映像ビジネスの動向、金融危機との関連--国際テレビ番組見本市「MIPCOM」より

 今、欧州に来ている。国際テレビ番組見本市「MIPCOM(MIP)」に参加するためだ。映画祭で知られるカンヌで開催されている。

MIPCOM会場 MIPCOM会場

 MIPというイベントは日本ではあまり知られていないが、映像関係の仕事をする人間にとっては最大イベントの1つだ。海外販売や国際共同製作などを志す人間にとって参加は必須のものと言える。

 日本で現在開催されているコンテンツ関連のイベント・シリーズCoFestaとほぼ重なる時期に開催されているが、後発の日本にとってあまり懸命なことではない。なぜなら世界中のほとんどの映像関係者が、ここMIPでの取引を最大の目標として活動するからだ。

 今回は、マクロなデータから読み取るのではなく、そこで得られたヒュミント(人的なつながりから得られる情報)分析によって、1つは映像ビジネスの動向、そして金融危機との関連について述べてみよう。

 ちなみに欧州のテレビ広告では、アジアと中東、あるいはロシアなど東欧の政府とメーカー、エアラインが圧倒的に増えている。残念ながら、日本の政府や企業の姿は片鱗たりともそこには見られない。金融危機は先進国に大きな打撃を与えているものの、新興国は無事、むしろ相対的に活動が積極化している証のように見える。

マルチ・スクリーンへのクリエイティビティの挑戦

 よく日本では「ワンソース・マルチユース(OSMU)」といわれるが、これは国際的にもよく認知されている展開手法だ。しかし、日本でも混同されることが多いが、1つの映像作品を複数のメディアへ配信することは「マルチプラットフォーム」という戦略を指すことが多かった。たとえば、映画、テレビ(厳密には、地上波、衛星、ケーブルなどへ区分される:衛星やケーブルなどでは、プレミアムなどのランク付けがさらにある)、DVDなどのパッケージなどだ。

 その中でも、今回のMIPで大きく取り上げられている話題として、特にネットやモバイルへの展開=「マルチスクリーン」戦略がある。一方、ゲームや小説、あるいは玩具などへ知的財産(IP)をもともとの姿とは異なる形態で展開することをOSMUということが多い。日本の十八番であるアニメは、典型的なOSMUの王様だ(むしろ、OSMUであるがゆえに、そのビジネスが成立しているといってもいいほどだ)。

 それに対して、新興のテクノロジプラットフォームであるインターネットやモバイルなどマルチスクリーンの対象は、これまで海賊版などの温床として一種忌の対象とされ、つまはじきにされることも多かった。

 昨今、YouTubeなどのビデオ投稿サイトをプロモーションのためのテクノロジインフラとして再定義し、積極的に位置づけがなされるようになってきている(THINKの牛山インタラクティブプロデューサーが参加したad:tech London 2008のレポートを参照)。

 米国など先進国ではテレビ広告需要が前年比で6〜12%も落ち込むことが確実となるなど、先進国を中心としてテレビなど既存メディアへの広告需要の低下と多チャンネル化による役割の変化は不可避の傾向となっている。

 そして、この金融危機に端を発する経済的な状況がそれに拍車をかけた。一方、モバイルやインターネットへの映像配信は、これまで広告主らの需要を補完する意味で非常に有望であるという認識が高まっている。

 今回のMIPでは、ブランデット・エンターテインメントといわれる、マーケティングメッセージを含み、ソーシャルメディアへの掲載とブログなどでの話題づくりを目した短尺映像作品のあり方や、露出先に応じた制作手法やフォーマット変換技法などのセッションが数多く設定され、多数の参加者を集めている。

 日本では圧倒的なテレビの存在感の陰に隠れ、ネット上でのブランデット・エンターテインメントはあまり話題にはなっていない。MIPCOMに姿を現した元ディズニーCEOのアイズナー氏は、制作したモバイル向けの映像コンテンツ「PromQueen」が日本でもローカライズされたことを発表。モバイル先進国での体験は非常に有意義であったとコメントを発表し、大きな注目を集めた。

 韓国政府や企業が積極的に、モバイルなどのマルチスクリーン戦略を推進している姿を多く見かけた。ブランデット・エンターテインメントそのものの制作については、欧州系の企業の実績が圧倒的である。しかし、マルチスクリーン展開、特にモバイルへの展開という点では、日本市場が圧倒的なものであることを知っている人間としては、それらのセッションに参加して学習できる点はあまりない。

 むしろ、日本の優位を認識できるわけだが、日本企業でマルチスクリーンに言及するプレイヤーは不在で、その現実を知らしめる機会がなかったのが残念だ(THINKもモバイル系プロジェクトの成果をプロモートする資料を用意はしていなかったので、人のことはあまり言えないが)。

 もちろん、放送局を中心に番組のパッケージやフォーマット販売は積極的に行われ、かなりの成果を上げつつある。

 興味深かったのが、広告主の求めるコンテンツを実現するクリエイティビティこそ重要というメッセージだろう。その背景には、ネット広告などで積極的に採用が進む行動ターゲティングなどのテクノロジに過度の期待をしてはいけないという忠告がある。

 広告主は、ストーカーのごとくメッセージを出すことを求めているのではなく、ブランディングを適切に露出させ、結果的に購入行動につなげさせることを求めているのであって、洗脳や過度の露出によるブランドへの嫌悪感の醸成などは求めていないのだという、パネリストの発言だった。

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