カナダ在住のアメリカ人SF作家ウィリアム・ギブソンが2001年に記したコラム「Modern boys and mobile girls」では、彼が来日した際に街中で女子高生たちがケータイを片手で器用に操り、メッセージを無言で交換しながら、ショッピングや食事を楽しんでいる様子を描写する。
ギブソンが1986に発表した「ニューロマンサー」は、後に一斉を風靡するサイバーパンクの幕開けの作品となった。彼は、同書を含むスプロール3部作の舞台となる「サイバースペース」=電子機器上に構築された仮想空間という概念を生み出したことで、そして「チバ・シティ」や「オノ・センダイ」など日本をモチーフにしたアイテムをストーリーの中に散らばせていることで知られる作家だ。そんな「日本通」の彼が「世界がなぜ日本に注目するか」をテーマにしたのが上記コラムだ。
当時ブレア政権が推進する「クール・ブリタニカ」政策の成功が欧州、そして世界的には話題になっていたが、その背景には若手の研究員が中心となって運営されるシンクタンクDEMOSが発行したレポート「Britain」があった。Britainやクール・ブリタニカの背景には、世界を席巻する日本のゲーム、世界中で親しまれているアニメやマンガ、そして家電製品やクルマへの眼差しが背景にあったことは、広く知られていた。が、なぜ日本なのか、という点については、誰もがゲームやアニメ、家電製品の影響力とは答えられたものの、それらがなぜ生まれてきたかについては、うまく説明できなかった。
そこでギブソンは、「世界がなぜ日本に注目するか」という問いに対して、日本は常に「世界のアーリーアダプター」であり、「未来の製造国」だからだ、と結論付ける。そう、海外の人々から見た日本のイメージとは、数年先のテクノロジーやライフスタイルの国なのだ。
クリス・アンダーソンは、フリーの未来は中国とブラジルにあると記したが、それは違法なコンテンツや製品の流通という点においてであり、一種の皮肉ともなっている。しかし、フリービジネスというものを深く考えたとき、ユーザーにとっての「フリー」とは、価格だけのフリー=「無料」だけではなく、あらゆる行動や心理的なコストからの「解放」というフリーであり、むしろお金を払いたいという「自由」としてのフリーでもある。
それであれば、気がつけば圧倒的に無料の地上波テレビが勢力を誇り、オーソドックな消費スタイルから一点豪華消費まで不思議かつ多様な消費スタイルまで幅広いセグメントが増加している日本では、表面的な「タダ」というフリーよりも、よりユーザーセンタード視点からのフリーが求められているのではないだろうか。そして、常に日本の消費スタイルとコンテンツが海外でも受け入れられやすい状況が創られている現在、ユビキタスなインフラを活かした先端的な「フリー」をこそ創りだす条件が整ってきているのではないだろうか。
ちょっと内向き、後ろ向きな状況が続き、それになんだか慣れっこになってしまった日本。しかし、どこかで変化を求める心理は依然としてあるようだ(しかし、その対価として必須の「痛み」にはすぐに反応して、改革嫌いになってしまうわけだが……)。
それらを背景に、比較的近視眼的なポイントのみを訴求した政党による政権交代が実現されることになった。が、それだけでは「変化」としてのインパクトとしては物足りないような気もする。僕らこそが先頭に立ち、今こそ世界の期待に応えて、フリービジネスという未来の製造国としての面目躍如と行きたいものだ。
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