テクノロジー業界の今後の方向性を見極められる人がいるとするなら、それはおそらくTony Fadell氏だろう。
Appleに在籍中、Fadell氏は「iPod」(先頃、販売が終了した)と最初の3世代の「iPhone」を開発したチームを率いていた。その後、スマートホームを手がけるNest(現在はGoogleの傘下)の共同創設者となり、コネクテッド機器の見た目や使用感の基準を引き上げた。そのような実績のある同氏が、メタバースについて確固たる意見を持っているのは当然だろう。メタバースは、さまざまなテクノロジー企業の幹部がインターネットの未来を説明するときに用いる漠然とした用語だ。
しかし、同氏の意見は、テクノロジー業界の進歩に密接に関係した人物には似つかわしくないものかもしれない。先頃、WiredのSteven Levy記者がインタビューをした際に、Fadell氏は「メタバースなどくそくらえだ」と述べ、注目を集めた。
ただし、同氏の意見はそれほど単純ではない。Fadell氏は拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、ARとVRの中間に位置する複合現実(XR)など、メタバースの文脈でしばしば取り上げられるテクノロジーについては、可能性を見いだしている。メタバースは、うたわれているようなソーシャルインターネット革命ではない、と考えているだけだ。
自身の新著「Build: An Unorthodox Guide to Making Things Worth Making」発売後の米CNETとのインタビューで、Fadell氏は、「私はそのテクノロジーに反対しているわけではない」と語った。「私が反対しているのは、その用途や宣伝のされ方だ。それは、解決しなければならない問題ではない」
メタバースは包括的な用語であり、一般的には、人々が仮想的に(通常はデジタルアバターを通して)集まることのできるオンライン空間を意味する。メタバースは「Zoom」の通話・会議やビデオゲームと何がそんなに違うのか、と疑問に思っている人もいるかもしれない。筆者の同僚のScott Stein記者とAndrew Morse記者は、メタバースがそれらと異なる理由を非常に分かりやすく説明している。ビデオ通話と違って、メタバースの空間は、ユーザーがログオフしても消滅しない。今日存在するメタバースの例として、「Roblox」「Minecraft」「Fortnite」などのゲームを挙げる人も多い。
テクノロジー業界の大手各社はメタバースについて、インターネットの次の段階の重要な構成要素であり、人々の働き方や遊び方、社交の仕方に影響を及ぼすと考えている。しかし、Fadell氏は、次の段階に移行する前に、今日のソーシャルネットワークを悩ます問題の解決にもっと力を入れるべきだと考えている。米CNETのQueenie Wong記者が報じたように、Metaはすでに、自社のVRプラットフォーム上での迷惑行為への対処に苦労している。
「新しいコンテンツモデレーションの計画について語っていないのに、新しい社交の仕方の話をするのはおかしい。まずは、既存のソーシャルネットワークの問題を修正しよう」(Fadell氏)
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