ソフトバンクやCCC、パーソルなどで、これまでに70近い新規事業を立ち上げてきたスペックホルダー代表取締役社長の大野泰敬氏。同氏が執筆した書籍「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」が11月に発売された。
本書では、新規事業を生み出すための第一歩となる資料作りの“勝ちパターン”がつまびらかにされている。「プレゼンの際に、どんなツッコミにも“即答”できるようにするためには、徹底したデータ収集が不可欠」と語る同氏に、資料作りで役立つ情報収集のコツを聞いた。
——なぜ、プレゼンにおいて資料作りが重要なのでしょうか。
完璧な資料を準備すれば、プレゼンテーションの場面で焦ることはありませんし、役員から指摘されても動揺することはないでしょう。言い方を変えれば、万全な資料を用意しないから、指摘された時に焦りが感情に表れてしまうんです。そうなってしまうと、役員にも不安が伝わり、その企画を承認しませんよね。
やはり新しい企画を立てるためには、常に最新の情報を頭に入れておく必要があり、それが優れたアウトプットにもつながります。もちろん日々の情報を常に収集するのは難しいですし、一昔前なら調査会社などに依頼する必要がありました。
ですが、今はスマートフォンがあります。以前なら毎日作業が発生していた関連ニュースのクリッピング(新聞や雑誌の切り抜き)なども、スマホが勝手にやってくれるようになりましたし、無料のサービスを組み合わせるだけでも、十分な情報収集が可能になっています。
——データ集め(情報収集)のコツや活用できるツールがあれば教えてください。
たとえば「Googleアラート」です。特定の話題について新たな検索結果を発見すると、メールが届くサービスですが、自分がベンチマークとしているライバル企業の商品名や技術を登録しておけば、まとめてメールで確認できるので見落としを防げます。同じような理由で「Googleニュース」の検索も便利ですね。
新しい企画を立てる際には、ターゲット層がどのようなキーワードで検索をしているのか調査することもあります。今の人々は何かに関心を持った時は、必ず検索しますよね。その人たちの嗜好性を知る上で、検索内容の把握は欠かせません。そこで役立つのが、Google/Bing/Yahoo!の関連キーワードを検索できる「グッドキーワード」です。
たとえば、「タピオカ」を検索した人が、「タピオカ 作り方」のように一緒にどのようなキーワードを入力したかを知ることができます。これによって、消費者の興味が、タピオカミルクティーの店舗なのか、味なのかといったことを大まかにつかむことができるでしょう。
また、グッドキーワードには、それらの検索結果を“すべてコピーできる機能”があるので、「Googleキーワードプランナー」によって、それらのキーワードの検索ボリュームを可視化して、基本的な事業計画の作成や、PV予測も立てられます。
さらに「BuzzSumo」の併用もオススメしたいですね。これは、SNSの分析ツールで、本来は有償ですが無料でもある程度使えます。言語や国内外の地域などで絞り込み、たとえば「タピオカ」で検索すると、世界中で最も読まれているタピオカのページがランキングで表示されます。
それもFacebookやTwitter、Pinterestなど、どのSNSで特にバズったのかも一緒に表示してくれます。タピオカについてはTwitterでバズっていることが分かり、10代の女子高生がタピオカを欲しているということが予測できます。一方で、Facebookでは盛り上がっていません。
BuzzSumoを使うことで、企業がSNSに発信し、どれだけシェアされたのかを調べるベンチマークにもなりますし、商品プロモーションをする際に適切なキャンペーン展開先も絞り込みやすくなるでしょう。
——最新のトレンドを把握できるツールがこんなにもあるんですね。競合企業やマーケット調査などに使えるツールはありますか。
たとえば「Googleトレンド」で日付で検索すれば、いつ記者会見があったのか、いつウェブでバズったかなど、ライバル企業の動向を手軽に知ることができます。
競合の過去の状況について調べたい時もあると思います。ただ、そこで直面するのが、対象のウェブサイトがリニューアルしてしまっていて、遡れない問題です。そんな時に便利なのが「Wayback Machine」。非営利団体のThe Internet Archiveが運営するサービスですが、1996年からこれまでのあらゆるウェブサイトの情報をアーカイブしていて、タイムマシーンのように指定した年月日のサイトにアクセスすることができます。
しかも、どの年月日のさらに何分にアクセスが増大したかも表示されるので、たとえば「競合企業のサイトがデザインを刷新したタイミングからアクセスが増えた」といった分析にも使うことができます。
あとは、市場規模などを調べる際には「Statista」を使っています。「○○市場が急成長している」という話を聞くことがあると思いますが、検索してみてもそれを裏付ける数字が見つからないことは少なくないですよね。Statistaを使えば、たとえば「Food Tech(フードテック)」と検索すると、「2013年から2016年までのインド全土のフードテクノロジー企業の資金調達額」といった、世界中で公開されている市場のデータが表示されます。
このサービスは有料で1カ月あたり59ドルほどで利用できます。ただ、無料ユーザーでも、ハイライトレベルであればアナリストデータを読むことができます。また、日本語ページは用意されていませんが、(ウェブブラウザの)Google Chromeの翻訳機能を使えば、一瞬で翻訳してくれるので問題ありません。
日本の統計情報については「e-Stat」を使っています。日本政府の統計データを取りまとめているサービスですが、失業率・求人倍率や消費者物価指数、宿泊者数などをグラフで表示し、詳細な数値も確認できるため、事業予測の作成時などに使えます。
たとえば、商業系の新規事業アイデアがあったとして、日本全国なのかそれとも北海道だけなのかと検索条件を絞り込んでいけば、需要予測を立てることも可能でしょう。太陽光発電系の新規事業であれば、天候などを調べて進出地を絞り込めます。自分が関わるビジネスは、これらの数字を参考にしていますね。
このように、各種ツールを組み合わせて分析することで、ユーザーに何が刺さるのかが分かりますし、事業プランがしっかりしていれば、役員が「ダメ」といってもこうした情報を見せれば、“ぐうの音”も出ないでしょう。
——大野さんは、大企業の新規事業のアドバイスなどもしているそうですが、こんなにデータ集めのコツを紹介してしまってよかったのでしょうか(笑)。
日本から新規事業がたくさん生まれれば、日本全体にとっても良いことですし、その一助になればいいと思っています。それに、今回紹介したデータ収集の方法はごく一部なので(笑)。
これまで多くの新規事業の書籍に目を通してきましたが、表面的なものばかりで、具体的な知見をつまびらかにしたものに出会うことはありませんでした。やはり、皆さん(情報を)出したくないのかもしれませんね。
すでにコンサルティング企業の方などは使っていると思いますが、こうした無料のツールなどをうまく活用することで、予算が厳しくアシスタントが用意できない人でも、1人で資料を作れるようになると思います。ウェブで検索すると、そのようなツールがたくさん出てきます。
もちろん一定のコストをかけないと、より詳細な情報を知ることはできません。ですが、要約レベルでも裏付けとなるデータを提示しないと、売り上げ予測の信憑性を高めることはできないでしょう。資料の見せ方やシンプルなスライドも必要ですが、何よりもデータに裏付けられた根拠が必要だと思っています。
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