VRIコラム

「森永乳業 リプトンミルクティー 667通のラブレター」のストーリー

 企業と生活者のコミュニケーションにおいて、最も重要なのは「ストーリー」です。ここでいう「ストーリー」とは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。

 森永乳業・リプトンミルクティーの復活プロモーション「667通のラブレター」は、多くの人を巻き込むストーリーがありました。

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 1984年、200mlの紙パックでレモンティーとともに発売されたリプトンミルクティー。その後、容量のバリエーションを増やし、中身やパッケージデザインを変更しながら、30年以上売れ続け、おもに学生たちの定番商品として根強い人気がありました。

 しかしながら、牛乳を除く紙パック飲料の市場は徐々に減少。リプトンミルクティーも例外ではありませんでした。特に2020年からの新型コロナウイルスのパンデミックにより、通勤・通学や部活動が減少したことで大きな影響を受けました。

 そこで、森永乳業はリニューアルを決断。市場調査を繰り返し、従来品のおいしさを生かしながら、より豊かな紅茶の香りとミルク感を楽しめる本格的な風味に改善。2022年3月、「リプトン ロイヤルミルクティー」として新発売することになり、同時に従来の「リプトンミルクティー」は販売を終了することになったのです。

 新発売された「リプトン ロイヤルミルクティー」は当初前年を上回るペースで売れていました。しかし、SNSでは「元の味に戻してほしい」という声が数多くあがりました。森永乳業の問い合わせ窓口には、同社史上最多の667件もの意見が寄せられたのです。クレームもありましたが、「以前の味をいかに愛していたか」という声が多かったといいます。

 担当者達は「こんなに愛されていた商品なんだ」ということを実感し、「顧客にとって何が重要なのか」の議論もかさねました。そして新商品のリピート率なども考慮して、リニューアル後1年で元の味に戻して「旧発売」するという異例の決断をしたのです。

 そこで重要になってくるのが「リプトンミルクティーの復活」をどうアピールするかということ。復活を待ち望んでいるコアなファンに加えて、学生時代には飲んでいたけど離れていったしまった層や、一度も飲んだこともない層にもアピールしたい。森永乳業は「お問合せはラブレターだ」と定義して、同プロモーションの目玉として「667通のラブレター」というオリジナルアニメを制作することにしました。

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 アニメの内容は、高校生の男女が主人公。2022年3月、学校に行くと急に消えてしまったお互いを、手紙を通じて探し出す様子が描かれるというもの。実際にお客さんから寄せられた「大好きだったんです」「探し回っています」「心にぽっかり穴があいたようです」などの意見を作中のセリフとして採用しました。監督は「YOASOBI」や「宇多田ヒカル」などのPVを手掛けた映像ディレクターの篠田利隆氏を起用。人気声優の石川界人さん、前田佳織里さんが出演しています。

 3月20日、リプトンミルクティー復活発表のニュースとともに、アニメ「667通のラブレター」も公開されました。また、作品に連動したポスターやサイネージを渋谷駅構内で展開。アニメの公開に際して、お問合せをくださったお客さま向けの先行試写会やそれぞれのお手紙への返信も行ない、「#リプトンミルクティーおかえり」 というハッシュタグも設定して、喜びが広がるようにしました。


 その結果、特設サイトへのアクセス数は公開3日で1万を超え、アニメは約2カ月で2600万再生以上を記録しました。お客さんからの「復活させてくれてありがとう」の声も多く届き、売り上げも計画販売数量を上回って好調に推移しているといいます。

 では、なぜこのキャンペーンは効果的だったのでしょうか?

 まず、生活者の要望を真摯に受け止め、元の味に戻すという決断をしたことにあります。生活者との対話を重視し、彼らの声に真摯に向き合いながら、感情的なストーリーテリングを通じて復活をアピールしたことが大きな反響を呼びました。

 また、「お問合せはラブレターだ」と定義し、ファンの熱い声を青春アニメ風に表現するというストーリーを組み立てたことも大きな要素です。高校生の男女がお互いを手紙で探し出すというストーリーは、リプトンミルクティーを探し求める生活者のストーリーと重なります。それが生活者の心をつかむ原動力となりました。

 このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のコミュニケーションにも、インタラクティブなストーリーがあるでしょうか?

◇ライタープロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)

広告代理店勤務を経て、コピーライターとして独立。最近は広告制作に留まらず、「ストーリーブランディング」の第一人者として、様々な企業・団体の広告広報アドバイザーをつとめる。 近刊『ストーリーブランディング100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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