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DXを「しなくていい会社」もある--Kaizen Platform須藤氏が考える真のデジタル化

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2019年08月08日 09時00分
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 インターネットやクラウド、AIやIoTといったテクノロジーが広まるにつれ、既存のレガシーなビジネスを続ける企業に対して「デジタルトランスフォーメーション(DX)すべき」という声が高まっている。しかし、DXが本当にすべての会社にとってビジネスの発展や新しいビジネスにつながるカンフル剤になりうるのだろうか。

 この疑問に対して、「DXしなくてもいい会社もたくさんある」と断言するのは、ウェブサイト改善サービス「Kaizen Platform」を提供し、多数の企業のデジタル化、DXを支援してきたKaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏だ。DXはどのような会社に必要で、逆にどのような会社には不要なのか、同氏に聞いた。

Kaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏
Kaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏

「強靱な社会インフラ」がイノベーションを止めている

——数年前にインタビューさせていただいた時に、須藤さんは「日本には作りっぱなしのウェブサイトが多い」とお話されていましたが、その状況は変わったと思いますか。

 全然変わっていないと思います(笑)。サイト開発やウェブサービスがスマートフォンベースになってきて、アプリにもなったりして、モダンにはなってきましたけど、サイトを作ることと、サイトを運営することが分断されている。本来は運営しながらサイトを作るものなのにです。

 サービスとして足りないところがあったら直していこうというように、ある程度顧客の反応を見ながらやっていくことが重要だと思うのですが、やっぱり一点突破型と言うのでしょうか、「ドカンと大規模なプロジェクトを作ればいいんでしょ」みたいな考えは今でも多いと思います。

——なぜ、日本の企業はそのようなマインドから脱却できないのでしょうか。

 日本のレガシーな経営者の方たちは、大半はマーケティングやデジタル出身の人ではないですよね。過去のパラダイムに引きずられていると思うんです。

 たとえば中国は、圧倒的にDXをしている国だと思います。レガシーがないというか、中国はいきなり(PCを飛ばして)モバイルインターネットにいって、さらにモバイルECや動画にいっている。過去の遺産があまりないので、急速にデジタルが浸透したんだと思うんです。明確に国や社会そのものが変わっていっている感じもある。

 かたや日本は民泊の法律もちょっとお茶を濁した感じですし、FinTechも(中国ほど)広がらないし、お店は相変わらず現金しか受け付けないところが多いですよね。

 ただ、日本の中だけで商売していると危機感は生まれないかもしれません。国外で何かが起きていても、自分たちには関係のない向こう側の話に聞こえているというか。「(馬車の時代に)鉄のクルマが走ってる?そんなの嘘だろ?」みたいな感じで。それが日常生活に浸透したらどれだけ便利になるかが正しく理解できていないんだと思います。

 なぜなら、日本は社会インフラがすごく強靭だからです。僕はデジタルが浸透しない理由は3つあると考えています。1つ目は「テレビ」ですね。こんなにリーチできるメディアがあるんだから、デジタルじゃなくてもいいよねと。

 2つ目は「コンビニ」です。たとえばUber Eatsみたいなフードデリバリーサービスがあっても、近くのコンビニに行けばいい。しかも、コンビニって何でもあるじゃないですか。正直すごく便利なんですよね。

 3つ目が「公共交通機関が整っている」こと。都心部はクルマを持っていなくてもいいし、ライドシェアがなくてもそれほど移動に困らないんですよね。しかも、電車は時間通りに来るじゃないですか。社会インフラがハイクオリティで整っているからこそ、イノベーションが入る隙がないというのもあります。

——確かに日本社会は便利すぎて、イノベーションが起きにくいのかもしれません。

 もちろんイノベーションが起きれば、多分いまよりも少しは便利になるんですよ。でも、他の国の社会インフラの脆弱性と比べたら日本はものすごく整っているから、「ちょっと良くなったね」で終わってしまう。強靱な社会インフラを大企業が作っているわけですけど、そこがしっかりしてるからこそ変化が起きづらいんですよね。

——あえて変わる必要はないと考えている日本企業も少なくなさそうです。

 これが答えになるかは分かりませんが、人口が減ってしまうとこのインフラは維持できないですよね。あるいはすでにもう、維持できていないと思うんです。だから、もっとコスト効率を良くしたり、ミニマイズしていく必要があるのですが、拡大基調の幻想がまだ残っている。また、コンパクト化やダウンサイジングすることが本当は必要なのですが、あまり上手くできていません。

 ダウンサイジングしないと生存できないものは今後増えていくと思うんです。たとえば、チェーン店はこれまで色々な地域に出店してきましたが、今は逆に店舗を減らしていますよね。銀行も支店を減らしていたりする。ああいう撤退戦って日本の企業は苦手だと思っていて、「もう潔く消えるか」みたいに考えがちです。でも、そういうわけにいかないじゃないですか。いい感じに少しずつフェードアウトしていかなきゃならない。

 そういうことを考えると、撤退戦にこそテクノロジーはすごく重要だと思っています。たとえば、遠くて店頭に来ることができない人でも、それこそライドシェアや民泊などがあればカバーできます。地方こそデジタルを活用した方がいいんですよね。イノベーションというのは「足りない」「欠乏する」ところに必要になるので、いずれはそういった部分でテクノロジーが普及する領域が出てくるんじゃないかと思っています。

DXによって「想定外のライバル」が現れる?

