長引く不況の入り口で将来を見通すために

 闇は思いがけなく深く、そして早く迫ってきた。それはデジタルネットワークを伝わったために、僕らの経験則以上のスピードで僕らに迫ってきている。が、冷静にそれを眺めてみると、これまでとは異なる流れや機会が見えてくるのではないだろうか。

予想より早い不況の「侵攻」

 この春にTHINKが運用しているコンテンツ・ファンドの出資者説明会で、某金融機関の方から「米国のフレディ・マック(連邦住宅金融抵当金庫)やファニーメイ(連邦住宅抵当公庫:共に日本では、旧:住宅金融公庫、現:独立行政法人住宅金融支援機構にあたる)に関連した低所得者向け住宅ローン(いわゆるサブプライム・ローン)の焦げ付きから派生する問題が、メディア・コンテンツ市場にどれほどの影響を及ぼすか」というご質問をいただいた。

 すでにその時点で一部エコノミストが「サブプライムの焦げ付きから連鎖的に深刻な経済的な課題を生じうる」という指摘をしていることもあっての質問と推測し、「早期に金融市場での混乱が発生する可能性は高いものの、メディア・コンテンツ市場の主要な消費対象が中流層以下である米国では、直接的にその影響が波及するのは来年以降ではないかと考える」とお答えした記憶がある。

 この推測は大いに裏切られた。すでに誰もが知るように、金融機関の信用危機は猛烈な勢いで連鎖し、国境を越え、ついには大手証券・投資銀行など世界的な金融機関の破綻へと秋にはつながっていく。結果、メディア・コンテンツ関連の制作費調達の多くを担っていた欧米の金融機関では、その事業の一時的な保留や縮小を発表するケースも現れた。また、金融機関の破綻の影響で急速に資金繰りに悪化した不動産会社の倒産や、すでに業績の低下に悩んでいた米国の自動車産業など、経営状況が悪化したというニュースが駆け巡った。

 そのため、経営者や生活者の心理的な不安が煽られ実体経済全体の低下以前に、米国など先進国では思いのほか早期に経済・消費が防衛型になった。気がつくと経済は2001年のネットバブル崩壊後に9/11テロが連続して起こった状態を下回る状況にある。家庭では貯蓄が増加し、消費が低迷し始めた。

 その反発でケーブルテレビなど比較的廉価なエンタテインメント・サービスへの加入が増加するなど、テレビや映画の消費時間が伸びるため、メディア・コンテンツの消費という点では望ましいものの、それと対になる輪である広告ビジネスが冷え込みつつある状態にある。

 すでに広告出稿でロットが大きいマスメディアを中心に急速な失速が始まった。特に直接的に販売促進へつながる「広告効果」という点で疑問が挙げられていたテレビや紙媒体といった所謂マス4媒体へのダメージは大きく、かなりの程度の落ち込みが2008年分から生じることが推測されている(「米国マス4媒体別広告費の動向予測」参照)。

 加えて、常に全米レベルで大きな額を出稿し続けてきた「デトロイト・ビッグ3」こと大手自動車3社が揃って政府への支援を要請するなど、広告主自体の生き残りすら厳しい状態では、広告費の絞込みは必須となる。

 しかし、メディア業界のアナリストらは、この広告費の落ち込み傾向は確かに信用危機に端を欲するものではあるものの、それは以前から言われてきたメディアへの不信感という構造的な問題が発露するきっかけになっているだけであり、今後回復するためにはなんらかの(それもかなり革命的な)理由が必要となるだろう、とする。

 その根拠として、一旦広告費を絞り、そのコスト圧縮の結果を一度でも価格へ反映してしまった製造業者は、よほどのことがない限り元の水準の広告費を支払う根拠がなくなるからだ。実際、すでに低迷が明らかだった大手のトリビューン(シカゴ・トリビューンやロサンゼルス・タイムズを発行)が破産法を申請するなど新聞会社の多くが経営困難な状況に陥っており、結果、メディア企業の再編が再び激しくならざるを得ないだろう。

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