネを落とす必要はない──ということになるかもしれない。しかしそれはあくまで金銭的なコストについての議論であり、後述するように実は「お台場潮風公園にまで出かけないと経験できない」ことに対して、すでに自身の時間や交通費などのコストをかけているのだから、現地で出費がなくとも、全くもって持ち出しがないわけではないと考えると、フリービジネスについての理解が容易になるだろう。

 前回のエントリー「ゼロ化を飲み込むフリービジネスモデルの構築を急げ」で、フリービジネスの提唱者クリス・アンダーソンがその著書「FREE」とそれに関する講演会で、何に対して人はカネを払うのかを類型化していることを述べた。

 ネットというバーチャルの世界でこそ「タダ(フリー)」の台頭が顕著であるものの、リアルの世界でも様々なタイプの「フリー」が存在しており、今後、リアル世界の物財やサービスであっても、背景にネットによる情報流通との連携が十二分になされていれば、それらがフリーに提供される可能性も高いことを示唆していることを紹介した。僕はその傾向が、モバイルや電子マネー、ITSなどが普及している日本ではより顕著に現れてくるのではないかと思う。

 必ずしも、いつまでも「ネットであればタダだが、リアルであればカネが取れる」という話ではないということなのだ。そこを間違ってはいけない。確かに、これまでの世界の慣性によって、リアルであればカネは取りやすいのかもしれないが、必ずしもそうとは限らない。あるいはそうあり続けはしない、という常識への挑戦が今後多数発生すること、それがより日本では早期に発生する可能性を予言しているのだ。

  • リクルートの情報誌「SUUMO」

 それはもうすでに現実になりつつある。例えば、誰がリクルートの情報誌が無料で駅に置かれるようになると考えたろうか。それも、同社のトップブランドの一つであった「住宅情報」という名称を捨て、かつ「マンションと戸建て」、あるいは「新築と中古」と言った常識的な区分をすべて取り去った形で「SUUMO」に集約されると想像していた人は少なかったろう。しかし現実には、「戸建てかマンションか」といったサプライサイドからの区分は情報誌のユーザーにとってはむしろ邪魔なものであったという「発見」が背景にあるわけで、苦し紛れの紙面統合などでは決してないのが、同社のすごいところだ。

 いずれにせよ、そこに通底するのはリアル・バーチャルと言った話ではない。従来のような「誰でも」からだんだんとふるいにかかり、やがて最終的な顧客が決まっていくというマス、あるいはサプライサイドの視点による顧客理解ではなく、そもそも潜在顧客は事前にある程度決まっており、それらセグメントにどう確実にリーチできるかという議論へパライムがシフトしているという発想だ。

 一種、ユーザーセンタード(顧客中心)の発想がある。ネットでは、リアルの世界と異なり、これらの目に見えなかった行動の軌跡が集合的に、あるいは個別履歴的に視覚化し把握しやすかったからフリーのサービスであっても説得力を持ちえただけなのだ。それゆえ、今後、リアルであっても顧客を追跡できれば、ネットで起こったことと同様のこと=フリーの急成長が起こりうるのだ。

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