——ここからは企業のDXについて聞いていきますが、須藤さんの考えるDXの定義はどのようなものですか。

 僕としてはDXの鍵はBtoCで、エンドユーザーの顧客体験にあるんじゃないかと思っているんですよね。

 さきほど中国の話をしましたが、中国企業のアリババは、スマートフォンでクルマが買える自動販売機を作りました。自販機で買えるというインパクトもありますが、それよりも注目すべきは、その場で買いたい人のローンが通るかすぐ判断して、購入者がすぐに乗って帰れることです。テクノロジーの結晶なんですよね。見た目が面白いみたいな話ではなくて、これを実現している思想みたいなものが恐ろしいほど進んでいるなと。

 今やアリババは中国で一番クルマを売っている企業であり、中国最大の自動車ディーラーです。アルファロメオは過去に何回か中国市場に参入して失敗しているのですが、再参入にあたりアリババが手がけたことで、350台用意した新車をたった33秒で売り切りました。

——圧倒的なスピードですね。

 同じくアリババが運営しているスーパーマーケットの「フーマー」とか、Uber Eatsに似た「アーラマ」、ECサイトの「Tmall」なんかは、売上げは数兆~数十兆円もある。「Alipay(アリペイ)」の決済額は年間200兆円と言われているし、動画サイトもやっています。

 アリババはこれを全部1つのIDでやってるんですよね。だから、顧客1人1人がどういう人たちかがはっきりとわかる。この人は海外ブランドが好きなんだなとか、どういう動画を見ているかとか、試乗会をやったらどれくらいの確率で売れるかとか、当然のようにわかる。買う確率を計算で出せるわけです。

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——そこまでできると、企業にとってもユーザーにとっても、まさしく世界が変わりそうです。

 中国に滞在したときにアーラマを何度か利用したのですが、何が便利って、たとえば今この席に料理を持ってきてくれること。しかも安い。配送料は数十円だし、近場のほとんどの店のメニューが30分以内で届くので、そうなるとコンビニにわざわざ弁当を買いに行く必要がなくなります。

 コンビニだと工場で作った冷めた弁当を買うわけですよね。それをレンジで温める必要がある。アーラマはキッチンからそのまま送られてくるので、温かい美味しいご飯がすぐに食べられる。しかも、麻婆豆腐屋やオムライス屋のような、1つのメニューしかないお店がめちゃくちゃ人気があったりする。座席のない、キッチンしかないような“ゴーストレストラン”がたくさんあるんです。

 日本のレストランだと、内装や接客で評価されたりしますけど、中国だと味だけおいしければいいみたいなところもある。そういうお店が出てきて何が起きたかというと、コンビニが大きなダメージを受けているんですよね。

——フードデリバリーとコンビニが競合しているんですね。

 コンビニからしてみれば、フードデリバリーがライバルになるとは考えてもいなかったと思うんです。「便利」の概念が変わってきているというか、そういうことが起きるのがDXだと思っています。「デジタルトランスフォーメーションって何ですか?」とよく聞かれるんですけど、「人間や社会が変わること」なんじゃないかなと思うんですよね。

 似たような話は日本にもあって、子ども服やベビーカーを取り扱っているあるブランドが業績を下げたのですが、それは「メルカリ」の影響だと言われています。ベビーカーは作りがしっかりしているから古いものでもいいし、使い終わった後は高く売れる。メルカリが出てきたことで、みんな「これは売れるな」と思いながら買う世の中になりました。

 これも子ども服のメーカーは、自分たちのビジネスがメルカリに破壊されるなんて多分考えていなかったと思うんです。新たに出現した新興の子ども服ブランドが台頭するのならともかく、全然違うカテゴリの人たちに足元をすくわれるという……。エコシステムが変化している、思考が変わってきていると感じます。

——DXによって想定外の変革が起きていると。

 DXという言葉は「自分たちのビジネスをデジタルの力で変革する」という文脈で語られがちです。でも、それはサプライヤー側のDXの話で、受け手であるユーザーから見たときのDXはそういうものじゃない。ユーザーが抱えている問題や課題、ニーズを解決するためのものであって、UXや顧客体験を変えるデジタルというのが本来的なデジタルの脅威だし、意味のあることだと思うんですよね。

 芋虫が蝶になったらもう元には戻れないような、そういうイメージではないでしょうか。キャッシュレスで言えば、財布を持ち歩かなくなったらトランスフォームしたと言えるんじゃないかなと思います。

——これだけキャシュレスのサービスが増えても、ほとんどの人は財布を持ち歩きますね。

 そうなんですよね。最近知って面白かったのが、大手企業のオフィスビル内のコンビニに、混雑緩和のために顔認証の決済システムと、社員証を使用した給料天引きの決済システムをそれぞれ導入したら、お小遣い制の人がこぞって給料天引きのシステムを使ったという話です。

 世の中の会社員はお小遣い制になっている人が多いんだなと思うと同時に、給与天引きの決済というのは、そのお小遣い制をハックする仕組みになっている。それが普及するのは当たり前だなと。だからDXって難しく考えるものではなくて、そういう簡単なことでいいんじゃないかと思っています。

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