90年代初頭にインターネットが登場した際に予測された衝撃が、“普及”という緩衝期間を経て現実のものとなりつつある。既存のサービスやコンテンツなどの産業は、新たな経済モデルを構築するという課題に直面している。
これまで「モノ」として捉えられ、扱われて来たものの多くが、実は「情報」として扱うことに適していることがわかってきた。結果、情報のみを切り離すことで、モノ=物財としての性格を失い、結果、より多くの流通機会を得たものがある。
また、モノとしての性格が1次的な価値であるものであっても、情報にガイドされながらモノの製造や運搬、あるいは販売を得意とする複数の専門業者が流通に携わることで、全体効率を高めること、消費者らの利便性を高めることになった。
後者については、モノつくりのプロセスでもモジュール化やファブレス企業の登場、体験をガイドするためのインダストリアル・デザインなど情報に近い性格を有した要素への重視、専門大型量販店の勃興、サードパーティロジスティックスの一般化など、僕たちの生活の中でもその影響の結果を多々垣間見ることができる。
一方、コンテンツという情報財もパッケージというモノとして流通してきた。それらはブロードバンドとワイヤレスが構成するネットワークが急成長する直前の前世紀末にその頂に達し、現在、急速に衰退しつつある。
そして、デジタルネットワークによる配信へと、その地位を譲りつつあるものの、これまでモノへの対価として支払ってきた額との差により、市場そのものは縮小するかのように見えている。結果、コンテンツ全体の成長は相殺され、コンテンツに接する機会が増加しているような日常生活での印象を裏切ることになる(その傾向は下記を参照。ゲームがマイナス成長しているのは、そのコンソールの発売という周期変動性が大きく作用したためだろう)。
前回のエントリ「フリービジネスの原資を確保せよ」で話題に挙げた「デジタルコンテンツ白書2008」が正式に発刊された(プレスリリース)。そこでコンテンツ産業の全体的な傾向などについては述べられているので詳細は割愛する。同白書では日本のデジタルコンテンツ市場規模は2兆6947億円としているものの、そこにはCDやDVDなどのパッケージコンテンツが含まれており、モノとして扱われてる場合と情報として扱われているコンテンツの両方が合算されてしまっている。
しかし、やはり前回紹介したPriceWaterhouseCoopers(PwC)の統計ではパッケージメディアは、いかにそれがデジタルデータとして楽曲や映像が記録されているとしてもデジタルコンテンツとして含まないというルールを採っている(前回と今回、源資料として用いたものは「Global Entertainment and Media Outlook」の2007年版である。最新の数値が必要な方は、PwCのサイト名から入手方法をご確認いただきたい)。
そのため、他地域との比較を行うためにPwCの統計で採用されたものにできるだけ近いルールで日本のデジタルコンテンツの規模を改めて算出してみると、1兆7148億円程度であることがわかる。これは全体市場規模の12.2%を占め、PwCの全世界(6.7%)やアジア太平洋地域全体(9.4%)、あるいは米国(6.8%)と比較しても見劣りないことがわかる。
しかし、市場成長率を見てみると、世界平均が約30%。日本を含むアジア太平洋圏が33%とであるのに対して、日本はその3分の1程度でしかない。製造レベルでは依然としてアナログ=モノを前提として構築された産業構造になっていることもあり、成長率という点で課題がすでに露見してきているともいえるのではないか。
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