生活圏情報生態系をリデザインせよ

 世界的な不況の被害が先進国の中でも日本は深刻だ。それは本質的に前時代的な経済構造が温存されたままだからだ。一方で全国的にブロードバンド情報インフラが整備されているという特色もある。それを生かし、新しいこの国の像を僕ら自身の手で作り出していく可能性はないか。

壊れつつある日本

 雇用を巡る話題でメディアはかしましい。その議題設定と分析など報道の在り方はともかく、正規や派遣などの雇用の形態の違い、あるいは製造業に依存する構造そのものに対する疑問があまり提示されない。あるいは製造業に依存する根拠となった、政府主導型の高度経済成長による生活水準の全国的・短期的な向上を可能にした、東京一極集中構造という側面での限界もある。

 小泉政権末期、その中心近くにおられた方が、時に疲れ、半ばやけ気味に「この国は、一度壊れてしまわないとどうしようもないかもしれない」とつぶやいておられたことを思い出す。

 あれほどまでに高い支持率を得て、尽く反発する陣営を「抵抗勢力」と位置付け、容赦のない排除策を以ってしても、この国の屋台骨を根っこから変えることは難しいということを実感しておられての言葉だったに違いない。

 そして今、ついにこの国は壊れつつある。米国や欧州先進国が前世紀末に経験した痛みを、僕たちが経験する順番が来たともいえるだろう。しかし彼らとは根本的に異なるポイントがある。ネットの存在だ。

 ネットによるグローバル化というリスクとメリットの存在は、20世紀の構造からの脱却過程で大きな違いを作り上げるに違いない。すなわち、彼らの場合は製造業中心=第二次産業の崩壊の後の成長をネットが加速した。が、僕たちの場合は、ネットの存在を前提に既存構造の崩壊後の成長モデルを描けるということだ。

 これは機会である。現在は混沌としているものの、中央なき全地球的な市場が生まれ、そしてもう一方で主体としての僕ら自身の在り方の再認識が大きな流れとなってきている。スケール軸では両極で機会は生じる。グローバルについてはともかく、僕ら自身の生活圏=地域における情報の生産・流通・消費を、人々が生活する=実経済を伴う、すなわち具体的にカネが動くメカニズムに注目すれば、新しい価値が生じる余地があるからだ。

地域情報の空洞化

 インターネットなど全地球規模の情報通信ネットワークの整備、携帯電話の普及と多機能化が進む一方、放送や新聞と言った既存メディアの失速ぶりが著しい(前エントリ「長引く不況の入り口で将来を見通すために」参照)。

 その失速の前には、グローバル、東京発の全国区情報入手が容易になっていた。結果、奇妙なことに全国の人が東京の繁華街の動向に詳しくなるという、不可思議な現実が「日常」になっていた。一方、特定の商品や人物に関する情報を検索し、把握することも可能になった。が、反面、生活圏内に漂うかのようにあった「手を伸ばせば、いつでも掴める」べき情報は、能動的な行動を起こさなければ入手が困難になった。生活コストが上昇する状況が生じ、既存メディアの失速によってさらにこの状況が加速されてきている。

 物理的な位置付けを基にしたコミュニティー作りを促進するきっかけになっていた紙メディア(新聞チラシやミニコミなど)の衰退は、都市部、地方を問わず、生活圏情報の間隙をぽっかりと作り出している。

 都市部でこそフリーペーパーの成長が著しいが、住宅地や郊外では新聞のリテールやコンビニエンス・ストアといった全国・広域型小売業がようやくながら発達したものの、そもそも往来のある街道やバイパス沿いといった「立地条件のよい」場所を確保してもなお、集客には困難をきたすことが増えているという。セールなどのイベントを用意しても、それをいかにして周知するのかが、困難な課題になっているからという。

 また、従来はコミュニティー、あるいは買い物など日常的な他愛もない挨拶などを通じて獲得されてきた地域情報などに接する機会が減った。かつてマスメディアの発達による個人のカプセル化(中野収『メディア人間』など)が危惧されたが、皮肉なことにマスメディアの没落によって、それが従来想定されたものと異なる形で顕在化している。生活圏内の人間関係の希薄化が進行し、人口密集地に生活していながらも強い孤独感に苛まれる。あるいは、気が付かないうちに疎外感という大きなストレスを抱えるようになった人のなんと多いことだろうか。

 実は、僕らは、身体圏、そして生活圏での情報の獲得や制御の機能を喪失しつつあるのではないか。

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