人事戦略の「あるべき姿」には答えがありません。組織における人材活用や働き方について、テクノロジーを活用してデータ分析するとどうなるのか?即戦力人材に特化した転職サイトを展開するビズリーチに設立された研究機関「ビズリーチ WorkTech 研究所」の所長である友部博教氏(ともべ・ひろのり)が人事における「データ」のつきあい方を解説します。
前回の記事では「適切な『退職率』とは」について解説しました。今回は人事で活躍する「データ活用人材」の話をします。
総務省が2021年7月30日に公表した「令和3年版情報通信白書」では、米国、ドイツ、日本におけるデジタル人材の不足を指摘しています。その中でも日本でデジタル人材不足を感じている企業は米国の約2倍という高い数値が出ています。
このように、ただでさえ「データ活用人材」は人材市場において稀有な存在であり、社内に人材がいたとしても優先的に事業側のポジションにアサインされます。そのため人事部へデータ活用人材がアサインされるケースは、非常に少ないことが実情です。
私はこれまでDeNAでウェブサービスやアプリサービスのマーケティング分析、メルカリやビズリーチで人事に従事し、事業におけるデータ分析と人事におけるデータ分析の両方を経験してきました。2つの視点から考えると、それぞれのデータ分析で必要なスキルは共通のものもあれば、異なる部分もあります。
それらが整理されておらず、“人事で”データ活用人材になるためのスキルが明確化されてないことが、人事部のデジタル人材が育たない原因の1つではないでしょうか。そこで“人事で”データ活用ができる人材のイメージと、今後データ分析人材を目指す人が身に付けておきたいマインドについて解説します。
一般的にデータ人材として活躍するためには、以下のようなスキルが必要です。
しかし、「人事で」活躍するデータ人材には上記以外の特徴があると、複数の人事部門で働いてきたなかで感じています。以下で、それぞれの特徴について説明します。
1つ目は、「技術に関するキャッチアップ能力・興味」があることです。
人事部でデータ活用を行うために、データそのものを扱う能力は必要不可欠です。しかし、多くの人事部において、データサイエンティストなどデータの扱いに長けているメンバーがいることはなかなかないでしょう。そもそもデータ活用人材自体が人材市場で不足しているため、人事部にアサインされることが少ないのです。
そのため、人事部門でデータ活用を始めるとき、担当者はデータ活用の知識や技術を独学でキャッチアップする必要があります。データ活用そのものに対する興味を持つことや、データハンドリングに関する技術を自ら学ぶ姿勢が非常に重要です。
2つ目は「客観的に人事データと向き合えること」です。
データを扱うため必要な技術は、事業におけるデータ活用でも、人事のデータ活用でも大きく変わりません。一方で、データとの向き合い方は大きく異なります。特に「データ分析の対象」と「データ分析する人」の距離感が事業と人事では異なります。人事部で扱うデータは自社の従業員にまつわる情報です。つまり、人事部は「顔のわかる従業員」のデータを扱うのです。
人事のデータ分析は、「対象」と「分析する人」の距離が非常に近いといえます。分析者の頭の中には、蓄積された数値データ以外の従業員の情報もあるでしょう。データ分析していても、ついつい従業員の顔を思い浮かべてしまう。これが分析においてバイアスになり、客観的な判断を下すことが難しくなってしまいます。
給与データがわかりやすい例です。同僚の給与が見えてしまうこともあり、データには表れていないことまでイメージして比較してしまう。データと適切な距離を置けていない悪い例でしょう。
また、人事データが十分に揃わない時、ある程度仮説を立てながら議論を進めなければなりません。バイアスがあると、データ以外のイメージで仮説を立ててしまうなどネガティブに作用することが多いです。
バイアスをなくすために、ダミーIDなどを用いて誰のデータかわからないように処理を加えるのも良いかもしれません。いずれにしても自分の主観や従業員へのイメージなどを切り離して、客観的に人事データと向き合うスタンスが重要です。
3つ目の特徴は、「几帳面さ・真面目さ」です。
人事では「従業員のデータ」という、非常にセンシティブなデータを取り扱っています。その役割をまっとうするために、几帳面さや真面目さも重要です。人事データを集めることは大変です。ログデータのように自動で集まる仕組みがあればいいですが、業務フローに合わせて手動でデータを入力するケースもあるでしょう。
人がデータを手動で入力する場合、データの欠損や表記ゆれなどのエラーを含む恐れがあります。例えば半角と全角の入力にばらつきがあると、データ内での同一情報が判断できない状況になってしまいます。これらを放置していると、いざデータを活用したいというタイミングにおいてデータが機能しません。
そのため表記ゆれがあれば修正し、欠損が起こっていれば担当部門にワーニングを上げる動きが必要です。常にデータ状況に気を配り、エラーに気づくことも、人事で活躍するデータ人材の素養と言えるでしょう。
ここまで、人事としてデータ活用人材になるために必要なスキルについて説明してきました。最後に、今後データ分析人材を目指す人が身に付けておきたいマインドを解説します。人事でデータ分析人材になるためのマインドは、事業におけるデータ活用と共通して、下記のようなマインドが必要です。
人事の場合、上記に加えて先ほど述べた客観的にデータに向き合う姿勢や几帳面さ・真面目さが必要だと感じます。今回は、「人事で」データ活用ができる人材の特徴と、データ分析人材を目指す人が身に付けておきたいマインドについて解説しました。
人事部のデータ活用人材として活躍したいと考えている方は、ぜひ今回解説したスキルやマインドを参考にしてみてください。人事部でデータ活用を始めようとしている場合は、本日紹介したような素養を持つ従業員を探すことから始めてみてはいかがでしょうか。
友部博教
ビズリーチ WorkTech 研究所 所長
東京大学大学院で博士号を取得後、東大、名古屋大、産総研などでコンピューターサイエンスの学術研究に取り組む。2011年、DeNAに入社し、アプリゲーム分析およびマーケティング分析などの部署を統括、その後ピープルアナリティクス施策を担当。メルカリの人事を経て、ビズリーチに入社。現在は人事におけるデータ活用を中心に研究開発を行っている。
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