パナソニックは、家電事業の新拠点として、パナソニック目黒ビルを、2023年10月2日にグランドオープンし、その様子を報道関係者に公開した。
JR五反田駅から約6分の距離にあり、2006年5月に竣工した25階建て、地下2階のビルで、延床面積は4万7843平方メートル。2023年3月までは、大日本印刷(DNP)が入居していた建物だ。
そのなかに、事業会社であるパナソニックのくらしアプライアンス社、空質空調社、エレクトリックワークス社のほか、パナソニックエンターテインメント&コミュニケーション、パナソニックエナジーが入居。さらに、流通およびマーケティング部門として、パナソニックのコンシューマーマーケティングジャパン本部、パナソニックマーケティングジャパン、海外マーケティング本部、パナソニック補聴器が入居。現時点では2300人が勤務し、今後、移転を検討している部門や新規採用の拡大などにより、2700人規模にまで増えることになるという。
パナソニック家電事業の関連部門が集結し、開発、製造、販売の一体経営を実現する家電事業の中核拠点と位置づけている。
パナソニックくらしアプライアンス社社長の松下理一氏は、「パナソニックの歴史において、かつてない形で、家電事業が一堂に会した新たな拠点であり、お客様への新たな発信基地となる。また、社員の働き方に向き合った拠点でもあり、社員一人ひとりの強みを生かし、生き生きと働くことができる拠点を目指している。社員が、快適に仕事ができ、自然と出社したくなり、組織の壁を超えて、自由に入り混じることができる職場環境の整備と、新たな働き方の創造を両輪としている。パナソニックは、『人が活きる経営』を重要な経営アジェンダとしており、これを加速することで、会社の発展と社員の成長を実現できる。お客様や社会とつながり、未来のくらしの定番となる製品やサービス、ソリューションをパナソニック目黒ビルから発信したい」と語った。
「Make new」のキーワードを打ち出し、新しい働き方と職場環境の整備、世の中の変化に対応した真のお役立ちを実現する拠点にする姿勢も打ち出した。
パナソニック くらしアプライアンス社 常務の塔之岡康雄氏は、「パナソニックは、『くらしを支えるベストパートナー』になりたいと考えている。それを実現するのは社員である。創業者の松下幸之助は、1939年に社員に対して『愉快に働いておられるか』という言葉を投げかけた。いまの言葉で言えば、『ゾーンに入る』、『フローな状態で働く』ということになる。社員が愉快に働くことが、会社の発展と社員の成長の実現につながる。パナソニック目黒ビルでは、社員がつながり、お客様とつながり、社会とつながる拠点を目指す」と述べた。
パナソニックでは、2021年10月に、白物家電を担当するくらしアプライアンス社の本社部門を、滋賀県草津市から、品川区東品川のカナルサイドビルに移転していたが、モノレールの天王洲アイル駅から徒歩約7分、あるいは品川駅からパナソニックが無料シャトルバスを運行するなど、地の利がいいとはいえなかった。今回は、2023年12月で、カナルサイドビルの賃貸契約が満了になることに加えて、建物の老朽化も考慮。さらに都心部へと移転することで、人材採用面でも効果が生まれると期待している。
「縦割りで分断された職場環境や、コロナ禍以降、気軽に会話ができる場が少なく、組織を超えた関わりが薄く、コミュニケーション不足に陥るといった課題も発生していた。さらに、首都圏で新たな拠点を持つことが人材獲得においても重要であると考えた。首都圏での人材採用を加速することに舵を切った」(パナソニック くらしアプライアンス社の塔之岡常務)と語る。
パナソニック目黒ビルで採用した人材は、勤務地や仕事場所をフレキシンブルに考える「勤務地フリー」を新たに導入するという。
パナソニック目黒ビルの新設に際しては、20代から30代前半の13人の若手社員によるプロジェクトチームを編成。「毎日行きたくなるオフィス」や、「パナソニックらしさがあふれている職場」を目指したという。
2023年2月からスタートしたプロジェクトチームは、旧オフィスにおいて実施していた風土改革への取り組みである「カルチャー&マインド改革」活動に参加していた若手社員のなかから、自らの意思で参加したメンバーで構成されている。
