地方創生や働き方改革という旗印のもと、地方自治体による企業誘致の活動が各地で少しずつ広がっている。大都市へ人口の一極集中が進みつつあることや、将来の日本の人口減少を見据えると、人口流出が続く地方自治体にとって経済を支える働き手の確保は喫緊の課題であることは間違いない。
そのような状況の中、企業誘致などを目的にさまざまなテクノロジー企業と次々と提携し、積極的に先進的な取り組みをしているのが兵庫県・神戸市だ。地域活性化や市民サービスの向上を目的に、フェイスブック ジャパンや楽天と提携したほか、救助者発見や高齢者の見守りを目的にNTTドコモとも提携。直近の8月9日には、自治体では2例目となる電動キックボードのシェアサービス「mobby」の体験会を開催した。
また、米国発のベンチャーキャピタル「500 Startups」と共同開催するアクセラレータープログラム「500 KOBE ACCELERATOR」を2016年から実施しており、2019年ですでに4回目を迎える。さらに、神戸市内にはコワーキングスペースが続々と登場し、11月にはWeWorkが三宮に進出予定だ。一方で8月末には、東京・丸の内にあるWeWork内に、神戸市自らが一部業務を担うオフィスを設けた。
これらの取り組みを主導するのが神戸市長の久元喜造氏だ。東京大学卒業後に青森、京都、札幌など地方の要職を歴任し、総務省の重要ポストを経た同氏は、2012年に生まれ故郷の神戸へ。翌2013年に神戸市長に就任して以来、現在は2期目となる。六甲山の麓で何が起こっているのか、あるいは何を起こそうとしているのか、久元市長に話を聞いた。
——なぜ、神戸市はここまで「テクノロジー」に注力するのでしょうか。
令和の時代は間違いなくテクノロジーが進化し続けます。神戸の経済を活性化していく上でも、この進化に取り込むことは非常に大事です。テクノロジーの進化を担うのは間違いなく若い世代で、神戸がそこに注力することで、必ず若い世代が神戸に注目して訪問してくれるだろう。500 Startupsとの取り組みもそうですが、ベンチャー・スタートアップ企業の皆さんを支援することをきっかけに、世界中から若い世代に来てもらいたいと願っています。
いま世界の発展をリードしているのは大都市です。そして、優れた人材の獲得を巡って競争し、人材の集積がさらなる集積を生む構造になっています。おそらく日本においては圧倒的に東京が優位ですが、神戸としては、地方と東京以外の大都市の中で、その役割を担いたいと思っています。
これからの時代に一番大事なことは、テクノロジーの進化によって人間が、そして神戸市民が幸せになることです。テクノロジーに“使われる”のではなくて、テクノロジーの進化のメリットを市民が享受する。つまり、テクノロジーを使いこなすことが重要になってくると思います。
——現状、神戸の若者は増えていますか、減っていますか。
残念ながら減少していますね。ですが、これをプラスに転じるためにも、テクノロジーの進化への取り組みは避けて通れない課題です。そういう街であるためにはコミュニケーションが非常に重要で、バーチャル世界とリアルな世界のバランスを取ることと、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが大切です。
神戸という都市には面白い人材が集まっている、ということになれば、そういう人たちとコミュニケーションし、ディスカッションをし、アイデアとアイデアが触発し続けることで新しい何かが生まれる。それがテクノロジーの進化を担うことも十分あると思うんです。テクノロジーによってヒューマンな都市になっていくということです。
——2016年からは、アクセラレータープログラム「500 KOBE ACCELERATOR」を始めました。500 Startupsによる米国以外での本格的なアクセラレーションプログラムは世界初でしたが、どのようなきっかけで実現したのでしょうか。また、現在の進捗を教えてください。
2015年に姉妹都市であるシアトルに行ったときにサンフランシスコに立ち寄りまして、500 Startupsの取り組みを知りました。その時に日本で展開したいという話を聞き、神戸市の職員が頻繁にやりとりをして実現にこぎつけたわけです。これは非常にうまくいっています。
2019年で4回目ですが、2018年は応募してくれた237社のうち海外からの応募が134社ということで、半分以上が海外なんですね。テクノロジーの進化を担う海外の若い人たちが、神戸に注目して500 KOBE ACCELERATORに応募してくれているということは、神戸市が目指す方向に正しく踏み出せているということだと思います。
——2019年はどのようなテーマで、500 KOBE ACCELERATORを進めているのでしょうか。
500 KOBE ACCELERATORは、神戸という都市の特性と結びつけることで進化させていきます。これまでは分野は問わなかったのですが、2019年はヘルスケアに焦点を当てています。というのも、神戸は医療産業都市構想を進め、医薬品、医療機器の企業・研究所が集積しています。神戸はおそらく日本最大のバイオメディカルクラスターです。
スーパーコンピュータ「京」を活用したインシリコ創薬(コンピュータシミュレーションによる薬品開発)をしているのも神戸の特徴です。京は8月16日にその役目を終えて、実効性能が飛躍的に向上した新たな「富岳」にリプレイスされます。医療産業都市である神戸は、バイオクラスターとメディカルクラスター、そしてシミュレーションクラスターが融合した形で発展しているわけです。
そのため、今回ヘルスケア分野に焦点を絞って進めることが神戸の発展に結びつき、医療産業都市としてさらに進化させることにもつながるのではないかと思っています。ここから医薬品、あるいは未知の疾病に対する治療法などの進化につながっていけば、グローバル社会における健康・医療の分野に神戸が貢献できるのではないかと思っています。
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