企業が生活者とコミュニケーションしていくには、何よりも「ストーリー」が重要です。この場合の「ストーリー」とは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
コロナ渦で大ヒットし、今も売れ続けている商品にカネボウ化粧品「KATE」(ケイト)の口紅「リップモンスター」があります。
コロナ禍における生活習慣上の一番大きな変化、それは「マスクをつける」ということでした。その影響はさまざまな業界に及びましたが、中でもマスクで完全に隠れてしまう口元用の化粧品である口紅に大打撃を与えました。
そんな環境下、2021年5月に発売されたリップモンスターは異例の大ヒット。2023年10月の時点でシリーズ累計出荷数は1700万本を超え、今も新色が登場するたびに注目を集めています。リップモンスターが大ヒットした要因でよく言われるのは、マスクに口紅がつきにくいという機能的な側面でした。しかし筆者は、それ以上に「ネーミング」と「ストーリー」が大きかったと考えます。
まずは、リップモンスターという名前。コピーライティングの肝として「合わない言葉を組み合わせることで化学反応を起こす」というテクニックがありますが、リップとモンスターの組み合わせはまさにこれです。
通常、モンスターのような言葉を化粧品につけることは稀ですが、なんだかスゴそうという期待感を抱かせることに成功しています。さらにそこから「モンスターが住む場所」という独特の「世界観」や「ストーリー」が生み出されているのです。
リップモンスターがすごいのは、全体のネーミングだけでなく個々のカラーネーミングに「ストーリー」があるということです。例えば「憧れの日光浴」というカラーは、「普段は夜に活動しているモンスターにとって太陽は縁遠いもの。でもだからこそ、日光浴に憧れていて……というストーリーをのせた、フレッシュなオレンジカラー」と説明されています。
「水晶玉のマダム」は「水晶玉の中に住んでいる真っ青な顔のマダムでも、この色を塗ればたちまち血の気が蘇るはず、という色」とのこと。ネーミングだけでは、説明を読んでも「じゃあどんな色なの?」ということはわかりにくいのですが、そこが逆にいいですね。
実際これらのカラーのネーミングは、「モンスターが住む世界って、こんな感じ」とストーリーを深めていていく中でイメージして名付けられたそうです。発売された時期が、コロナ禍であることを考えれば、「マスクにつかない口紅」というのはかなり重要なスペックであり、この機能だけを打ち出すような売り方もできたわけです。
しかし、リップモンスターはそうしませんでした。閉塞感のある状況で、人々の意識がリップメイクから遠ざかっていたときに、あえて独特の「ネーミング」と「ストーリー」を打ち出した。その逆張りのような戦略によって消費者の感情を動かし、爆発的なヒットにつながったと考えます。
1月10日、リップモンスターは、「MEMORIES OF RED『欲を呼び覚ます色の物語』」という新たなプロモーションを開始しました。限られた者だけが入室を許された秘密の赤い禁書庫を舞台に、女優の中条あやみさんが黒い口紅に導かれ色の記憶が眠る本を読み進めることで徐々に欲を取り戻すというストーリー。リップモンスターの色名に秘められた謎を1~6月まで毎月エピソードごとに公開するとのこと。
まだ「episode0」しか公開されていませんが、今後のストーリー展開が楽しみですね。
ケイト リップモンスターエピソード0 30秒 CM
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のコミュニケーションにはインタラクティブなストーリーがありますか?
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」