コンシューマーマーケティング本部やパナソニックマーケティングジャパン、くらしアプライアンス社、海外マーケティング本部の社員が参加。商品企画や経営企画、広報、人事、労政、情報システムなど、さまざまな部門から参加している。
プロジェクトメンバーが感じた課題をもとにして、新オフィスづくりのテーマに掲げたのが「組織間の活発なコミュニケーションの場づくり」「柔軟かつ効率的な仕事環境づくり」「パナソニックらしさがあふれる空間づくり」の3点だという。
パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部の梶恵理華氏は、「オフィス内で気軽な行き来が可能となり、組織の壁を越えて、自由闊達な意見を言い合える場を居室内外で提供すること、職場での働き方を想定し、最も生産性向上につながる環境を提供すること、パナソニックで働くことが実感のできる空間を提供することを目指した」とする。
パナソニック目黒ビルの様子を見てみよう。1階には、パナソニックの最新家電製品を一堂に展示。さらに、住空間を再現した空間展示や、Panasonic Qualityを実現するモノづくりへのこだわりを示した展示、IoT家電を体験できるエリアも用意している。広い空間を使って、パナソニック製品を体感できる場になっている。2階は、コンセプト展示エリアとして、パナソニックの歴史に触れることできる場を用意した。都内で、パナソニックの歴史的な白物家電製品を見ることができるのはここだけだ。また、報道関係者向けに新製品発表などを行う際の会場として、新プレスルーム「PR Square」を設置している。
4~7階の執務エリアにおいては、階段で自由に行き来ができる吹き抜け空間を用意している。これは、従来からの構造であるが、フロア間の移動を活発化できるように改良。それぞれのフロアに異なる家具や植栽を配置し、移動する楽しさを演出しているという。
また、各フロアに「FREE LOUNGE」や「REFRESH TERRACE」を用意。「気軽にリラックスしてコミュニケーションができるカジュアルな場とした。壁面アートを用意して、そこにパナソニックの家電製品が描き、社員の関心を高め、社員にお気に入りの場所を見つけてもらう狙いもある」(パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部の森脇大貴氏)という。FREE LOUNGEでは食事をすることもできる。
なお、共用スペースではパナソニック製品を利用できる環境を作り、社員自身が製品やサービスに触れる機会を創出している。「社員一人ひとりの衆知を集め、顧客に必要とされる製品やサービスを届け、くらしを支えるベストパートナーとして、事業を強化していくきっかけづくりにしたい」(パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部の梶恵理華氏)という。
オフィスのLED照明化を進め、パナソニックのLED照明である「iDシリーズ」を4900灯導入。76台の「e-block」を設置し、コンセントがない場所でも電源を確保できる利便性とBCP対策に活用。ロボット掃除機の「RULO Biz」を22台、「RULO Pro」を2台導入して、夜間にフロアを掃除しているという。ここでは、ロボット掃除機の業務利用に向けた新たな提案を模索しており、複数のロボット掃除機が動作する際にもクラウドで管理し、くまなく掃除ができるようにしているという。
そのほか、気軽に冷たいドリンクを飲むことができる冷蔵庫の「WPXシリーズ」を21台、「ビューティートワレ」を210台導入。空気清浄機である「ジアイーノ」を100台導入し、オフィス空間を快適に保っている。
7階には、「しばWORK」と呼ぶ環境を用意した。オフィスのイメージから離れて、リラックスしながら仕事をしたり、会議をしたりできる空間となっている。オフィス家具にはキャンプで使用するようなリラックスできるものを採用。また、窓際にはルームランナーを設置して、オンライン会議の増加などにより、同じ姿勢で仕事をすることが増えたことを考慮して、運動しながらPCを使ったり、マインドチェンジに効果をもたらすことを期待しているという。
