コンテンツ市場の多くを占めるのはパッケージ系産業だが、これらは縮小傾向が止まらない。しかし、先進他国ではパッケージ系産業の衰退傾向を上回る勢いで広告などのフリービジネスの原資となる金が流入している。
最新のデータが掲載された『デジタルコンテンツ白書』の発刊が、発行元のデジタルコンテンツ協会(DCAJ)から発表になる予定と聞く。正確な最新数値についてはその発表を待つべきだろうが、経済産業省のメディアコンテンツ課課長の村上敬亮さんがブログ・エントリで言及されているとおり、日本のコンテンツ市場規模は約14兆円であり、その全体の成長は微増にとどまることには違いはない。
ただ、この統計は、直接・間接的に消費者の手元に届く商品、サービスに対する経済価値の総計である。
企業広報、IR(投資家への情報提供)やCSR(企業の社会的貢献)など費用で広告掲載料を伴わないもの(典型的には企業ウェブ、あるいはケータイのスタートページなどの開発費用)、製品などの開発などに投下された費用(デザインやプログラム)、そして組織内でのコミュニケーション(読者の皆さんが悩んでいるプレゼン資料)や特定の利用者に向けた(教科書やパンフレット、取扱説明書、あるいはアフターサービスなどのための資料など)の広義のコンテンツやクリエイティブは、直接にはカウントされていない(これら、非エンタメ領域のコンテンツという外部のバリューチェーンに組み込まれた領域と既存のコンテンツ産業をどうやって融合させていくかは、課題であると同時に、大きな飛躍のきっかけとなる可能性が高い。このイシューについては別の機会に論じてみたい)。
加えて、同統計は「コンテンツ市場規模」とは言っているものの、この中には各種サービスの数値も含まれている。PCやケータイで広告によって生命線をつないでいるITベースの多様なサービスもその一部であるといってよい。
先月のコラム「今こそ求められるフリービジネスのデザイン・スキル」で紹介したフリービジネスの1つである広告は、広く直接消費者から対価を徴収しない民放テレビなどの成立基盤となっており、その規模は5兆円にまで達しようとしている。
逆に考えれば、コンテンツ市場規模の3分の2近くを占めるのはパッケージ販売やアミューズメント施設などの「物財」としての性格を前提としたものである。また、情報財としてのコンテンツそのものの価値とは異なる点でその対価を得てきたとも言えるだろう。
その圧倒的な比率を占めるパッケージ型コンテンツ市場は、デジタル・ネットワーク化の進展に伴いその提供価値が代替されるため、縮小傾向に歯止めが効かない状態が続いている。今後もその傾向は止まりそうもない(ややもすると海賊版の議論に話題は向きがちだが、それだけでは論理的に説明できないのは明らかだ)。
そうなると、パッケージ型と同じ規模を維持することは困難であっても、全体の縮小傾向を止めるためには現在3分の1を占める広告などフリービジネスをエンジンとした産業構造への転換や、広告の更なる発展モデルを真剣に考える必要が出てくるだろう。
では、その広告自体の伸び具合はどうなのだろうか。まず、それ以前に世界の動向を見てみよう。
PriceWater Coopersが発表するメディア・エンタテイメント産業の調査結果を見ると、世界平均で市場成長見込みは6.4%。全市場の中で圧倒的な存在感を示す米国が、5.3%と依然として力強い伸びを示している。
一方、日本を含むアジア市場の伸びは9.6%と、3.3%の日本を除けば、明らかに10%以上を示すことは明らかで、これら新興市場の影響が全世界市場全体を牽引していることが推定できよう。このデータは、DCAJの『デジタルコンテンツ白書』同様、広告に加えてパッケージ購入額やサービス利用料を含んだ数字となっている。
では、広告の出稿額のランキングを見てみると、以下のようになる。
これは、前述資料とは異なり、World Advertising Research Centerが発表しているもの。日本は、圧倒的な市場規模を有する米国に最近までは準じていたが、現在は3位に転落している。代わって2位を占めるようになったのは中国で、前資料の日本を除くアジア市場の成長の原動力であることがわかる。
今回は敢えて資料を掲げないが、広告代理店最大手の電通が毎年発表している「日本の広告費」の2007年度の情報を見ると、ここ数年は微増程度ということがわかる。
広告は国内総生産(GDP)に比例するといわれる。確かに、日本を現状を考えればそんなところだろうという想像は難くない。だが、日本を含む多くの先進国は経済成長が鈍化していたものの、広告額の成長を見ると、米国の52.8%(10年間のGDP成長は39.1%)や、英国の61.9%、フランスやイタリアなど、そのGDP成長率以上に大きな成長を示している。これらはいかにして説明できるだろうか。
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