8階の社員食堂は、「ビストロMEGRO」の名称をつけている。パナソニックのスチームオーブンレンジ「ビストロシリーズ」のロゴデザインを活用し、社員に愛着が生まれるように配慮したという。
毎日の食事を通じて自然と健康になれるようなヘルシーメニューを提供しているほか、「家庭の食卓ではあまり利用されない青色の食器を採用した。パナソニックブルーを意識している」(パナソニック マーケティング ジャパンPMJ本社部門の魚森紬氏)という。
また、喫食以外にも、社員同士のミーティングや対話などにも利用することを想定し、ファミレスのようなボックス席を用意。作業がしやすいように1人掛け、2人掛けの座席も用意している。終業後には、パーティーメニューやアルコール類も提供するという。
さらに、片手でもトレーを安定して運べるワゴンを導入し、バリアフリーを実現しているのも特徴だ。杖を使用する社員からは、「このワゴンによって安心して利用できている」といった声が寄せられているという。社員食堂は、午前7時から午後5時30分まで営業している。
10階には、フランクなコミュニケーション空間となる「Tsumugu-ba」を用意。キャンプで使用するような椅子なども採用している。執務フロアや会議室でのディスカッションとは異なり、気軽な会話や相談などができ、社員が自席を離れたコミュニケーションを行えるようにした。
パナソニック マーケティング ジャパンPMJ本社部門の魚森紬氏は、「人と人の関係をつむぐ場所にしたい、自由闊達な意見を言い合える場所にしたいと考えた。執務室に比べて、オフィス家具は背の低いものとしており、壁には刺繍でつむいだアートを施し、名実ともにつむぐ場所となっている」と述べた。
22階には、ソロワーク中心の「Tsudou-ba」のフロアとしている。出張で訪れた社員が一人で仕事ができるように仕切りを設けたデスクを配置。パナソニック目黒ビルに勤務する社員と出張者がすぐに会議を行える場も用意した。22階の窓からは都心部を一望できるため、ここを出張者向けのエリアにしたという。工場などに勤務する出張者が、ふだんは見ることができない都内を一望し、お客様がいて商売が成り立っていることを感じてもらえるようにしているという。
一方で、各フロアにはアート作品を配置しているのも特徴だ。4階および5階の5F FREE LOUNGEでは、丸倫徳氏によるアート作品が掲示されている。ガラスに描かれた作品は、「家電とその先のお客様のくらし」がテーマであり、作品のなかには、洗濯機や炊飯器などを見つけることができる。パナソニックらしさを表現するアートのひとつと位置づけている。
10階の刺繍アートは、小林万里子氏による作品を壁面と展示。糸を利用しており、中央のどんぐりのなかには、鹿、アサギマダラ、リスが表現されており、サステナビリティを意識したコンセプトになっている。
22階のTsudou-baには、tsumichara氏による作品を展示。ここでは、パナソニックグループの「七精神」や「物心一如」の考え方を反映。7つの色を使用したり、パナソニックの社名の由来であるソニック(音)が広がる様子を表現。メビウスの輪のようにつながる様子をモチーフに、家電製品を販売するだけでなく、販売する人の精神も豊かにするという意味を込めたという。
パナソニック くらしアプライアンス社の松下社長は、「先に入居した部門では、当初に想定していた出勤率を大幅に上回っている状況にある」と、新たなオフィスを社員が活発に利用していることを示す。
また、くらしアプライアンス社では、新たなモノづくりとして、マイクロエンタープライズ(ME)制を導入しており、職能横断で社員が参加し、商品企画から収益までの責任を持つプロジェクトが、9カテゴリー11プロジェクトで稼働しているところだ。こうした新たなモノづくりにおいても、家電事業の関連部門が集結したパナソニック目黒ビルは、プラスの効果を及ぼすことになるだろう。松下社長は、「ME制で開発した製品を、2023年度中には、数カテゴリーで発表できる」と明かす。パナソニックが挑む新たなモノづくりをサポートする拠点としても、重要な役割を果たすことになるだろう。
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